〈恐怖!〉リアクションゼロの洗礼 あるある探検隊の活動報告59
構成/福光恵
「あるある探検隊」のリズムネタで一世風靡したお笑いコンビ・レギュラーの松本くんと西川くんは、いま全国の介護施設をまわって、お年寄りたちを笑顔にする活動をしています。ところがここ数カ月、新型コロナウイルスの影響で思うように活動ができません。いまは少しずつ増えてきた「オンライン」に対応すべく、自分たちの介護レクリエーションをブラッシュアップするのみ! そこで今回は、介護度の高い利用者さんを楽しませるにはどうしたらいいのか、について考えます。
芸人さんには、さまざまなタイプがいるらしい。ウケている時も、まったくウケない時も、いつも同じテンションでできるタイプもいれば、ウケない時は客のリアクションが気になって芸に集中できないタイプの芸人も。
「どんな状況でも同じクオリティーを出すのが、プロの漫才師……と分かっていても、僕らは客席のリアクションがないと、どうしても不安になってしまうな」
そう語るレギュラーの2人は、間違いなく後者。そんな2人が実際の介護施設の活動で遭遇するのが、“リアクションゼロ”の洗礼である。とくに、介護度の高い利用者向けの施設でやるレクリエーションは難易度が高い。
「はい、拍手〜!」
松本くんがテンション高く促しても、会場はシーン……。松本くんのかけ声だけが、奥の壁までスコーンと抜けていく。ならばと、2人が得意のトークで掛け合いをするが、状況は大きく変わらず。揚げ句、いつもなら率先して会場の空気を盛り上げてくれるはずの若いスタッフたちも、そういう時に限ってシーン……というパターンである。
これはやはり、スベッてる?
ところが、スタッフたちに聞くと、必ずしもそうでもないようなのだ。
「いえ、ちゃんと楽しんでいらっしゃいますよ。あの利用者さんがあんな表情を見せるなんて、ふだんはないことですから」
レギュラーの2人にはわからなくても、いつも一緒にいるスタッフたちの目から見たら、ちゃんと楽しんでくれているということなのだろうか。
いや、しかし、芸人としては、もっと会場全体に笑いをつくり出せたはず、という思いがある。あの時、どうすればよかったのか。
民間資格「レクリエーション介護士」を手がけ、2人が介護レクの技術を学んだ「スマイル・プラスカンパニー」の玉城梨恵さんが言う。
「元も子もないかもしれませんが、介護度の高い利用者さんたちを相手に、1時間程度のレクリエーションでどうこうしたいというのは無理な話です。プロのレクリエーション介護士でも、粘り強く、時間をかけて信頼関係を築いていくことが、いちばん大事なこと。私たちも、1年越しで関係を築いています」
そうした現場では、まずレクリエーションのテンポをだいぶ落として、“空気感”を合わせに行くことが必要だという。そして、目線を同じ高さにして手を握り、声をかける場面を意識してつくる。あなたとお話をしています、というメッセージである。
もちろん、最初はなかなか目が合わないこともあるが、これを参加者全員に繰り返しやっていくしかないそうだ。
「とにかく、利用者さんたちの心に少しずつ“爪痕”を残していくことが重要です」
玉城さんがそう言うように、介護レクに“近道”はないのだ。
西川くん 介護度の高い利用者さんたちを相手に介護レクをやる時、なにをやっても空回りして、どうしても盛り上がらないことはあるよな。いま思い出すだけでも、脇汗が出てくるわ。
松本くん ほんまやな。でも、そういう現場は介護レクの先生方でも盛り上げることが難しいというのは、ちょっと励まされる話やったわ。僕らは芸人やから、それでつかめないのかも知れないと思っていたけど、「私たちも1年がかり」と言ってたもんな。
西川くん 考えてみれば、継続的に同じ施設で介護レクをやっているわけではない僕らが、その時呼ばれて行った施設ですぐに関係を構築しようなんて、おこがましい話や。介護レクは、そんな単純な話じゃないってことやね。
松本くん いろいろやっても反応がなくて焦って追い込まれる、というのがこれまでのパターンやったけど、まずは僕らが落ち着かないとダメやね。焦るとテンポが速くなって、余計に笑ってくれなくなる。
西川くん そうやな。しかも、僕らそういう雰囲気で顔に出やすいからな。
松本くん やっぱり、重たい空気はひたすら耐えるしかないんやろうか(笑)。でも、玉城さんが言っていたように、継続的に行けなくても、僕らにもできることが少しはありそうやな。
西川くん まずは、利用者さんたちがちゃんと理解できるように、しゃべりやレクリエーションのテンポを落とすことを意識する。
松本くん それと、話しかける時は、その利用者さんの正面から目の高さを合わせて、優しく触れながら声をかける。これって、僕らも介護レクの現場で知らず知らずのうちにやっていたことだけど、効果的だと知ったからには、もっと意識的にノウハウをつくっていかないとな。
西川くん 以前この連載コラムでも紹介したフランス生まれのケア技法「ユマニチュード」も、まさに同じような手法だったもんな。まあ、新型コロナが落ち着くまでは、なかなかできへんけどね。
松本くん あと、やっぱり介護レクのネタは、シンプルでベタなことがええんやろな。基本は、顔芸に身体を使ったギャグ、そして鉄板の歌や。
西川くん そうそう。僕らのこれまでの経験からも、介護度の高い利用者さんたちには、トークの掛け合いよりも、懐かしの歌をみんなで歌うとかのほうがずっと楽しそうだったもんな。
松本くん となると、美空ひばりさんを歌うと言って、舟木一夫さんの「高校三年生」を歌うとか?
西川くん そのボケは難しいやろ(笑)。
松本くん じゃあ、歌に顔芸と身体を動かすギャグを取り入れて、「高校三年生」を歌いながら、横から「あ~、それ、それ」とかヘンな顔して邪魔するとか。あ、いや、2人で激しくダンスのほうがええかな。なんか、アドバイスをもらっていろいろとイメージが沸いてきたぞ。
西川くん 松本くん、それはたしかにアルな!