蛭子能収さんの今の暮らし 妻への「ありがとう」インタビュー後編
構成/熊谷わこ 撮影/伊ケ崎忍 聞き手/松浦祐子
漫画家の蛭子能収さん(73)が、アルツハイマー型とレビー小体型の認知症を併発していると診断されて約1年。最近の過ごし方やこれからについて、前編に引き続き語ってくださいました。
※前編から読む
──2020年の夏に初期の認知症であることを公表した時は、どんな思いだったのでしょうか?
蛭子さん 自分では割と簡単に考えていました。床屋に行くような感じです。いつもとはちょっと違うかもしれないけど、生活が大きく変わるようなこともない。だから周囲が認知症と言っているだけで、本当は認知症に罹っていないかもしれない、なんてね(笑)。周りが認知症だと言っているだけで。
──逆に、こうやって周りが認知症で取材にくるのが不思議な感じもしますか?
蛭子さん そうですね。だから(認知症について)たいしたことは言えなくて、申し訳ないような気もしています。
人を笑わせたい
──お仕事の調子はどうですか?
蛭子さん あまりしていないですね。たまに漫画を描いたり。でも働いていたいです。働いてお金が欲しい。やはりお金に対する思いが強いんですよね。働かなくてお金が入ってくるならそれが1番いいですけど。
──絵のタッチは病気になる前と、なってからでは変わりましたか?
蛭子さん そんなに変わらないと思います。自分ではよくわからないな。(マネジャーに)どう?
マネジャー 僕が見る限りでは、輪郭とか、少し変わったような気がします。
蛭子さん 雑になった?
マネジャー ちょっと雑になったかな。
蛭子さん 最近ちょっと絵が乱れていてあまり熱心にやっていない感じがして、それが気になっています。描くなら時間をかけてしっかり描きたいですね。
──あまり認知症のことを漫画やイラストにしようとは思わなかったですか?
蛭子さん そうですね。認知症のことを描こうという気には、なんかなれなかったですね。
──女性誌で悩み相談に回答するお仕事も続けていらっしゃいます。回答を考えるのは大変ですか?
蛭子さん ちょっと難しいですよね、人の悩みはね。でも俺は自分が思っているとおりに素直に答えています。難しく考えず、頭の中に浮かんだことをそのままアドバイスすればいいんじゃないかな。
──「今後、こういうことをやってみたい」という希望はありますか?
蛭子さん 人を笑わせたいとは思っているけど、具体的にはどうしたらいいのか。ぜひ笑わせないとね。
自然に「ありがとう」が出てくるようになった
──認知症になって、奥様と一緒に過ごす時間が増えたそうですね
蛭子さん 女房は神社巡りがすごく好きなんです。俺も一緒に行っています。神社って必ず階段があるから、上り下りはいい運動になります。以前、バスで旅をするテレビ番組に出ていたときはいっぱい歩いてすごくきつかったですが、あのくらい歩いたほうが体のためにはいいよね。
──先ほど「働いてお金が欲しい」というお話がありましたが、奥様と旅行に行きたいとか?
蛭子さん 女房はそう思っていて、それがすごくわかりますね。
──蛭子さんの本に「最近は奥様にありがとうと言うようになった」と書かれていました
蛭子さん そんなこと書いたかな。でも昔は恥ずかしくて言えなかったけど、今はありがとうって言えるかな。
──自然に出てくるようになったのでしょうか?
蛭子さん 自然に言えていると思いますね。自分では全然考えた感じがしないんだよね。
いつもそばにいてくれる安心感
──認知症になった方に、伝えたいメッセージはありますか?
蛭子さん 俺のようにすでに認知症になっていたら元に戻せるわけではないし、まあいいか、みたいな。人間だしこんなこともあるよねっていう感じです。やっぱり病気はなりたくないですよね、ならないほうがいいけど俺自身は変わらないから。
──蛭子さんが以前と変わらず生活できるのは、蛭子さんご自身の自然な心のありようだけでなく、奥様やマネジャーさんなど、そばで見守っている方々の存在も大きいでしょうか
蛭子さん みんな俺のことをよくわかっているし、いろいろ教えてくれるからすごく勉強になりますね。
──そばにいてくれると安心感がありますか?
蛭子さん それはもう。いてもらったほうがいいのに、俺が自分の好きなことを選んだり みんなで麻雀したり、そんなようなことばっかりして呆れられているから。それでもみんなそばにいてくれるのは、ありがたいですね。「いつもありがとう」って、言うしかないかな(笑)。
──すてきですね。ありがとうございました