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つながり作って偏見作らず 自治体職員が考える認知症カフェの「これから」

パネリスト全員での記念撮影
パネリスト全員で記念撮影をしてオンラインシンポジウム終了

新型コロナウイルスの感染拡大と予防対策のため、この夏以降も認知症カフェは普段通りの開催が難しくなっています。そんな新しい状況についてわたしたちはどう考え、どう対応したらいいのか、新しいコンセンサスを目指して話し合う「認知症カフェこれから会議」の第3回オンラインシンポジウムが9月6日(日)に開催されました。今回は全国5つの自治体から「行政職」の方々が集まりました。

パネリスト

  • 橋本沙由里さん(いわき市 地域包括推進課 主査)
  • 斉藤誠さん(浦安市 福祉部 高齢者包括支援課 課長補佐 高齢対策係 係長)
  • 川田貴久江さん(横須賀市 福祉部 健康長寿課 介護予防係長)
  • 谷口泰之さん(御坊市 介護福祉課 認知症地域支援推進員)
  • 野瀬明子さん(総社市 長寿介護課 地域ケア推進係 主査)

市内に認知症カフェのない御坊市も

オンラインシンポジウムはそれぞれ自治体の自己紹介から始まりました。
橋本さんは東京23区の約2倍という広さのいわき市に12か所の認知症カフェがあること、また2019年には地域包括ケアをウェブや紙媒体で発信する「igoku」プロジェクトがグッドデザイン賞金賞を受賞したことなどを報告。

斉藤さんは浦安市に6つの認知症カフェがあること、高齢化率は千葉県内で最も低いものの、地域差があり、さらに今後は急速に高齢化が進む見通しであることを語りました。

また、自らボランティアとしてカフェに参加する川田さんは横須賀市内全てのカフェが補助金を受けず自主的に開設・運営されていること、横須賀だけでなく三浦半島4市1町での認知症に関する取り組みなどを行う際には「認知症フレンドリーよこすか」など市民団体と協力して行っていることなどを報告。

総社市・野瀬さんは小学校での認知症サポーター養成講座やSOS(そうじゃおかえりサポート)システムを紹介し、132か所で行われているいきいき百歳体操には認知症のある方も参加している現状について語りました。

そして今回唯一の認知症カフェがない自治体である御坊市・谷口さんは、2019年に制定した「認知症の人とともに築く総活躍のまち条例」を紹介しつつ、御坊市が認知症の人に支援してあげるという思いあがった施策はやめようと考えるに至った経緯などを語りました。そのうえで、スーパー銭湯や酒屋、農園など認知症のある人々が集まっていた元々の居場所を大事にしていることについて述べました。

「高齢者には紙媒体」が変わりつつある?

今年急速に広がったオンラインカフェに関する取り組みについて尋ねたところ、斉藤さんはZoom会議マニュアルの作成やオンライン会議講座の開催などの普及事業が始まっていることを紹介しました。

行政や地域包括支援センターはオンラインの活用が遅いのでは、という指摘に対しては、川田さんが市民団体との協働の中でオンラインに触れていたおかげでいち早く慣れることができた自身の経験を語りつつ、機会が少ない行政職の人にも体験してもらうことが大事という考えを述べました。また野瀬さんは市役所内の通信環境が整っていないという課題を指摘しつつ、自身も不慣れであることを告白。今回の「これから会議」を機に勉強していきたいと語りました。

また、斉藤さんは配信を見ている参加者からの質問に答えるかたちで高齢者のスマホ所持率が上がってきているという浦安市の調査結果を紹介し、高齢者には紙媒体で情報を伝えなければいけないという従来の認識も変わりつつあるという見方を示しました。

9月4日に『なかまぁる』に掲載された記事によると、オンラインカフェは夜開催の比率が高くなっています。それにより新しい参加者が増える一方、従来の認知症カフェに参加していた人たちの生活パターンをフォローできていない可能性もあり、今後は午前や午後のオンラインカフェを増やすことが求められるでしょう。その時、行政や包括が率先して日中にオンラインを活用することは有効策だろうと思われます。

避けられない公務員の異動、どう引き継ぐ?

