インスタで人気「ひろぽ」はこうして生まれた。作者にインタビュー
取材/塚田史香 写真提供/三丁目いちこさん
主婦の三丁目いちこさんは、脳血管性認知症だった義父との思い出を漫画にし、Instagramで発表しています。やさしいタッチのイラストとユーモアにあふれたエピソードで、Instagramのフォロワーは現在3万人を超えました。2020年12月には『ひろぽと暮らせば』(ワニブックス刊)をタイトルに書籍化されています。“ひろぽ”とは、家族の間での義父の呼び名です。「わたしは楽しんでいただけ」と、いちこさんは当時を笑顔で振り返りますが、その観察眼やアイデアはどこから生まれたのでしょうか。お話を聞きました。
せっかくなら面白く伝えたい
──漫画の投稿をはじめたきっかけをお聞かせください。
大変なこともありましたが、ひろぽが亡くなり、楽しかった思い出を残したいという思いから、介護期間中につけていた記録をもとに漫画を描き始めました。
──思い出すための手がかりはどこから得たのでしょうか?
ケアマネジャーさんのアドバイスで、ひろぽのおかしな言動を、なるべく家族に伝えるようにしていたんです。たとえばひろぽが「いちこさんがお金をとった」と言った時、普段からそういった言動があることを共有できていれば、慌てずに済むこともありますよね。そのための記録だったのですが、私は性格上、せっかくなら面白く伝えたいと思ったんです。「こんな大変なことがあった」と報告するだけでは「大変だったね」と労われて終わりですが、面白かった話として伝えられれば、聞いてもらいやすくなりますし、笑ってもらえて、「大変だったね」までもらえてお得なんです! オチがつくまで観察するようにもなり、ひろぽの一連の行動にもゆっくり付き合えるようにもなりました。
ひろぽさんを支えるチーム
──いちこさんのご家族は、ひろぽさんと二世帯住宅で暮らしていたそうですね。
漫画では私が多く登場しますが、実際は皆で介護しました。リーダーは義理の母「チャコさん」で、私と義理の妹はそのサポートでした。ひろぽが聞き分けのないことを言いチャコさんとけんかになりそうな時は、「おじいちゃんの話を聞いてあげて!」と私にパスがきて、私でもダメなら今度は娘が「どうしたの?」と入ってくれて。パスしあううちに、ひろぽの気が収まることもありました(笑)。もちろん私がイライラし、ひろぽの言うことに意地悪でトボケたりすることもあったんです。すると娘が、テーブルの下で私の足をチョンとして「おじいちゃんは病気だから」と合図を送ってくれたりもして。娘2人も含めてチームでしたね。
介助者のためのヘルプマーク
──本著では「介助者であることを示すヘルプマーク」のアイデアが紹介されていました。
介助者にヘルプマークがつくことで、当事者にメリットはないのですが、介助者に向けられる目の痛さは軽減されるんじゃないかなと思ったんです。
──SNSでも反響があったのではないでしょうか。
自治体によってはすでにマークがあると教えていただきましたが、全国で統一されたものはまだないようです。おばあちゃんの介護をされている方から、「散歩中に『助けて! 殺される!』と叫ばれても、ヘルプマークがあれば、本人を前に『違うんです、この人は認知症なんです!』と説明しなくて済みますね」とコメントをいただきました。
──いちこさんのアイデアは、認知症の当事者ではなく介護者にさりげなく着けられるところがポイントですね。
手伝ってほしいわけではないんです。でもマークがあれば「そうなんだ。がんばれ!」という気持ちで目を向けていただけるようになりますよね。奥さんの介助をする男性は、お手洗いに付き添う時や、女性の下着を購入する時のハードルも下がるでしょうし、認知症の介護だけでなく、見た目には分からない障がいのあるお子さんをもつ親御さんの助けにもなるかもしれません。
今はおじいさんやおばあさんと同居する家庭が減って、若い世代は自分の両親が老いた時にはじめて、介護を目の当たりにすることが多いのかもしれません。ヘルプマークが、“老い”を間近で見ていない若い方たちにとって、認知症や介護に意識を向けるきっかけになればいいな……なんて思います。
- 三丁目いちこ(さんちょうめ・いちこ)
- 認知症を患った義理の父・ひろぽを観察し、記録するのが日課だった。2017年11月に84歳でひろぽが他界した後は、当時の記録をもとにイラストエッセーを描いている。
Instagram:@3choumeichiko
書籍『ひろぽと暮らせば』の紹介はこちら