料理好きの母の味が変わった 認知症は軽度のはずなのに【お悩み相談室】
構成/中寺暁子
作業療法士の野村和代さんが、認知症の様々な悩みに答えます。
Q.半年前に母がMCI(軽度認知障害)と診断されました。母と同居している父から「最近母さんの料理の味がおかしくて、食べられない」と言われました。認知症が進行しているのでしょうか。料理は好きなので、なるべく続けさせたいです。(56歳・女性)
A.認知症と味覚障害との関連については、嗅覚(きゅうかく)障害ほどは多くありませんが、いくつか研究報告があります。それによると、認知症に伴って甘みや苦み、塩味などの味覚を感じる機能にも変化が起こるようです。その結果、味に対する嗜好(しこう)が変わるのではないかと報告されています。このように認知症によって味の感じ方が変化することによって、お母さんの料理の味つけが変わってしまうというのは、考えられることです。
味覚の変化は認知症の初期から出現する場合もありますが、相談者が心配されている通り、認知症の症状が進行している可能性も否定できません。可能であれば、MCIの診断を受けた病院を受診してみるといいでしょう。
料理については、できるだけ続けてもらいたいですよね。調理には多くの工程があり、段取りが重要になります。献立やレシピを考える、必要な材料や道具をそろえる、手順をふむ、包丁などの器具を操作する、味つけする……。作業を列挙してみると、その多さに驚きますよね。このため調理は、多角的な視点からリハビリテーションへの応用が可能な作業なのです。例えば、日常生活の自立を目的としたリハビリに応用したり、動作の面から身体機能のリハビリに応用したり、段取りが必要という部分に着目すれば認知機能を維持、向上するリハビリにもなるのです。
問題は、お父さんが「お母さんの料理を食べられない」と言っていることですよね。そこでお父さんが少し調理に関わって、「暇だし、味見しようかな」「ちょっと味を足そうか」と言って協力されるのはいかがでしょうか。お母さん自身も自分の調理に不安があるかもしれないので、お父さんにそうしてもらえると安心するかもしれないですよね。火の消し忘れを防ぐなど、危険がないように見守ることもできると思います。
例えば、家事はお母さん任せで、キッチンにほとんど入ったことがないようなお父さんだと、いきなり調理に協力するのは難しいかもしれません。そんなときは、相談者の出番です。まずお父さんに「認知症の進行を防ぐためにも、お母さんに料理を続けてもらったほうがいい」という話をして、お父さんに味見してもらうように頼むといいでしょう。最初は相談者がご実家に行って、事前にお父さんと打ち合わせたうえで、お母さんの前で「お父さんも座っているだけじゃなくて、少しはお母さんのこと手伝ったら?」などと声がけすると、自然な流れでお父さんがキッチンに入れるかもしれないですね。
それもうまくいかなければ、訪問リハビリを利用して、作業療法士にキッチンに入ってもらい、お母さんと一緒に作業をしてもらうというのも一つの方法です。料理がうまくできないことで、お母さんは喪失感を抱いているかもしれません。そうしたメンタル面のフォローも、作業療法士の役割です。
認知症が進むにつれて、さらに調理は難しくなってくるかもしれません。そんなときは、たくさんの工程がある調理の強みを生かして、お母さんができる工程だけを続けてもらえるといいですね。例えばおかずは宅配を利用して、お米研ぎだけは続けてもらうというように、進行に応じて目標を変えていくといいと思います。本人は自分の失敗に気づくものなので、できなくなったことを責めるのではなく、できることを褒める。そのことを忘れずに関わっていきましょう。
お母さんの自尊心を傷つけることなく、なるべく長く、料理を続けてもらえるといいですね。
【まとめ】MCIの母がつくる料理の味がおかしく、同居するお父さんが「食べられない」と言うときには?
- 認知症が進行している可能性があるので、診断を受けた病院を受診する
- リハビリにもなるので、お母さんにはなるべく料理を続けてもらう
- お父さんが味見をするなど、お母さんの調理に協力する
- お父さんの協力が難しい場合は、訪問リハビリを利用して作業療法士に家族が調理に介入するポイントを見極めてもらう