後半には「異動」が話題になりました。認知症施策は人と人のつながりが大事なのに、どうしても公務員には異動があるのでそれが途切れてしまいかねない、と切り出したのは川田さん。

それに対し谷口さんは次の2点を挙げて考えを述べました。まずは前述の条例について。担当者が変わっても施策の内容が大きく変わらないよう、「認知症の人の意見を聴き、計画、実施及び評価することにより、より良いまちづくりを不断に目指すものとする」(第4条2項)ということが市の責務として書かれているそうです。この理念はたとえ国や都道府県から言われることが変わっても市の方針がぶれないためでもあるとのことでした。

もう一つは共有ファイルの活用です。谷口さんは認知症の本人と話して耳に残った言葉をエクセル文書に記し、部署の共有フォルダで保存しているそうです。スーパー銭湯でシャンプーとボディーソープを間違えないように「あたま」「からだ」と書くよう本人が勧めたエピソードや、条例ワーキンググループでの様々な発言など、谷口さん自身が学んだことを書き残すことで、たとえ自分が異動した後も後任の人に見てもらえるようにしているとのことでした。この共有ファイルのアイデアは斉藤さんも早速取り入れたいと応じていました。

認知症カフェにかける「行政職」の人たちの真摯な思い

最後に、かつて姫路市で起きた「介護殺人」事件のその後を取材した記事に絡めて認知症カフェ再開の意義についてあらためて質問したところ、野瀬さんは今年度に入り高齢者虐待事案が増えていることを認識していると明かしました。

橋本さんは直接的な対策ではないと断りつつ、カフェの相談機能を多くの市民に知ってもらう必要があるといい、斉藤さんはカフェが初期の認知症の方との最初の接点になる可能性があり、行政や包括につながるような役割も期待したいと述べました。

今回の出席者の多くが高齢者虐待問題や生活支援体制整備事業などを兼務しており、各自治体では認知症カフェという取り組みがそうした施策とも連関するものと位置づけられていることがあらためてよくわかりました。

実はライブ配信終了後の、登壇者同士のあいさつ(未公開部分)のなかで、「認知症カフェ」という名前の是非について話題になりました。ある市でカフェ運営者から「『認知症カフェ』という名前では人が集まらないので他の名称にしたい」という意見が出たそうで、「自分は(名称変更を)断ったがみなさんならどうするか」と、登壇者の一人が問いかけました。

やはり同様の意見が出たことがあるという別の市の登壇者は「それこそ偏見である」と一喝し、カフェ連絡会で話し合って認識を改めてもらったそうです。一方で、「認知症カフェ」と掲げていない通いの場やコミュニティカフェなど、どこにでも認知症のある人が行けるようになることも理想的なのではないか、という意見も出され、シンポジウムの最後の最後まで真摯で前向きな話し合いが行われました。

少し大げさな言い方になりますが、今回の「認知症カフェこれから会議」は職責を超える情熱と志を持つ人々が行政部門にもいるということを明らかにしたと思います。そしてそれは今回登壇してくださった5人だけでなく、全国各地にいるであろうということも十分推察できるでしょう。

ぜひ今回の「これから会議」を視聴した参加者のみなさまには、それぞれの地元で行政職の方たちとも話し合うきっかけにしてほしいと願います。認知症に関するテーマは様々な立場があり多義的であるため、あらゆる人と垣根なく対話を重ねることしか新しいコンセンサスに至る道はないからです。

そして次回「認知症カフェこれから会議」は、雑誌、ラジオ、テレビなどの関係者が認知症および認知症カフェについて、だれに、どのように伝えるべきかを話し合う「メディア」回になる予定です。どうぞご期待ください。

フェイスブック「【認知症カフェ】これから会議withなかまぁる」グループページ
https://www.facebook.com/groups/2547079192271314/

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