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作業療法士です 利用者と話せず、リハビリができません【お悩み相談室】

車椅子に腰かけるひと

作業療法士の野村和代さんが、認知症の様々な悩みに答えます。

 Q.作業療法士になって1年くらい経ちますが、今回担当することになった初期の認知症の男性(76歳)がほとんど会話をしてくれません。リハビリを始める前に本人が困っていることや解決したいことなどを聞きたいのですが、ご家族からしか情報を得られず、それでいいのか悩みます(23歳・女性)

A.私はリハビリテーションの専門学校で教員をしており、よく学生から「利用者と何を話していいかわかりません」という相談を受けます。でも、リハビリの目的は利用者と友だちになることではないですよね。大事なのは利用者がどんな人でどんな援助を必要としているのかなど、心身の機能を評価(判断)すること。リハビリテーションは「評価に始まり、評価に終わる」と言われることもあります。会った瞬間から表情や姿勢、身だしなみなどを観察し、利用者を多角的に評価していきます。そして利用者が抱える問題点を明確にし、それを解決して達成する目標を定めます。そして目標に到達するためのプログラムを立案するのです。

この男性は、なぜ相談者と会話をしないのでしょうか。会話をしないことがこの方が抱えている問題点の1つであり、作業療法士としてその原因を探り、対応していくことが大事です。家族とは話すのか、もともと無口なタイプなのか、認知症になってから話さなくなったのか……。本人から話を聞き出そうとする前に、まず会話をしないことについて、分析してみてください。

確かに目標やプログラムを定める際には、本人や家族の要望も大切にします。まずは家族や担当のケアマネジャーから必要な情報を間接的に収集できればいいと思います。また、本人からの情報収集は会話だけではなく、一緒に何かをやってみて、その様子を観察することからでも得られます。家族に本人の趣味や好きなことを聞いて、庭いじりや将棋など一緒にできそうなことを見つけるといいでしょう。何ができて何ができないのか、どんなことに困っているのかといった、作業をしているときの様子をよく見ることは、会話からの情報収集以上に大事なことです。

もちろん、会話することは脳の活性につながり、リハビリテーションの成果も上がるので、できれば話してほしいですよね。家族から聞いた本人の好きなことが、会話のきっかけになるかもしれません。例えば釣りが好きな人だったら、「船で行くんですか」と質問してみたり、一緒に動画を見たり。私が関わっていたデイサービスでは、男性だけが座っているテーブルは、ほぼ会話をしていなくて。認知症の男性は、女性に比べて話さない方が多いですよね。ただ、趣味の話題になると会話が弾むことがありました。

作業療法で用いる評価には、さまざまなツールがあります。基本に立ち戻って、得たい情報を会話以外から引き出すための評価方法を利用するのもいいでしょう。

利用者を1人の人として、冷静に多角的に評価することを大事にしてほしいと思います。

【まとめ】訪問リハビリの利用者が会話をしてくれなくて、困っていることや解決したいことを聞き出せないときには?

  • 会話をしないことを利用者の問題の一つとしてとらえ、分析し、対応する
  • 表情や姿勢、身だしなみのほか、何かを作業しているときの様子など、利用者をよく観察して会話以外の情報収集を大事にする
  • 認知症の人の状況を把握するための評価方法を利用する
  • 利用者が好きだったことや趣味のことを話題にする

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