ヤスデノコヅチ

「忘れないようにメモ」したけれど忘れちゃう メモに最適な場所はココ

『えーっと、今日の予定は、うーん』

認知症の祖父をとりまく一家の物語。置物が割れて飛び出してきたのは、大黒天ならぬ安黒天。認知症の症状に応じる便利なグッズを発明するアイデアマンだった!
忘れないように今すぐメモしたい。でも書く物がない。そんな時どうする!?

安黒天笑
安黒天(やすこくてん)
認知症の人の生活を支援するグッズ発明の神様。一見して大黒天のような風貌だが、違う。メガネをかけているのが最大の特徴。ちょっとナイーブ。

祖父笑

おはよう。よしえさん。今日はだれか来る予定はあったっけ

母笑

2時にヘルパーの田中さんが来ますよ。なんです? お義父さん、そのノート

祖父笑

よしえさんに何度もきくのは申し訳ないからな。なんでも自分でメモしておこうと思って用意したんだ

お義父さん、そんなお気遣いを……

祖父笑

よしえさんにはいつも苦労かけてるからねぇ。本当によくやってくれてるので感謝してるんだよ

お、お義父さん……そういってもらえたら私も報われます(グスン)

祖父笑

……で、だれが来るんだっけ?

母笑

えっ、ええ。今日はヘルパーの田中さんが来てくださいますよ

祖父笑

田中さんね。よし。えーと、空いてるページは……
あった! で? 誰が来るんだっけ

母笑

ヘルパーの田中さんです

祖父笑

田中さんね。えーと、ペン、ペンは……
あった! で? 誰が来るんだっけ

田中さんです

祖父笑

「た・な・か・さ・ん」っと。これでよし!(パタン)
……で? 誰が来るんだっけ?

母怒

田中さん! さっき書いたじゃないですか!

祖父笑

ん? どのページに書いたっけ? ……うーん、仕方ない、もう一回書くか。
……で? 誰が来るんだっけ?

母怒

田中ッ!! え? なにこれ? ループしてる?

祖父笑

えーと、空いてるページは……
あった!……で? 誰が来るんだっけ?

母怒

あわわ……も、もしやこれは時空のゆがみ!?

祖父笑

えーと、ペン、ペンは……
あった!……で? 誰が来るんだっけ?

母怒

ひーー!! 完全にタイムリープだわ! だっ誰か! 誰かなんとかしてーっ!!

ぼわーん(煙を想像してください)by 編集部

安黒天笑

およびかなー?

祖父怒

おまえは! 昭和48年の旧正月にばあさんが露天で半額で買った大黒蔵!

母笑

だっ、大黒さま! こんな亜空間まで、私をたすけにきてくれたのね!

安黒天笑

安心せい。亜空間でも、紀州藩でも、学園祭の前日を永遠に繰り返すタイプの映画でもないぞ。何かお困りのようじゃな

いや~~どうもこうも、うまく予定が覚えられなくて困ってるよ

安黒天笑

ほっほっほ。そんなもの、無理に覚える必要はまったくないぞ。記憶なんて外付けで十分! 他の記憶装置に移し替えておけばいいのじゃ

いや、それがどーもうまくいかなくて……

安黒天笑

ほお。ノートをとるのはとてもいい方法じゃがな?

私もそう思ったんだけど…。どうやら穴の空いたバケツみたいに、ノートに移す前に書くべきことがこぼれおちちゃうみたいなのよ

「あれ?」「いそげいそげ!」「よーしいくぞ!」
安黒天笑

なるほどのお。記憶を移し替えるスピードがいまいち間に合わないんじゃな

その場でレコーダーに録音するっていう手もあるかもしれないけど、お義父さんはその手のものは苦手だし……

安黒天笑

う~~む、そうか。実はな、わしも、この記憶の移し替えのスピードというものには昔から注目してきたんじゃ

母笑

そうなの?

安黒天笑

大事な情報をあとで書こうと思ってたら、たいてい忘れてしまうからのぉ

ほんと、そうよね

安黒天笑

わたしは情報を猛スピードで移し替えるために、長年トライ&エラーを繰り返した。ありとあらゆることを試してみたんじゃ。そう、記憶がこぼれ落ちる速度よりも早く外部装置にたどり着くために……

で、どうなったんだ?

安黒天笑

そしてついに……ついに驚愕のラップタイムをたたき出した。とうとう生み出してしまったんじゃ! 光速のモンスターを! サーキットの狼を!! 炎を噴いて疾走する禁断のアンリミテッドカーを!!

母笑

なにそれ! かっこいい!

安黒天笑

なんぴとたりともオレの前は走らせねえっ!!

祖父怒

キャラ変わっとるぞ!

安黒天笑

そう。わたしのあみだした命知らずの記憶の運び屋、最速最強の爆走マシンとは……これじゃーーっ!!!

母怒

う、腕?

安黒天笑

腕じゃ!!

