認知症とともにあるウェブメディア

ヤスデノコヅチ

持ち歩けなくても大丈夫!忘れ物を届けてくれる、かわいい追尾システム

「おじーちゃん? ちょっとココの散歩行ってくるけど、ねえどこぉ?」しーん

認知症の祖父をとりまく一家の物語。置物が割れて飛び出してきたのは、大黒天ならぬ安黒天。認知症の症状に応じる便利なグッズを発明するアイデアマンだった! でも、その便利グッズを持ち出しを忘れてしまったら……?

安黒天笑
安黒天(やすこくてん)
認知症の人の生活を支援するグッズ発明の神様。一見して大黒天のような風貌だが、違う。メガネをかけているのが最大の特徴。ちょっとナイーブ。
妹笑

おじーちゃん、ちょっと気分転換にココの散歩にいってくるねー

ワンワン!(いってくるぜ)

妹笑

……おじーちゃん?

ワンワン!(オイさっさとしろよ!)

おじーちゃん? おじ…

くすりの時間です。くすりの時間です

妹怒

わわっ! びっくりしたぁー! ちょっとぉ、このICレコーダー、おじーちゃんいないところで鳴ってても意味なくない?

ワンワン!(いいからほっといていこーぜ!)

血圧の薬を飲んでください。机の上にあります

妹怒

もおぉー、うるさすぎっ! こんなんじゃ私、受験勉強に身が入らないんですけど?

ワンワン!(ぜんぜん勉強なんかしてねーじゃん!)

だいたいウチの家族は私に対して気遣いなさすぎじゃない? 受験生のナーバスな気持ちをなんだと思ってるのかしら?

ワンワン!(まず勉強してからナーバスになれよ!)

先生がきちんと飲むよう言ってた血圧の薬です

ちょっとぉ、どうやって停めるの、コレ? 今どき物理ボタンとかありえなくない? このボタン? それともこっち?(カチッカチッカチッ)

ワンワン!(さっさとしろっつってんだろコラ)

時間です! 血圧のくすりの時間です!

くすりの時間です!!!

妹怒

ぎゃー! テキトーにボタン押したら、音量が最大にー!

ワンワン!(敏感な犬の聴覚になにすんじゃギャー><○×%&■□;!!)

バリーン!!!(陶器が割れた音を想像してください)by 編集部

安黒天笑

うるさ~~~いっ!!

祖父怒

ああっ! おまえは昭和48年の旧正月に婆さんが露天で半額で買った大黒像!

妹怒

おじーちゃん?! どこにいたの? わわわっ?! 七福神のフィギアがなんかしゃべってる?!

安黒天笑

ハァ、ハァ、ワ、ワシは安黒天。認知症の人をささえる知恵の神じゃ。ワシとしたことが取り乱してしまったの…ほっほっほ。失礼した。ところでなにかお困りのようじゃが?

祖父笑

ワシは何も困ってないぞ。えっへん。

困ってるのはこっち! ICレコーダーでおじーちゃんが忘れそうなことを知らせても、置いて行ったら全然意味ないじゃん。ちゃんと持ち歩いてほしいんだけど!

安黒天笑

ほっほっほ。それを忘れないならそもそもこんなレコーダーいらないのでは?

うっ、確かに…。あ、じゃあ、ずっと首に下げててよ

ヤダ! 重いから、ソレ

安黒天笑

ふむ。これは実に難しい問題じゃな。せっかく便利な道具があっても、常に本人のそばにないと意味がないしのぉ

妹笑

ねえ、大黒さまのそのでっかい袋の中になんかないの。おじいちゃんをずっと追いかけてくれるドローンとかさぁ、ネコ型ロボットが出してくれる便利道具みたいヤツ!

安黒天笑

うーん、まず常にターゲットを追尾するようなシステムを本気で構築しようと思ったら、国家予算のような金額が必要になるじゃろうな……

ハイテク機器は持ち忘れてる! 現在地をどうやって知る? 追跡ロボット? 雨・風はどうする? 段差は? ぬかるみは?

ウチの経済力ではぜったい無理じゃん

安黒天笑

残念だがその通りじゃ。だがの、ワシもこの問題についてはずっと取り組んできた。そして7年間考えに考えぬいて、ついにたどり着いた別種のテクノロジーが、実はもうあるのじゃ……

祖父笑

え!?

妹笑

ほんとに?

安黒天笑

それはローコストで複雑なプログラムも不要。階段やぬかるみ、ちょっとした悪天候などの障害にもほとんど影響を受けず、さらには信じがたいほどユーザーフレンドリーなインターフェイスで、超高性能の追尾システム……

妹怒

マジか…?

祖父怒

そんなシステムが? ほんとに…?

