「同じ質問」も怖くない!呼ばれてないけど飛び出た安黒天の便利アイテム
文/古谷ゆう子 フキダシ・イラスト/深川直美
認知症の祖父をとりまく仲間家の物語。古びた置物から煙とともに姿を現した不思議なソレは、認知症をめぐるさまざまな便利なグッズを発明するアイデアマン「安黒天」(やすこくてん)! 前回に引き続き、何度も同じことを聞かれる時に対応するアイデアグッズを紹介します。
- 安黒天(やすこくてん)
- 認知症の人の生活を支援するグッズ発明の神様。一見して大黒天のような風貌だが、違う。メガネをかけているのが最大の特徴。ちょっとナイーブ。
今日はいい天気でよかったですねえ。お義父さん
ああ、いい日和だな。あ、そういえばよしえさん、今日ってデイサービスだっけ?
……(にっこり)
……? えっと、それとワシのウエストポーチは、どこに仕舞ったかな?
……(にこにこにっこり)
……よしえさん?
う、う……ううう……
よしえさ……
だああああぁーーーーっっ!!(ゴンっ!)
ぎゃーー! 急に壁に頭打ち付けてどうしたんだ!? よしえさん! 額が割れとるぞ!!
ううっ……!! 限界だわ限界っ!! 「今日はデイサービス?」「ウエストポーチはどこ?」って。何度聞かれても怒らず笑顔で答えようと思っていたけど……10分ごとに同じこと聞かれたらさすがに優しさも在庫ゼロだわ! 早朝ソールドアウトだわ!
いや、もしかしたら一度聞いたかなとはちょっと思ったんだが……も、申し訳ない
……はっ! ごめんなさいお義父さん。私ったら大声出してしまって……
それはいいんだ。無理はしないでおくれ。それで? デイサービスは今日あるの? ないの?
ぎゃー! ごめんなさーい! もう無理です! お世話になりました探さないでください! わーん!(ゴンっ!)
ひいー! よしえさんがドアに激突を!
ぼわーん(煙を想像してください)by 編集部
ほ、ほ、ほ。ひさしぶりじゃな!
ぎゃー! ふ、不審者! 通報して!
あー! おまえは昭和48年の旧正月に露天でばあさんが半額で買い叩いた大黒天像!
は、半額……。お義母さん、さすがの交渉力! それで、え? なんで瀬戸物の七福神がしゃべってるの?
私は安黒天。認知症の人をささえる知恵の神じゃよ。定期的に繰り返される質問にお困りのようじゃな?
え、あ、そうなの……。お世話になってるヘルパーさんたちのように何度でも笑顔で優しく答えようと思ってはいるんだけど、さすがに限界が
うーん、よしえさんには申し訳ないとは思うけど、ワシもわからないままだと不安だし……
そうじゃな。常に優しく対応したいという暖かい気持ちはとても大切じゃ。だがそれだと、いつか限界がきてしまうかもしれない。それに、誰かのがんばりでなんとかしようとするのは、聞く方も気兼ねしてしまうし、誰も得しないのではないかな?
う……お義父さんの立場からみても、これはつらいわね……
いいか。必要なのは誰かの優しさでもない、根性でもない! まずは情報なのじゃ!
たしかに! 何かいい方法はないのか?
ふふふふ、まかせとけ! このヤスデノコヅチでインフォメーションフローをリデザインして、ITによるナレッジシェアでソリューションじゃ!!
ふおおおお!?
なんか全然わからないけどソリューション?!
さあ見るがいい! 出てこい! 安田のテクノロジー! ヤスデノコヅチ~~!!
ぼわーん(煙を想像してください2度目)by 編集部
……なにこれ?
ICレコーダー? スマホの時代になんかビミョーに古くない?
いいから。まあ見てなさい。まずこれに情報を吹き込む
「今日はデイはお休み」
「ポーチは下駄箱の上」
じ、地味……。それに、なんか抵抗ある……
まあまあ。その後そのまま無音状態も9分間録音する
え? そのまま?
そしてそれをリピート再生すると……
おおおおおおおー!
こっ、これは!
忘れてしまっても、また情報が得られる! 気遣いも気兼ねもいらない!
根性も優しさもいらない! 限界まで人間性を試されたりしない! そしてなんか……ムカつくぐらい簡単!!
どうじゃな? ヤスダのテクノロジー
言語聴覚士 安田清さんの解説
【ICレコーダー】
「今日はデイサービスの日?」「通帳はどこへ入れたかしら?」。認知症当事者の家族は、そうした質問を一日に何度も投げかけられることがあります。そんなときにどう答えるか。前回はローテク版でしたが、今回は市販の機器を活用したミドルテク版です。
これまで認知症に関する本で推奨されていたことと言えば、「聞かれたら優しく答えてあげましょう」「怒らないで何度でも」といったものでした。でも私は、それは指導者や研究者側の思考放棄、または試行放棄であると思うんです。
電話を掛けたり、話しかけたりする認知症の方だって、「今日はもう電話しちゃったかな」「仕事中だったら申し訳ないな」といった葛藤があるわけです。その心の状態を何とかしなければいけない。迷子の時も不安でいっぱいでしょう。「見つけたら優しく連れて帰りましょう」ではなく、外出して迷う前にいい方法を考えることが大切なのです。
たとえば「今日はデイサービスに行くのか否か」というのが、知りたい情報です。認知症当事者が本当に欲しがっているのは、「優しさよりも情報」なんです。
そんなとき役に立つものの一つが、ICレコーダーICD-PX240(ソニー)です。「通帳をどこに置いたかな?」と心配する前に、「どこに置いてあるか」をこのICレコーダーの「アラーム」機能を使い、録音した音声で伝えておく。
これを私は“情報先行提示法”と呼んでいます。
たとえば10分ごとに同じことを聞いて来る人には、さらにこのICレコーダーの繰り返し再生機能を利用して伝えるようにします。すると心配する必要がなくなるのです。一日中、一つの事を考え続け悩ませ続けてしまうのは精神衛生上良くない。不安を取り除くことができれば、その時間を有効に、ほかの事に費やせるようになります。
たとえば、家族や身の回りの人が「お金は○○にあります」とICレコーダーに吹き込んでセットしておきます。結果的にお金への執着が減った人もみられました。よほど大きな家でなければ、リビングの机にでも置いておけば充分聞こえるはずです。
ICレコーダーは市販されているものですが、高齢者向けに開発されているわけではないですから、操作がやや難しいです。詳しい人が代わりに設定を手伝う必要があります。高齢者向けに機能を限定し、使いやすくてもっと安く手に入ってもいい。改良の余地はありますし、各メーカーには、これからはそこを意識して開発して欲しいと伝えたいです。
ほほほ、先に言っとくとワシは「昭和48年の旧正月に露天で半額で買った大黒天像」じゃよ。ではな
先に言ってくれると手間も気遣いも省けて助かるわい。笑
実用化企業募集!
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