もめない介護

不謹慎上等!思い出づくりの撮影大会 安置所でスタート もめない介護78

コスガ聡一 撮影

「あの方(義父)はどちらにいらっしゃるの? なかなかいらっしゃらないようだけれど、車が混んでいるのかしら?」

義父が亡くなってから数日後、安置施設で「納棺」がありました。葬儀社の担当さんからは「お仕事などでお忙しい場合は“お任せ”もできます」と言われてましたが、“せっかくだから”と義母、義姉、わたしたち夫婦の4人で立ち会うことに。

当日の朝、夫が運転するレンタカーで義母を迎えに行くと、ウキウキした顔で施設の玄関にスタンバイ。やけに機嫌がいいと思ったら、どうやら外出だと思っていたようです。キョロキョロと義父の姿を探し、「準備が遅いわねえ。こまった人ねえ」と苦笑いしています。

「今日は俺たちとおふくろだけだよ」
「あら、そうなの」

夫が声をかけると一瞬、納得したような顔をしつつも、しばらく経つと「どちらにいらっしゃるの?」「車が混んでいるのかしら?」が復活。

「おとうさんは現地にいらっしゃいますよ!」
「そうなの。ならよかったわ~」

ストレッチャーの上の義父をまじまじとみつめる義母

もしかして義母は、義父が亡くなったことを忘れてしまっている? 義父に対面した途端、ショックでパニックを起こすフラグ……? 不安は募りますが、かといって、車中で説明してもかえって混乱させていまいそう。ええい、なるようになれ!と義母がいま、思い描いているであろうストーリーに話を合わせながら車を走らせること1時間。安置施設の近くで義姉とも合流し、いよいよ義父と再会する瞬間がやってきました。

「ねえ、あの方がまだ見えてないんだけど、大丈夫なの?」
「おとうさんなら、中にいますよ」
「え? そうなの! いつの間に追い抜かれたのかしら」

そう言いながら、車椅子から立ち上がろうとする義母を見て、義姉が「危ないから!!」とあわてて押しとどめ、夫が「乱暴だよ……」と顔をしかめます。義母は「あなたって、ホント声が大きいわねえ」と素知らぬフリ。毎度おなじみの家族コントが繰り広げられつつ、義父とご対面です。

納棺スペースの中央にはストレッチャーに載せられた義父。椅子が数脚と、焼香台が置かれていました。スタッフの方2人に加えて、大人4人が入ると満員に近いこぢんまりとした部屋です。義母に聞くと「立っても大丈夫」というので、体を支えながら車椅子から立ち上がってもらい、車椅子は畳み、脇によけておくことに。

「あら……」
義父に向かって数歩近づいた後、義母は一瞬、言葉を失い、ストレッチャーの上の義父をまじまじと見つめていました。そして「ぜんぜん違う人みたいね」とポツリ。

義母はいま、どんな気持ちでいるのか

「おとうさんは体調を崩されて入院したり、退院したりを繰り返したりしていましたが、3日前に亡くなりました。前日はおかあさんと会っておしゃべりをして、当日の朝もお医者さまとお話した後、すうっと眠るように亡くなったそうです」
「そうだったの……」

「これから、おとうさんをお棺に入れるにあたって、ここにいる方たちが身支度を整えたり、お顔をきれいにしたりしてくださいます」
「……大変お世話になります」

義母は、安置施設のスタッフの方に深々と頭を下げると、心ここにあらずといった感じで、ぼんやりと義父を眺めています。それでも義姉が「こうしていると、なんだか眠ってるみたいね」「パパが何かしゃべりだしそうじゃない?」と話しかけると、「そうねえ」とニコニコする瞬間も。

ドカンと泣きじゃくるほどのパニックにはなっていないように見えますが、ほかの人の手前、気持ちを押し殺している可能性もあります。義母がいま、どんな気持ちでいるのか。どれぐらい危機的な状況にあるのかがつかみかねて、ハラハラします。

義母からの、思いがけないリクエスト

そうこうしているうちに、義父の身支度は順調に進んでいきます。ファンデーションや頬紅で肌の色を整えてもらったおかげで血色もアップ。病院を出たときよりもさらに一段、生前の様子に近づいてきました。いまにも大あくびをして目を覚ましそう!

義父の姿が整うにつれて、義母の口数も増えてきて
「あなた、いいお顔にしてもらってよかったわねえ」
と、しきりに話しかけています。

義父を棺に入れるときも、「わたしも持ちます」と立候補。「お母さまはご無理なさらずに」とスタッフさんに言われても聞かず、しっかりと敷物の端をにぎり、「よいしょ!」と掛け声をかけて、持ち上げる動作をしていました。

真っ白な棺に納められた義父。その枕元で義母が「あなた、早すぎるわよ」とつぶやいているのを見ると、ちょっと泣きそう。でも、次の瞬間には夫が「90歳を過ぎて、“まだ早い”と怒られたら親父もかわいそうだよ」とツッコみ、義母も「それもそうねえ」とケロリと答えるものだから、またまた涙が引っ込んでしまいます。

そして、義母から思いがけないリクエストがありました。

「……いっしょに写真を撮りたいぐらいね。そんなこと言ったら怒られるかしら?」
「撮りましょう!」

義父がいた時間へ再びタイムスリップ

急遽、棺に入った義父を囲んでの撮影大会が始まりました。
スタッフさんの話によると記念撮影はもちろん、納棺の一部始終をビデオで撮影するご家族もいるそうです。

まずは義父と義母のツーショット。「もっと近づいて!」「笑って笑って!!」と大盛り上がりで撮影した後、カメラ係をお願いし、私たちも義父母と一緒に撮らせてもらいました。TwitterなどのSNSに上げたら、秒で炎上しそうな不謹慎ショットがズラリ。親戚にも見せるのは憚られるぐらいだけれど、義母が望むなら、義父と義母との思い出をひとつでも残せるなら不謹慎上等! そんな気持ちでした。

納棺を終えたら、次に義父に会えるのは通夜の会場です。お線香をあげ、後ろ髪を引かれる思いで車に乗り込みました。

「おとうさん、いいお顔でしたねえ」
「あんなに美男子だったなんて知らなかったわ」
「おかあさん、ご本人の前で言ってあげてくださいよ」

笑いながらそんなことを言い合いながら、車を出発させると、後部座席の義母からこんな質問が飛び出しました。

「ところで、あの方(義父)はどちらにいらっしゃるの? 車が混んでるのかしら。遅れるなら遅れるで連絡ぐらいすればいいのに。困ったひとねえ」

いまこの瞬間、同じ時間軸にいて話をしていたかと思うと、違う時間軸にひょいとタイムスリップしてしまう。予想がつかない“行ったりきたり”を繰り返しながら、ゆっくりと義父とのお別れの時間が近づいていました。

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