介護が始まったら「貸金庫」契約はお早めに もめない介護118
編集協力/Power News 編集部
「介護が始まったら、貸金庫があると何かと便利よ」
そう教えてくれたのは、祖母の遠距離介護をしていた経験がある母でした。家族としては、訪問介護(ホームヘルプ)を始めとする介護サービスを導入したい。でも、親が「他人に家の中に入られるなんてイヤ」と言って承諾してくれないのは、“介護あるある”のひとつ。拒否感が発動する背景には、「散らかっている部屋を見られるなんて恥ずかしい」「“できない人扱い”されるのが不愉快」などさまざまな思いがあります。
親がひっかかりを覚えるポイントの1つ、「知らない人が自宅に出入りして、何か大切なものを盗まれたらどうするの!?」という不安感をやわらげるのに貸金庫は役立ちます。預金通帳や有価証券、契約証書などの重要書類はもちろん、現金や貴重品なども極力、自宅には置かないのがポイント。貸金庫に預けておけば、親に対して「貴重品は貸金庫に預けてあるから大丈夫」と説明しやすく、“盗った・盗られた”のトラブルも未然に防げます。
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「手元に現金がないと不安だから」と親が言うのを聞いたことがありませんか。数万円単位の話だろうと聞き流していたら、実は100万円単位の話だったなんてこともあるので注意が必要でもあります。親も納得のうえ、貸金庫に預けるなどして、「多額の現金は手元に置かない」というスタイルに移行しておけると、のちのち気をもむ材料を減らすのに役立ってもくれそうです。
義父から預かった通帳の束を早く安全な場所へ
我が家の場合、貸金庫の契約に踏み切ったのは、認知症介護がスタートして数カ月後のことでした。当初は「お金の管理をどうするか」について方針が定まっておらず、年間利用料としてランニングコストがかかる貸金庫を契約する踏ん切りがつかずにいました。ところが介護サービスの契約にあたって、義父母がすでに通帳や印鑑の管理が難しくなっていたことが判明。「今後のことを考えて、お金の支払いの手続きを手伝わせてほしい」と切り出したタイミングで急きょ、貸金庫を手配することになりました。
実はこの時、義父はすでに地元の銀行に貸金庫を持っていました。利用料の節約を考えるなら「代理人登録」をしてもらい、義父の貸金庫を一緒に使わせてもらう手もありましたが、出し入れは不便。入出金はともかく通帳記帳の手間を考えると、わたしたちの自宅から行きやすい場所に貸金庫があったほうがいいと考えました。
これまでにもこの連載でお伝えしてきましたが、義父は何冊もの預金通帳を持っています。キャッシュカードは生活費の入出金に必要なものを1枚預かっただけでしたが、通帳は手元にあるものをほぼすべて渡されていました。その緊張感たるや! とにかく早く、貸金庫を確保して安全な場所に保管したいという一心で、近所の銀行や信用金庫をリストアップし、貸金庫申し込みの問い合わせをスタートしたのですが……。
「すでに満杯です」
「当支店では貸金庫を置いておりません」
「審査に3週間ほどお時間をいただいております。お貸しできるかどうか、お約束はできません」
つれない返事が続いて、頭を抱えました。うーん……。
銀行が新規契約を渋る貸金庫の実情
周囲に聞いても、金融機関によって対応がマチマチ。地方銀行の中には高齢者ニーズを見込んでいるのか、「その場で口座開設し、貸金庫もすぐ契約できた」という話も聞きました。でも、いくら“おすすめ”を教えてもらっても、うちの近所には支店がない……というジレンマも!
自宅最寄りの金融機関には軒並みフラれてしまい、「こうなったら最寄駅はあきらめて、ターミナル駅まで範囲を広げるか」と思っていた矢先、最後の最後で利用OKになったのが、法人口座での取引があるメガバンクでした。
手続きの際、担当してくれた女性行員が「貸金庫はできれば新規契約をとりたくないというところが多いみたいです。ホント申し訳ありません」と苦笑まじりに教えてくれました。理由としては「リスクをコントロールしづらいわりに、利益が小さいから」。貸金庫の預けていいもの・ダメなものはルールが決められているものの、実際に預けた中身について銀行はノータッチ。「とんでもないものを預けられても、手が出せないんです……」とのこと。
銀行が恐れる“とんでもないもの”とは、いったい何なのか……と気になりつつも、とりあえず貸金庫は確保。無事、大量の通帳を預けることができました。
離れて暮らす親と行う代理人登録の手続き
一方、義父が所有する貸金庫についても対応が必要です。貸金庫から保管品の出し入れができるのは、原則として本人のみ。家族が本人に代わって出し入れしたい場合は、事前に「代理人登録」が必要です。
この代理人登録の手続きがなかなかのクセモノで、離れて暮らしながら高齢の親と一緒に手続きするには、次のようなハードルがありました。
(1)契約者本人の同席が必須
代理人登録手続きでは、必ず契約者本人に同席してもらわなければいけません。うちの場合は、義父が契約者本人に当たるので、義父の体調がいいときを狙い、かつ(本当は一緒に行かなくてもいい)義母が「私も行きます」と言い出すので、義父母ふたり分の体調を見つつ、予定をすり合わせるという、ひと手間も発生。
(2)契約者本人、代理人それぞれが届出印、身分証明書を用意し、貸金庫の専用鍵と入室用のカードを持参の上、所定の手続きを行う
手続きに必要な持ち物はすべてこちらで手配&用意しました。このとき、「ちょっと待って!」となったのが身分証明書。義父は、運転免許証やパスポートを持っておらず、マイナンバーカードもこのときは未取得だったので、写真付きの身分証明書がない……と、がくぜんとすることに。銀行に問い合わせたところ、「後期高齢者医療被保険者証」と「介護保険証」など、複数の本人確認書類の提示でOKということで事なきを得ましたが、このあたりは金融機関によっても違うそうなので、事前確認をお勧めします。
金銭管理のサポートをするという意思表示に
(3)受付が終了すると10日~2週間ほどで「入室用のカードキー」ができあがった旨、金融機関から連絡があり、契約者本人が受け取りに行く
こちらも本人必須のため、義父の体調がいいときを狙い、かつ(本当は一緒に行かなくてもいい)義母が「私も行きます」と言い出すので……と(1)でやった調整を再度、繰り返すことに。
煩雑な手続きではありますが、代理人登録しておけば、入院や施設入所などで本人が貸金庫に行けなくなったとしても、代わりに対応できる。また、代理人登録のいちばんのメリットは、代理人を申し出ることで親に対して金銭管理のサポートしていく腹づもりがあると意思表示できることかもしれません。親がふたつ返事でOKなのか、答えを渋るのか、その反応で親自身の現時点での考えを推し量る材料にもなるはず。面倒な手続きを一緒に行うことで「任せたほうがラク」と親が実感すると、その後のやりとりがスムーズになるという福音もありそうです。