認知症と生きるには

認知症と生活習慣病 高齢者だけとは限らない 認知症と生きるには13

生活習慣病、認知症、この生活で良いの? 松本一生さんのコラム「認知症と生きるには」。認知症の種類や原因、特徴的な症状に注目して解説しています。今回は軽度認知障害(MCI)や、若年性認知症、糖尿病などの生活習慣病と認知症との関係などを解説します。

大阪で「ものわすれクリニック」を営む松本一生さんのコラム「認知症と生きるには」。朝日新聞の医療サイト「アピタル」の人気連載を、なかまぁるでもご紹介します。松本さんの持論は「認知症は、なってからが勝負」だそうです。さて、その真意は?(前回はこちら

「なってからが勝負」の認知症

「認知症と診断されたらおしまいだ」などと考えている人はいませんか。確かに認知症という病気は手ごわい相手ではありますが、私はこれまでの25年の臨床のなかで、こう言い続けてきました。

「認知症はなったら終わりではない。認知症はなってからが勝負です」

認知症の人を元気づけたいと思う気持ちはもちろんですが、それ以上にこれまでの臨床経験が物語っています。そして、こう伝えてきました。「認知症にならないためには予防が大切。もし、なったとしてもあきらめる必要はない」と。

最近よく耳にするMCIとは

最近、よく耳にする言葉に「軽度認知障がい(Mild Cognitive Impairment:MCI)」があります。これは認知症の前段階で、認知症にはなっていないけれど、ものを覚える力や判断力、見当をつけることなどの認知力がいくらか低下している状態を指します。ひとりで生活できている人も多いのですが、そのような人でも何らかの不都合は感じています。この「軽度認知障がい」の段階で脳の変化(萎縮)を抑えることができれば、本格的な認知症に移っていくことを「予防」できます。

言い換えれば、日々の生活の中でできることをすれば、多少、物忘れがあったとしても軽度認知障がいのレベルにとどめたり、認知症と診断されたとしても、症状の悪化を遅らせたりして、人生を全うすることができるのです。具体的な予防法や悪化させないためのコツは次回に譲ります。

このように書くと認知症は、その人がどう生きて老い、どのような人生の終焉を迎えるかという高齢者だけの問題であるようなイメージをもたれる人もいるかもしれませんが、忘れてはいけないのが若年性認知症です。

糖尿病と認知症の関係

「若年性認知症」とは医学的には「65歳未満で発症する認知症」の総称ですが、もっと若い人もいます。中には30代で発病する人がいます。「認知症は高齢者の病気」と思い込まず、「若くてもなる可能性がある病気」と思って、日ごろからの予防や悪化させないことが大切です。

43歳になる若宮一郎さん(仮名)は運動が嫌いで、いつも好きな映画を観ながらお菓子を食べることが「至福のひと時」でした。営業職なので日々、大変な勤務の後にホッとしたい気持ちのせいか、休日はいつもソファで寝て過ごしていました。そんな彼が糖尿病の診断を受けたのは35歳の時でした。

独身の生活が長く、一人住まいで、食生活は外食が多くなりがちです。不規則な時間帯に食事をしていた彼が、店に財布を置き忘れることが増えたのが41歳の夏のことでした。内科の主治医にすすめられて大学病院の「ものわすれ外来」を受診しました。

病名告知を希望していた彼への診断は「アルツハイマー型認知症と血管性認知症が混在している」というものでした。膵臓から出るインスリンは、普段はアルツハイマー型認知症の原因の一つとされる「アミロイド」というたんぱく質のカスが脳にたまってしまうのを防ぐ役割があります。しかし、糖尿病を発症したことで、血糖値を下げるためにインスリンが消費され、アミロイドがたまってしまったと考えられます。

生活習慣病と上手に向き合った方がよい

若年性認知症の特徴の一つに血管性認知症が多いことがあげられます。私の外来を訪れる若年性認知症の患者さんにもその傾向があります。一般的には、認知症の20%程度を占める血管性認知症が、若年性の場合には40%程度にもなります。若宮さんのような生活習慣を送っている人は、どうしても血液の循環が悪くなり血栓ができやすくなります。さらに、運動しないためにコレステロールや中性脂肪が高くなり、塞栓(油の塊が血管に詰まるもの)ができやすくなります。もの忘れがかなり進んだ状態で、彼は大学病院から私の診療所を紹介され、来院してきました。

本来ならそうなる前に生活習慣病と上手に向き合っていたら、認知症は予防できたでしょう。私の25年の臨床生活の印象では、やはり認知症になる前の数年間をどのように過ごしたのか、が認知症の経過に関係します。たとえ慢性の生活習慣病があったとしても、その病気をコントロールすることができていたら、その後は変わっていたでしょう。

大学病院で告知を受け、来院した彼にかける言葉はただひとつでした。「若宮さん、認知症といっしょに向き合いましょう」。それ以来、今でも月に1度、通院は続いています。

※このコラムは2017年10月5日にアピタルに初出掲載されました。

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