安黒天笑

実はそれはすでにここにあるんじゃ

はぁ? ありえないっしょ

そんなものがいったいどこに?(キョロキョロ)

安黒天笑

それは……

祖父笑

それは……?

妹笑

(ゴクリ)

安黒天笑

これじゃ!

 ICレコーダーを背負った認知症支援犬
祖父怒

いっ……

妹怒

犬~!?

ワンワン!

むむむ。たしかにココならおじいちゃんをすぐに見つけられるけど……

安黒天笑

まあ、多少訓練は必要じゃ。特定の音が聞こえたら飼い主を探す。そして、見つけたら餌をあげる、という訓練を繰り返す。ワシの研究の時は3日で可能になったぞい

ワンワン…(マジか…)

か、賢い犬ね。ココにできるかな?

安黒天笑

もしできるようになったらICレコーダーからその音を出して、ココにおじいさんを探してきてもらう。もしくは、はじめからココにICレコーダーを背負わせておくという手もあるぞ

ピコーン、ピコーン。薬の時間です。薬の時間です。「ん? ああココか」『おやつくれ・・・』
妹笑

すごい! それ、できたら最高だわ!

祖父笑

ああ、これで安心して忘れていけるな!

ワンワン!(忘れるの前提かよ!)

安黒天笑

ほっほっほ。どうじゃな? ヤスダのテクノロジー

言語聴覚士 安田清さんの解説

【認知症支援犬】

これまで様々なグッズを開発してきました。これらは専門用語でAssistive Technologyと言います。しかし、それらを認知症当事者の方々に使ってもらわなければ何の意味もありません。ですが、持って行かない、持って行くことを忘れることが多いんです。常に持ち歩くために、「洋服にしまう」ということも考えたのですが、その洋服を着ない、ということもあり得ます。では、どうすればいいか。

ロボットに持って来てもらうのも一つの方法ですが、この先しばらくは低価格にならないでしょうし、プログラムも簡単ではない。ですが、多くの高齢者が飼っている「犬」であれば、自然に飼い主の元にやって来る。そこで、忘れやすい薬などを犬に背負って持って来てもらえばいいのではないか! と考えました。犬の特性を活かし、助けてもらうのです。7年ほど考え抜いて生まれたアイデアです。犬の訓練士からは「(私が)犬が苦手だからこそ思いついたアイデアだ」と言われました。

具体的には、犬が"とある音"を聴いたら餌をあげる。これを習慣づけるだけで多くのことが可能になるはずです。

たとえば、服薬を忘れないように、飲む時間と「薬を飲んでね」などと録音したICレコーダーを、犬に背負ってもらったりリビングなどに置きます。そして、ICレコーダーから自動的にアラーム音を出たあと、犬が飼い主を探したら餌をやるよう訓練します。犬が来て「薬を飲んでね」と言われれば、飲み忘れは減るはずです。犬に、薬や水入りのボトルを背負ってもらうのも一計です。

実際に、4匹の犬に「音が鳴ったら餌をあげる」という実験をしたところ、3日ほどで音を聞いて飼い主のもとに行くようになりました。ちなみに、猫でも試してみたのですが、全然ダメでした。

ほかには――ある施設の認知症の入居者がトイレの場所を思い出せないでいるとします。そこで職員が「トイレ」という言葉を発した後、犬をトイレに連れて行き、トイレの中に用意していた餌をやるようにします。つまり、犬が「トイレ」という言葉を聞いて入居者を「先導して」トイレの前まで行ったら、その餌をあげるのです。ぜひ試してみてください。

知り合いの元獣医からは、「犬はボスに従う傾向にある。認知症当事者が不安定な指示を出す場合、犬がボスとして見ないのではないか。理想的には、ビシッと言ってくれるボスのような人がいるとよい。家では家族がボスになればいいし、施設ではそこの職員がボスになり指示をする。そうしたらうまくいくかも」と言われました。

もしうまくいかなくても、癒やしを与えてくれるアニマルセラピー犬になります。

私のホームページには3種の認知症支援犬(モデル犬)の動画が、さらに「認知症支援犬を育てるホームページ」には支援犬活用の各種のアイデアが載せてあります。将来、盲導犬や聴導犬のように育ってくれることを願っています。

安黒天笑

できるかどうかは犬次第じゃが、たとえ失敗したとしても、ココはみんなの癒し。それもまたかわいいと思うじゃろ?

ワンワン!(フン、なかなか分かってんじゃねえかオメエ)

妹笑

うん、なんとかなりそうな気がして来た! よし、ココ! さっそく明日から訓練開始よっ!

ワンワン!(え? 受験勉強は?)

安黒天笑

しばらくは勉強から逃避できる言い訳ができそうじゃな。ほっほっほ。ではまたな!

※ 漫画でのICレコーダーの扱いは、実在する機器の機能を取り上げているものではありません

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