徘徊SOSネットワーク登録 本人写真は「記念撮影」で もめない介護120
編集協力/Power News 編集部
「認知症の母親が、いつか徘徊するのではないかと心配です。ケアマネさんに、地元にある『徘徊高齢者等SOSネットワーク』への登録を勧められたのですが、親に話すと『徘徊ってどういうこと!?』と、怒り出しそうで切り出せずにいます」
遠距離介護中の方からいただいたご相談です。全国各地には、自治体や警察、地域包括支援センター、地域の企業、住民団体などが連携し、高齢者の方が行方不明になった時に捜索に協力してもらえる仕組みがあります。名称はさまざまですが、「徘徊高齢者等SOSネットワーク」「見守りSOSネットワーク」などとなっていることが多く、「市区町村名 徘徊 ネットワーク」で検索すると、見つけやすいかと思います。
市区町村によって運用方法は若干異なりますが、多くの場合、あらかじめ、本人の氏名や年齢、住所、身体的特徴などを登録します。そして、徘徊による行方不明が発生したという連絡が家族からあると、関係機関同士で情報が共有され、発見に向けて動いてくれます。
我が家の場合は「お墓参り」と「架空請求はがき」をそれぞれきっかけとして、義父母が周囲には何も告げずに外出し、すわ行方不明かと大捜索になる騒動が起きた時にお世話になりました。
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あらかじめ登録しておいたおかげで、ケアマネさんとも、
「SOSネットワークにも捜索協力をお願いしていいですか」
「お願いします」
と、ごくシンプルなやりとりで、地域のさまざまな機関の方に協力を仰げるというのは心強かったです。
すでに義母がふらりと出掛けてしばらく帰ってこないことも
しかし、我が家も直面したのが名称問題。「認知症」という文字が申込書類のあちこちに書かれていて、これを見た義父母が機嫌よくOKしてくれるとはとうてい思えませんでした。義父母はそれぞれ、いったんはアルツハイマー型認知症であると認識していますが、その後、忘れてしまっていました。わたしも夫も、こちらから指摘する気はありませんでした。
とはいえ、登録はなるべく早く済ませたい気持ちでいっぱいです。というのも、義母は介護が始まってすぐのころから、徘徊を思わせる行動が目撃されていました。義父によると、夕方や夜になると突然、「お父さま(義父のこと)が帰ってこない」と言って、ふらりと玄関を出て行き、しばらくそのまま帰ってこないということが何度かあったと言います。
「家内は私のドッペルゲンガーを見ているようなんです。いきなり捜しに行ってしまうので心配しています」
ドッペルゲンガーは、自分とそっくりの姿をした分身のことです。自分はここにいるのに、唐突に「いない」と決めつける不可解な義母の言動について、義父は「ドッペルゲンガーが存在する」と考えることで、なんとか自分にとっての帳尻を合わせているようでした。
一方、義母は「そんなことあったかしら」とケロリとしたものです。この時点では、多少迷子になることはあっても、しばらく経てば自宅に帰ってこられていましたが、いつどうなるかわかりません。少しでも早く、お互いのストレスも少なく、徘徊SOSネットワークに登録するために、次のような方法をとりました。
(1)申込書類の現物は義父母に見せない
それまでは介護保険のサービスの契約書類などは、すべて義父母にも見せ、記入する際も書けるところは書いてもらうなど原則、一緒に手続きするよう、心がけていました。自分があずかり知らないことで、自分について決められるのはきっと不愉快だろうと思っていたからです。
一緒に手続きをすれば、愚痴や文句を言う機会もあります。気に入らないことや気に食わないことは早めに言ってもらって、改善や調整ができるものは対応する。対応が難しいものに関しても、文句をいったんは受け止めることで最低限、ガス抜きはできるという利点があると考えました。
でも、今回は「徘徊」の言葉のインパクトがあまりに強く、見せてフォローするより、見せないほうがよさそうだと判断しました。
「万が一、外出中に足が痛くて動けなくなったり、道が分からなくなったりした時に、地元のみなさんが案内に困らないよう、事前に登録しておく仕組みがあるんです。80歳以上の方はみなさん、登録されているというので、うちも登録してもいいですか?」
たしか、こんなふうな打診をしました。
「そんな仕組みがあるの? 世の中便利になったわねえ」
「このあたりは、福祉の制度が充実しているようだね」
義父母はとくに迷うことなく、登録を承諾してくれたので、そのまま、申込書類は代筆し、役所に提出しました。
(2)写真は、通所リハビリ施設の見学時に撮影
申請書類のなかで入手するのに少々苦労したのが、写真です。「本人の特徴が分かる全身写真と顔写真をご用意ください」とありましたが、もともと疎遠だったこともあり、手元には該当しそうな写真が1枚もありません。義父母がアルバムをどこにしまっているのかも知らないし、そもそも条件に合うような写真を持っているかどうかもわからないのです。
なるべく自然な形でパッと写真を撮ってしまいたい。でも義母は写真が苦手なのか、カメラを向けると「あら、いやだ。なあに?」と顔を隠します。「写真を撮るなら、お化粧をしなくちゃ」と言うわりに、お化粧を始めてくれるわけでもなく、ひたすら逃げ回るのです。これは困った!
夫と相談し、通所リハビリ施設の見学に行く際に、適当な口実をつくって撮影しようと作戦を立てました。
一緒に見学に行く義姉やケアマネさんにも情報共有し、いざ施設へ。当初は見学中にさりげなく撮影するつもりでしたが、義母がちょこまか動き回る上に、義姉がなぜか義父母の前を歩くため、なかなかシャッターシャンスがありません。
見学がもう終わってしまうという最後ギリギリのタイミングで「記念撮影しましょう!」と半ば、強引に割り込んで、なんとかカメラに収めることができました。セーフ! いつもは写真を嫌がる義母も、この日はニコニコと笑顔を振りまいていたので、記念撮影という設定も結果オーライだったのかもしれません。
なお、この時撮った写真はその後、義父が入院し、義父母が離ればなれで過ごすことになった時、お互いの病室や施設に持っていってもらう写真としても活躍しました。お互いに年を重ねると、家族写真を撮る機会もグッと少なくなります。ちょっとした機会を逃さず意識的に撮影しておくと、ちょっとした思い出づくりはもちろん、介護の実務にも役立つ瞬間がやってくるはずです。