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90歳祖母、勤務先のシニア「世代の美しさ」写真で残すソーシャルワーカー

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井原純平さん

精神保健福祉士の資格を持つソーシャルワーカーとして山梨県山梨市の日下部記念病院で働く井原純平さん(33)は、写真家としても魅力たっぷりの作品を発表しています。認知症と診断された90歳の祖母を約5年間にわたって撮影し、今年に入ると新たなチャレンジとして、勤務先のデイケア施設に通っている25人のポートレートも撮影しました。シニア世代を撮るようになったきっかけや、撮影している時にどんなことを考えているのか。朝日新聞甲府総局の吉沢龍彦記者が聞きました。

仲良しの祖母、「元気な姿を残してあげたい」

――井原さんが今夏、甲府市内で開いた写真展「NEW KOFU CITY 2020」を見ました。ニューヨークや甲府市などの街角で撮影した写真と合わせて、祖母ふくゑさんやシニア世代の写真をずらりと並べたのが印象的でした。ふくゑさんは継続的に撮影しているそうですね。

井原 5年ほど前から折に触れて撮っていて、かなりの枚数になりました。昨年、90歳を迎えた記念に「GRANDMA(グランマ)」という写真集を自費出版しました。

――撮り続けているのはどういうわけですか。

生まれた時から祖母とはずっと同じ家に住み、「ばあちゃん」と呼んでいました。2年前に実家を離れましたが、今でもすごく仲が良くて、若い人が集まるカフェに一緒に行ったこともあります。祖母を連れていると「えらいね」とほめられますが、自分にとっては普通で、自然のことなんですね。

祖母が80歳を過ぎたころから、「やっぱり、少しずつ年を重ねているんだな」と思うことが増えました。それで、「今のうちに元気な姿を残してあげたい」と思うようになったんです。

2年前に認知症に。カメラ向けると目に力宿る

――写真はほおに手を当てて柔らかく笑っていたり、サングラスをかけてちゃめっけたっぷりにポーズをとっていたり。

2年前に認知症と診断され、以前とは様子が違うと感じられることが多くなりました。それでもカメラを向けると、自然と目に力が宿って、ほほえみを返してくれます。その時々の、いちばんいい表情を撮りたいと思っています。サングラスは、遊び心で自分が持っているものをかけてもらいます。カート・コバーンというアメリカのミュージシャンが愛用した丸い縁のサングラス。かっこいいでしょう。

グランマを撮る井原さん2
井原純平さんが撮影したデイケア施設の25人のポートレート。病院の交流ルームにずらりと展示されている

――デイケア施設のみなさんの写真も同じように魅力的でした。

勤務先の病院の「つくし教室」という施設で、主に軽度認知障害のあるシニア世代を対象に、もの忘れの進行を予防するプログラムをしています。そこの利用者25人にモデルになってもらいました。

――どんなふうに撮ったんですか。

地元の写真館の協力で、院内にセットを設けて撮影会を開いたんです。同僚職員に頼んで、女性にはメイクも施してもらいました。1日で25人全員を撮影したんですが、いい表情を逃さないようにしようと心がけました。

――いい表情とは?

人によって違います。カメラを向けるとにっこりと和む人もいれば、キリッと引き締まる人もいます。一人ひとりの個性が表れていると思いました。認知機能が衰えても人の内面は変わらないんですね。お年をめしていても、その世代の美しさというものがあるんだなと改めて思います。

――写真は今、病院内の交流ルームに展示されていますね。

ご本人にも見ていただき、言葉をかけていただきました。「よく撮れているね」「別人のよう」などと言われました。若い頃の写真はあるけれども、最近は撮っていない、ものすごく久しぶりという方が大半です。スタジオで撮影することもめったにない。モデルになるのはうれしかったのでしょうね。みなさん、とてもいきいきとした表情になっていると思います。

グランマを撮る井原さん3

――撮影のコツは。

距離感、でしょうか。いい表情を引きだそうと思ったら、遠すぎて他人行儀になるのもいけないし、迫りすぎてプレッシャーを与えてもいけない。さりげなくレンズを向けて、よい雰囲気になった時にタイミングよくシャッターを切ります。そのために、カメラもシャッター音の小さい機種を使っています。写真というのは、人と人とのコミュニケーションの一つなんですね。

――ソーシャルワーカーとはどのような仕事ですか。

患者と地域社会をつなぐ仕事です。精神科の病院で、生活や仕事の面などで困りごとを抱えている患者さんは少なくない。その話を聞いて解決を図ります。地域社会の中でうまく生活できるようにお手伝いするのは大切な仕事の一つです。

――やっぱりコミュニケーションが大事ですね。

写真でも、患者さんの魅力を表現することによって、病院と地域社会、患者さんと地域社会をつなぎたいと思っています。そう考えると、ソーシャルワーカーの仕事と写真撮影とは、共通点が多いですね。

グランマを撮る井原さん4
つくし教室の様子。利用者は教室のような雰囲気の部屋で、工作や塗り絵に熱中していた

「つくし教室」は学校の雰囲気

井原さんがポートレートを撮影したシニア世代が集う「つくし教室」は、日下部記念病院が運営するデイケア・ナイトケア施設です。軽い認知機能障害があるなど、認知症の進行に不安を感じている人を対象にしていて、医療保険に対応しているのが特徴です。専門的な知識・技能を持つ看護師や作業療法士が接し、認知機能検査もしながらデータに基づいた活動をしているそうです。
9月19日の土曜日に記者が見学した際には、約40人の利用者が塗り絵や工作に取り組んでいました。それぞれ机に座り、熱心に作業をしているのが印象的でした。
「教室という名前の通り、学校のような雰囲気をつくりだすようにしています」と、担当看護師の佐野清子さん(55)が教えてくれました。「人はいくつになっても学びたいという気持ちを持っています。みんなで集まって勉強するということに、やりがいや生きがいを感じてくれる人が多いです」
机といすは小中学校と同じタイプのものを使っています。時間割もあって、この日は午前中が体育、午後が家庭科・図工でした。ほかに国語や算数、社会などの日もあります。運動を中心に、体と頭を同時に使って「楽しむことを第一」に活動しているそうです。

朝日新聞甲府総局・吉沢龍彦
1966年生まれの54歳。山口、福岡、東京、山形などで硬軟いろいろなジャンルの取材をしてきた。昨年5月から甲府総局で山梨県内の取材を担当している。

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