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認知症の義母も葬儀に参列させたい!家族のお願い大作戦 もめない介護76

盛夏に鳴く蝉のイメージ
コスガ聡一 撮影

義父母のどちらかが亡くなったとき、遺された義父(あるいは義母)は葬儀に参列できるのか。それは、義父母がともに認知症だとわかったときから、うっすらとした気がかりとして、ずっと頭の片隅にありました。

義父が入退院を繰り返す中で、葬儀社に打ち合わせに行くことに抵抗を感じなかったわけではありません。現に夫は、かたくなに喪服を用意することを拒んでいました。「ブラックスーツを仕立てた途端、親父に万が一のことがあったら、寝覚めが悪い」と言うのです。

それでも、葬儀社への生前相談に踏み切ったのは「認知症の親を葬儀に参列させたいときの段取り」を少しでも探っておきたかったのです。ただ、残念ながら葬儀社との打ち合わせでは、悩み解決には至りませんでした。

どの葬儀社からも「参列していただいて構いません」とは言われたものの、とくに認知症に対する配慮や対応があるわけではないという説明です。あくまでも「家族が付き添い、何かあったら対応すること」が大前提になっていることがわかりました。

喪主の妻と、義母のサポートは両立できるのか

介護のキーパーソンとしてかかわるなかで、認知症への対応にはだいぶ慣れてきました。義父が亡くなったストレスで、義母が戸惑ったり、いらだったりしても、ある程度は対応できるだろうと考えていました。でも、身体介助については、自信がありません。

これまでも外出のとき、ちょっと手を貸すとか体を支えるといったことはあったけれど、逆に言えば、その程度。施設に入ってからはなおさら、トイレ介助や食事のサポートをする機会はほぼないまま、現在に至ります。しかも、今回は「はじめての葬儀」です。長男である夫が場を仕切らなければいけない可能性が高く、そうなるとわたしの裏方仕事もそれなりに多くなりそうで、義母のサポートと両立できるものなのか……。

いつもは楽観的な夫も「なんとかなるよ」とはさすがに言いません。ただ、「大変そうだから、参列はナシにしよう」という選択はしたくないという点は夫婦で一致していました。では、どうするか。

“家族だけでなんとかする”のではなく、プロに付き添ってもらおうと考えました。以前在宅でお世話になっていたヘルパー事業所に相談するなどいくつかの案がありましたが、まずは万が一のことが起きたら、義父母が暮らす有料老人ホームに相談しようと決めました。

通夜は「家族対応」で乗り切ることに

さて、義父が亡くなり、いよいよ認知症の義母がどうやって通夜・葬儀に参列できるかの本番です。

今回、通夜と葬儀は火葬場に付属した公営斎場で行うため、葬儀の後に火葬場までマイクロバスでの移動する必要はありません。その代わり、公営斎場までは義母が暮らす施設から車で片道1時間とそれなりに距離があります。2日間の往復をすべて自分たちが引き受けるとなるとかなり荷が重い。もし、通夜・葬儀に施設の方が誰か付き添ってくれるのであれば、行き帰りの付き添いもお願いできるかもしれない、という期待もありました。

葬儀の打ち合わせが終わり、通夜・葬儀の日時が確定したところで、さっそく施設に電話をかけました。最初に応対してくれたのは、いつもお世話になっている相談員さんで「施設長に相談してみないとわからないので、少しお時間をいただけますか」とのことでした。

電話の向こうの声は少し戸惑っているようでもあって、これは期待薄かと思っていたら早々に施設長から折り返しの連絡があり、葬儀の付き添いはOK。ただ、通夜に関しては「夜勤帯にあたるため、スタッフの人数が少なく、対応するのが難しくて……すみません」という回答でした。なるほど……!

夫と相談し、通夜に関しては「家族対応」で乗り切ることにしました。以前、在宅でお世話になっていたヘルパー事務所に自費利用での付き添いを相談することも考えましたが、同じように夜間は難しい可能性もあります。また、ネットで検索すると、葬儀は「難しいと思って参列をあきらめた」という経験談ばかりがヒットする一方で、通夜に関しては「通夜だけ参列させた」「通夜ならなんとかなる」という声が多かったのです。

通夜・葬儀当日の段取りを立ててみる

オペレーションを複雑にしすぎず、個々の負担をなるべく小さくする。そう念頭に置きながら組み立てたのが次のプランです。

■通夜
・レンタカーを借りて、施設に義母を迎えに行き、そのまま公営斎場に向かう
・通夜の間は原則、義姉に付き添いをお願いし、義母のメンタル面のケアなどは必要に応じて適宜サポート
・通夜終了後は、義姉の付き添いで施設まで戻る

■葬儀
・朝、施設の介護士さんと一緒にタクシーで公営斎場に向かってもらう
・葬儀の間は介護士さんが付き添ってくれる
・葬儀終了後は、レンタカーで義母を施設まで送る
(介護士さんは直帰)

葬儀当日は、義父母の担当をしてくれていた介護士さんが付き添ってくれることになり、かなり気がラクになりました。明るくて朗らかな方で、彼女が「お風呂ですよ」と知らせに来ると、「じゃあ、ちょっと行ってくるわね」と迷わず面会の家族を置き去りにするぐらい、義母のお気に入りのスタッフさんです。ご迷惑でなければ、「精進落とし」の席も一緒に囲んでいただきたい旨をお伝えし、快諾いただきました。

当初は、葬儀が終わったらレンタカーで義母と介護士さんを施設まで送り届けるつもりでした。でも、施設長さんから「現地解散にしませんか。付き添いは“1時間あたりいくら”の自費利用なので、そのほうが多少なりともご負担を減らせると思います」と提案があり、直帰してもらうことに。

これで、自分たちだけで抱え込まずに回せそう!

義母の通夜・葬儀参列に残る課題

でも、義母の通夜・葬儀参列にはまだ課題が残っていました。それは喪服の準備! 腰が多少曲がりながらも自分の足で歩いていた義母も、ここしばらくは足元がおぼつかなくなり、歩行車や車椅子を利用する機会が増えています。おそらく葬儀は車椅子での参加になるはず。

義母はもともと、かなり衣装持ちで喪服の1枚や2枚、探せば実家のどこかにありそうですが、いまの義母に着られるのかどうか……。新たに購入するとしても誰が買うのか、また当日の着替えをどうするのか。考えれば考えるほどタスクが多すぎて、頭を抱えたくなります。
でも、“やるべきこと”が多いのは悪いことばかりではないという出来事もありました。次回、「認知症の義母の、喪服の準備と着替え」について紹介します。

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