認知症のじーちゃんも喜ぶアイデアグッズ爆誕!安黒天お見知りおきを
文/古谷ゆう子 イラスト/深川直美 構成/編集部
認知症の祖父をとりまく仲間家の物語。古びた置物が割れて大惨事?と思いきや、姿を現した不思議なソレは、認知症をめぐるさまざまな便利なグッズを発明するアイデアマン「安黒天」だった! 何度も同じことを聞かれる時にはどうしたらいい?をテーマに展開します。
- 安黒天(やすこくてん)
- 認知症の人の生活を支援するグッズ発明の神様。一見して大黒天のような風貌だが、違う。メガネをかけているのが最大の特徴。ちょっとナイーブ。
【安黒天、誕生の瞬間】
わたしは安黒天。認知症の人を支える知恵の神である
ええ? 大黒天じゃないの?
それよりしゃべってるぞこの像
細かいことは気にするでない。何か困っておるのだろ?
あっそうだ。おじいちゃんが何度も何度も同じ事を聞いてくるから困ってるんだよ
うむ、なるほど
メモ書きして貼っておいても、そのメモがあることを忘れるんだ
そんなことはない! みんながメモを置く場所が悪いんだ!
認知症の人は周りの空間全般に注意を向けるのが苦手だから、常に視野にメモがないと。もし、莫大な財を投じて専用アプリを開発すれば、こんな感じになるであろう
あ、いいな。こういうのなら僕もほしい
よおし、ではヤスデノコヅチの出番だな
ええ! そのウチデの小槌で出してくれるの?
よっ! さすが財福の神、大黒天!
ぶぶぅ。安黒天ですぅ。ヤ・ス・デ・ノ・コ・ヅ・チですぅ! これで出せるのは超現実的なアイデアグッズのみである
えーなにそれー。Goo○leグラスは~? 莫大な財産は~?
やっぱりパチもんだ! この大黒天像!
うるさい、いくぞ。出てこいアイデア、ヤスダのテクノロジー!
ぼわーん(煙を想像してください)by 編集部
え、誰?
そこではない。帽子だ。ひさし、ひさしんとこ見て
何かついてるぞ
ワイヤ―だ。引き出すとこうなる
おお~!?
おお~!?
名付けて「帽子式目の前伝言板」である。ちょいかぶってみ
まさかこんな簡単な工夫で……
うっ、めちゃ使える……
言語聴覚士 安田清さんの解説
【帽子式目の前伝言板】
記憶が5秒しか続かない、重度の認知症の方に出会ったことがあります。何か一つの作業をしているときに、「なぜ、いまこの作業をしていのか」が分からなくなってしまうことが多々あるんですね。常に目の前に情報を提示しておく方法として考えたのが、この帽子式目の前伝言板です。作業に没頭していても、目を上げると視野に必ず文字が目に入ってきます。
テープレコーダーを机の上に置き、「ここは○○病院です、〇〇病院です」と繰り返し再生で5秒に一回、流れるようにしたこともあるのですが、当事者の方に「うるさい!」と言われてしまった(笑)。
ならば視覚的に行こう、と。壁に紙を貼付けることが多いのですが、認知症の方は周囲の空間全般に注意を向けることが困難です。本人の視野内に常に情報を見せることができないか? 最初は、帽子に割り箸をつけその先に紙をぶら下げていたのですが、当時働いていた病院の看護婦長に怒られてしまった。「安田さん、もし転んで、割り箸が頭に刺さったらどうするんですか」って。
より安全な方法はないかと考え、帽子の両脇とひさしの下にチューブをつけ、そこに金属製のワイヤーを入れることを思いつきました。ゴムや紐だと垂れてしまうのですが、ワイヤーなら一定の高さを維持できます。
料理をしている時にも使えるかもしれませんね。「いま何の料理を作っているんだっけ?」ということが結構あるんです。カレーライスだったか、肉じゃがだったか。この帽子を予め被っておけば、目線を上げるだけでいい。料理の手順を書いておいて、一枚ずつめくって行くのもいいかもしれません。
実際に2、3人の認知症の方に編み物や読書といった室内での作業中に被って頂きました。人間の視野は思っている以上に広いので、さほど邪魔にはなりません。ですが、作ってから「基本的に人間は家のなかでは帽子を被らない」ということに気づきまして(笑)。帽子を被りっぱなしだと頭が蒸れて困る、という意見も。そこで、サンバイザーを使用したバージョンも作ってみました。
重度の認知症の方を見ていないと、「そこまでやる必要があるのだろうか」と思うかもしれません。ですが、視界のなかに常に情報を提示できるローテクの方法があったかと言えば、思い当たりません。これなら、材料を買い揃えさえすれば作ることができる。(高価で扱いが難しい)ハイテクなものだけに頼るのではなく、ローテクをうまく活用し、取り入れていくことも大切だと思います。
最近は、対コロナ感染予防のフェイスシールドが発売されています。これらの改造なども試してみてください。
これがあれば、おじいちゃんも納得してくれそうだよ!
ああっおまえは昭和48年の旧正月にばーさんが露天で半額で買った大黒像!
わたしについてのメモ書きはいらんから、また呼んでくれ。ホホホ!
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