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ラウンドガール?義母が遺影を高々と掲げ「こちらです!」もめない介護84

コスガ聡一 撮影

「では……みなさまはこちらへ……お手荷物などはお持ちいただきまして……」

棺に花をたむける儀式が終わり、いよいよ出棺。案内されるがままに控室から荷物をすべて引き上げ、火葬場に向かいます。義父の葬儀では、葬儀会館から火葬場への移動の負担を減らすべく、敷地内に火葬場がある市の斎苑を会場に選びました。

【前回の話を読む】「え!亡くなったの?」。義母が緊迫の遺族スピーチ もめない介護83

建物内で移動するだけなので、これなら認知症の義母も、参列してくださる親戚の方たちも、負担を最小限にできるはずというのが決め手でした。しかし、誤算だったのは荷物の多さです。同じ建物内とはいえ、通夜・葬儀のためのスペースと火葬エリアは離れていて、遺族控室からは荷物を引き上げなくてはいけません。

万が一のときの義母の着替えに、尿取りパッド、リハビリパンツ、ひざかけと、かさばるものが結構あります。しかも、夫は夫で「施主」として何かと呼ばれたりあいさつをしたりするので、荷物持ちをしてもらうのは難しい。必然的にわたしが、えいやっと両肩に手提げバッグやビジネスバッグを引っ掛け、キャリーカートを引っ張って……と、ならざるを得ないわけです。

ここに、さらに義母の車椅子移動やトイレ支援が加わったらどうなることかと思いますが、幸い、この日は義母が暮らす有料老人ホームの介護士さんが付き添ってくれています。とにかく義母のことは介護士さんにお任せし、わたしは荷物の番をしながら適宜、参列者の方々のフォローをして……と役割分担ができたのは本当にありがたかったです。

精進落としもペロッと完食

火葬がスタートする直前、「お三方はこちらへどうぞ」と葬儀社の人に声をかけられ、義母と義姉、夫の3人は別室に消えていきました。あとで夫に聞いたところによると、義父の棺が火葬炉の中に入っていくのを見送ったそうです。「俺たち3人だけで見送るのは変だなと思ったんだけど、タイミングを逃してゴメン」と夫に謝られました。でも、こちらとしては「荷物の多さにひるんで、“一緒に行ってもいいですか?”と聞こうともしなくてスマン!」というのが正直な気持ちでした。

介護士さんには精進落としの席にも一緒に参加してもらいました。義母は機嫌よく、料理を次々と平らげ、あっという間に完食。「年寄りにはちょっと量が多すぎるんじゃない? こんなに食べたら眠くなっちゃうわよ」と文句を言いながら、デザートにも手を伸ばしていました。お見事!

そうこうしているうちに、お骨上げの準備が整ったというアナウンスが流れます。義母はいまの状態をどう捉えているのか。外から見ただけでは、気持ちの変化はうかがい知れません。

再び、義母と義姉、夫だけが別室に呼ばれ、そこで義父と再会。その後、親族一同が待つスペースに移動し、みんなで遺骨を拾い、骨つぼに収めます。その場で、ふたり一組で拾うか、ひとり一人拾うスタイルのどちらを選ぶかと確認され、うちは後者を選びました。“共同作業”にするよりも自分のペースでできるほうが、義母が拾いやすいのではないかと考えたからです。

大きな遺骨を難なくおさめて、ミッションクリア

別室から戻ってきたばかりの時は少々ボーっとしているようにも見えていた義母でしたが、「では、おかあさまには、いちばん大きなお骨を拾っていただきましょう」と火葬場の方に声をかけられると、シャキッと覚醒。車椅子からすっくと立ち上がると、つかつかと台に近づき、かなり大きなサイズの遺骨をガシッと箸でつかみました。
落としてしまうのではないかと一瞬、緊張が走りましたが、義母は落とすことなく、難なく骨つぼにおさめてミッションコンプリート! 満足そうに笑っていました。

「このご年齢の方とは思えない、ご立派なお骨ですね」
「とってもきれいな色をしていらっしゃいますね。健康に気を付けていらっしゃったんでしょうね」

サービストークなのか、慣習なのか、お骨上げの間に、時折スタッフの方が義父のお骨の状態をほめます。すると義母がすかさず、「でも、いくら骨が立派でも、死んじゃったらどうしようもないわよねえ」とツッコむものだから、スタッフの方もたじたじです。

義母を遺した義父も、遺された私たちも心配

ひと通りお骨拾いが終わり、退室することに。先頭に遺骨を持った長男(私の夫)、位牌(いはい)を持った義姉、そして車椅子の義母が続きます。義母にはコンパクトサイズの額に入れられた遺影が渡されていましたが、最初は興味なさげに膝の上に伏せてありました。

介護士さんが気を遣い、「みなさんに見えるように、お手元に持ちましょうか」と義母に声をかけます。すると義母は突然、写真が入った額を高く頭上に掲げ、「こちらです!」「こちらですー!」と軽く左右に振り始めました。葬儀社の人にやんわり止められ、ひざの上に乗せるよう言われた義母は不満そう。体をよじって、後ろをぐるりと振り向きながら「これじゃ誰からも見えないと思わない?」と同意を求めます。

おかあさん、おっしゃる通り! でも、その格好だと車椅子からころげ落ちそうだから、前を向いて座ってください。面白いけど! 危ないから!! 

この義母を遺していく義父は、さぞかし心配だったことでしょう。でも、遺されたわたしたちもかなり心配です。なんとか乗り切れたのは、初めての経験でわからないことだらけながらも、起こりうるトラブルをシミュレーションしたこと、そして家族だけで対処しようとしなかったことに尽きると思います。

こうして通夜・葬儀もいよいよフィナーレ。残すは、義母を施設まで送り届けるだけというところまでこぎつけましたが、最後にまさかのもう一山が残っていたのです。

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