車イス&認知症の義母「喪服をどうするか問題」勃発! もめない介護77
編集協力/Power News 編集部
義父が亡くなり、通夜・葬儀を行うとき、認知症の義母をどうするか。できれば、通夜・葬儀ともに参列させてあげたい。それについては、家族の意見は一致していました。しかし、「認知症の家族を通夜・葬儀に参列させる方法」をインターネットで調べると、「難しいからやめました」という体験談ばかりが次々にヒットします。
かろうじて、「通夜だけなら、時間の融通もきくし大丈夫」と書かれているものもありましたが、通夜と葬儀の両方となると“こうすればうまくいった”という話がなかなか見つからず、完全に手探り状態で準備を進めることになりました。
「当日の服装をどうするか」も、悩んだことのひとつです。
義母のクローゼットにはたくさんのワンピースやスーツがしまわれており、その中にはブラックスーツに近いようなものもありました。でも、認知症介護でかかわるようになって以来、義母がスカートをはいているのを見たことはありません。体型はさほど大きく変わってはいないと思うのですが、ストッキングの脱ぎ着は難しそうな印象です。普段の洋服でも、ストレッチのきいたピッタリしたものは「締め付けられてイヤ」と訴えることが、これまでにも何度かあったためです。
他人の目を誰よりも気にする義母
当時、義母は自分で歩こうと思えば歩けないことはないけれど、時々ふらつくこともあり、施設では歩行車を利用。お見舞いなどの外出時には、車椅子を使う機会も増えていました。通夜・葬儀のときも、施設から車椅子を貸してもらい、基本的には車椅子で移動しましょうという話になっていました。そうなるとますます、従来の「喪服」だと身動きが取りづらそうです。
ただ、義母の性格を考えると、親戚が皆、喪服を着ている中で、自分だけが普段着だったら、それはそれで気にしそうでもありました。義母の他人の視線に対する感受性は筋金入り。たとえば、義父が元気だった頃にはこんなやりとりがありました。
義父のリクエストで施設にカステラやチョコレートなどの差し入れを持っていくと、義母が浮かない顔をしています。気に入らなかったのかなと思い、聞いてみると、「カステラは食べたいけれど、おやつの時間に出してもらうのは困る」と言います。
義母いわく「ほかの方と違うものを食べていると、なんて言われるかわからない」。
そして、義父に対して「どうしても食べたいなら食べてもいいけど、隠れてお食べなさい」とせっせとアドバイスしていました。義父は「おかあさまは取り越し苦労が多い」と聞き流していましたが、義母からすれば「おとうさまはマイペースすぎる」と映っていたようで、よく小競り合いをしていました。
葬儀の準備で手一杯。義母の喪服準備まで手が回らない
そんな義母ですから、最低限の体裁は整えておかないと、そのストレスがどのような形で現れるのか想像がつきません。なんとかして“喪服っぽい服装”を用意する必要がありそうです。
ただ、私も夫もフリーランスで仕事をしているため忌引き休暇はなく、仕事の合間に葬儀屋とやりとりするだけでパツパツ。親戚の方々への連絡は義姉が引き受けてくれてとても助かりましたが、それでもこちらで義母の洋服探しのための時間を捻出するのはどうにも難しそうです。そこで、義姉に相談してみることにしました。
わたし「通夜・葬儀のときのお義母さんの服、何か黒くて着やすそうなものの用意をお願いできますでしょうか。ズボンはいつも黒いものを履いてるので、上に着るものがあれば大丈夫かと思います。あと、靴と靴下がいつも履いてるのがカラフルなので、黒で同じような履きやすいものがあれば、お願いできるとありがたいです」
義姉「いま母と一緒ですか? サイズを見られますか? あの靴は私が用意したのですが、忘れてしまいました。黒の上に着られそうなものですね」
洋服の購入、試着とも、義姉にお願いできることに
わたし「いまは一緒ではないのですが、このあと往診付き添いで施設に行くので、靴のサイズを確認しますね。洋服はものによってSとMがあります。締め付けられるとイヤとおっしゃるので、襟ぐりがあまり大きく開いていないMサイズで、肌触りが良さそうなものがよいかもしれません。襟周りが開いていると肌着が見えちゃうことがありまして」
義姉「靴は介護用品店で買ったのですが、(サイズ表記は)SとかMかもしれません。よろしくお願いします。上に着るものは、緩めで伸縮性のあるものがいいですね」
わたし「お姉さん、調達していただいた洋服を持って施設に行けたりしますか? もし行けそうだったら、事情が事情なのでなんとか試着のために面会させてもらえないか相談してみます」
義姉にLINEメッセージを送ると、すぐ返事が来て、洋服の購入はもちろん、試着面会も義姉にお願いできることに。当時、施設では新型コロナ対策による面会制限が続いていましたが、「緊急事態制限」明けで多少緩和されたこともあって、イレギュラーでの面会も承諾が得られました。
義姉からは「トイレの失敗に備えなくて大丈夫?」「母が履いているズボンのウエストから裾と股下から裾のサイズがわかれば、予備のズボンを手配できます」という問い合わせもありましたが、採寸は時間的に厳しそうなので断念。ズボンは購入せず、施設に置いてある着替えの中から余分に1本持っていこうという話になりました。
わたしのものじゃない洋服がタンスに入っていて気持ち悪い
そして、購入してもらった当日用の「服装」は有料老人ホームの居室には置かず、紙袋などにひとまとめにした上で、事務室に預かってもらうよう義姉に伝えました。施設にもその旨は電話でお願いしてあります。
というのも、義母はもの盗られ妄想があり、洋服の増減に敏感です。洗濯などで洋服が見当たらなくなるときはもちろん、見慣れない服があるときも不安になるということが多々ありました。
以前、施設の1Fホールで洋服の買い物ができるという“お買い物レク”に参加したときもそうでした。「この花柄はおかあさんに似合いそう」「こっちはちょっと首がつまっていて苦しいから、こっちのほうが好き」と盛り上がり、楽しく買い物をできたのは良かったのですが、問題はその後です。
翌日ぐらいから、「わたしのものじゃない洋服がタンスに入っていて気持ち悪い!」「誰か勝手に部屋に入ってるはず」と大騒ぎになり、しまった! と頭を抱えたのでした。
普段であれば、買い物レクに参加したことを繰り返し説明したり、その様子を撮った写真や動画を見せたりすることで少しずつ義母も落ち着いてくれます。でも、今回の通夜・葬儀は1日限り。当日になって「着ていくはずだった洋服がない!」という状態になることはなんとか避けたい。事務所に預けておいてもらえば、その心配はなくなると考えたのです。
これで義母の喪服に関しては準備万端!と思っていましたが、実はまだまだ見落としがありました……。通夜当日のすったもんだはまた後日、ご紹介します。