まっ、まあ、腕にメモする人はいるけどね……

祖父笑

現場仕事の人とか、小学生とかよくやってるな

安黒天笑

これぞ最速っ!! 書くものを探す時間を完全カットできるんじゃ!

う~ん。でも、あれもこれも腕に書いてたら耳なし芳一みたいになってしまうぞ?

やめて~。新手の虐待かとヘルパーさんに思われるー!

安黒天笑

ふむ。まあ、このまま書いてもいいんじゃがな、最近は便利なものがある。これを使うがいい! いくぞっ! ターボ・オンッ!!

ぼわーん(そう、煙です。ありがとうございます)by 編集部

ふせん式メモ「3時にヘルパーが来ます」「今日はデイです」「今日は5月5日です」
母怒

ふせん!?

安黒天笑

全面強粘着のふせんじゃ! 手や服に張っても数時間ははがれんぞ

たしかに腕に直書きよりはいいけど……でもなんか、ちょっと見た目が……

祖父笑

いや、これならどこに書いたかわからなくなるということはないな

安黒天笑

じゃろ? あらかじめ何枚かはっておけば書くものを探す手間もないぞ。さらにいえば、用事がおわったらすぐはがして捨てられるんじゃ

母笑

ううーん。それはかなりいいわね。ToDoリストにも使えそう

安黒天笑

うむ。さらには「大事な用件は両腕に書いておく」という技も使えるぞ!

母笑

えー!? 両腕ー!?

安黒天笑

そう! 見よ、必殺! ダブルリマインダー!!

ダブルリマインダー!
母笑

あははは。いいけど、ちょっと外で使うのははばかられるかも

安黒天笑

まあな。だが、そういう人には、わしの発明した「時計バンド式メモ帳」があるぞ! 一見普通の腕時計じゃが、このようにバンドを開くと、ジャーン! すぐにメモがとれるんじゃ

時計バンド式メモ帳
祖父笑

おおおお!

安黒天笑

さらには重要情報を入れておくクリアファイル、伸び縮みする筆記具も内蔵じゃ!

母笑

あははは! なにこれ。もう完全にスパイグッズじゃない! 何ムス・ボンドなの? すごすぎーー!!

言語聴覚士 安田清さんの解説

【ウェアラブルメモ】

いまではアラームやリマインダーといった、さまざまな機能を持つスマートウォッチが発売されています。ですが、高齢者の場合はその場でサッと書き込める、手づくりのウェアラブルメモ帳がやはり便利だなと思うときがあります。なかでも、腕につけたバンドにメモ用紙を貼り付けた、“時計バンド式メモ帳”はすぐに用件を記入できるため、認知症当事者にも有用です。

人の名前や大切な人の電話番号をメモする時、もしくは病院などで「次は何番窓口に行き、会計をし、次回予約を」と言われ、その場でメモしておきたいとき。忘れないうちに書けるというのはそれだけで意味があることですし、こうした個人の行動に寄り添った機能がスマートウォッチにできるか、というとそこは難しいと思うからです。

小学生が忘れ物をしないように、と腕に直接マジックでメモを取る。その感覚です。時計バンド式メモ帳のいいところは、「存在を忘れにくい」ということ。時計は密着感があるものなので、つけていないと「あれ? なんだか腕が寂しい」と感覚で気づくことができます。

両手を使うことなく、片手で書き込めるのもポイント。そうした意味では、市販の鏡ケースの鏡を外し、メモ帳を入れカバー部分をクリップなどで服のポケットに留める方法もおすすめです。

たとえば5秒経つと忘れてしまう認知症当事者の方なら、カバンから手帳を取り出し、紙をパラパラとめくって文字を書こうとしているうちに書きたいことを忘れてしまう。だから、なんとか1秒で書けるようにしなければいけないし、その方法を考えていかなければいけない。周囲は「何度も同じことを聞かれて困る」と言ってしまいがちですが、それをどう解決していくかを常に考えなければいけないんです。

これまで、こんなに高齢者が増えた時代はなかったんですね。もっと認知症当事者向けのグッズが充実していてもいいはずなのですが、その発想自体がなかった。そんななかで、腕につけられる、洋服に取り付けて持ち運べるメモ帳というのは、文房具の長い歴史の中で新しい発想だと思います。「何度も聞くのはしょうがないことだから教えてあげよう」ではなく、認知症当事者がどんなことに困っているのかを考え、それを解決していくためのツールを考えていかなければいけない、と思っています。私のホームページではいくつかのメモ帳とその作り方を公開していますので、ご参照ください。https://gensoshi.jimdofree.com/

安黒天笑

どうじゃな。ワシのアイデアグッズは。これでこぼれおちる記憶も減るかもかもしれんぞ

祖父笑

ああ、助かるよ。……あんた、とんでもないスピード野郎だな

安黒天笑

そうさ、チェッカーフラッグはまだふられちゃいないんだぜ

母笑

なんなのもう(笑)

安黒天笑

ほっほっほ。ではまたな

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