オンライン化に戸惑った5月から新スタンダード構築へ、認知症カフェのいま
取材/コスガ聡一 調査協力/中西雅子
いつもは動画コーナー「コッシーのカフェ散歩」を担当している認知症カフェジャーナリストのコスガ聡一です。コロナの影響で急速に広がった、認知症カフェのオンライン化について、現状を報告します。
新型コロナウイルス感染拡大とその後の予防対策のため多くの認知症カフェが思うように開催できなくなっているなか、その代替手段として日進月歩のIT技術を活用するオンラインカフェが登場してきました。今年5月頃はまだ一部の先行したカフェによる限られた取り組みでしたが、6月に『なかまぁる』が立ち上げたFacebookグループ「認知症カフェこれから会議」で話題になるころから急速に普及し、7月になるとほぼ毎日どこかで開催されているような状況となっています。
上の表は今年7月に開催された認知症をテーマとする72のオンラインカフェをまとめたものです。情報提供と人力検索でリストアップしたため日本中で行われている取り組みのすべてを網羅できているわけではありませんが、「ほぼ毎日」という表現が大げさではないことがわかります。
なおこの表ではオンライン講演会や専門職向けセミナーを除いています。『なかまぁる』が関係するものでも『第2回認知症カフェこれから会議』(7月28日)は含めましたが、『撮りますから、よろしくお願いします。信友直子監督オンライントークイベント~カメラ越しの母が教えてくれたこと~』(7月16日)は含めていません。ですから認知症をテーマとする「オンラインイベント」であれば、さらに数多く開催されていることになります。
Zoomがデファクトスタンダードに
一目瞭然のところから確認していきましょう。ほとんどのカフェがツールとしてZoomを使っています。そして開催時間40分を超えるカフェが多いので、制限時間がある無料版ではなく有料版が使われていると推測されます。GoogleやMicrosoftなどの大手からも同様のアプリが出ているのにも関わらずこの趨勢であり、Zoomはオンラインカフェのデファクトスタンダードとなったといえるでしょう。
またほとんどのカフェが参加費をとっていません。従来のオンサイト(「現地で行う」の意味)のカフェでは無料が約30%(※「認知症カフェの実態に関する調査研究事業報告書」2017年)という割合でしたので比率に変化が起きています。簡便なオンライン決済の手段が普及していないという事情もあるでしょうが、これまで飲み物などの対価と認識されていた参加費は必要なくなった(自己負担になった)と理解されているのでしょう。
このオンラインカフェ無料化の流れは、やがてそこで醸成される参加者の関係性にも変化をもたらすかもしれません。少額だったとはいえ金銭が介在しなくなれば「業務」感がなくなる一方でサークル化する可能性があり、すでに体感的にはそのような傾向を感じることもあります。
夜カフェがブームに
さらに気が付くのは夜のカフェが多いこと。2017年の全国調査では「夜間」開催のカフェは0.3%しかありませんでしたが(「AM」21.6%、「PM」64.1%、「終日」14.0%)、上記の表では夜開催が39か所と全体の半数以上になっています。
すなわちカフェはオンライン化を機に日中開催から夜開催が主流になりつつあるということです。この変化はどのような意味があるのでしょうか。
毎月2回、「昼の町内会」と「夜の町内会」というオンラインカフェ(生参加も可能なハイブリッド)を主催する愛知県東郷町の介護福祉士・田中恵一さんは、時間帯によって参加者の顔ぶれは異なるといいます。
「昼の参加者は本人・家族など40代から50代が中心で、たまに60代以上の方もいます。夜は20代など若い方もいたりして平均年齢は下がるように感じられます。人数は昼が10人くらいなのに対し夜が20人ほど。夜の参加層は昼間に参加できない年齢や職業の人が多い印象です」
昼と夜で参加者のニーズは違う
また東京都小金井市「認知症カフェぬくいきた」や企業内カフェ「ケアギバーズカフェ」など昼のカフェを開催してきたNPO法人・UPTREE代表の阿久津美栄子さんは、昼と夜で参加者層が変わることを以前から認識していたといいます。
「これまでとってきたアンケートから、夜のニーズがあることはわかっていました。介護初期の人より、介護を長く続けてきて自分のペースをつかんだ人は夜のほうが参加しやすいようです。わたしたちはそのような人に向けて夜のオンラインカフェを始めました」
UPTREEが主催する「あっぷあっぷカフェonLINE」は、多くの人が使い慣れたアプリ・LINEで行うカフェです。夜21時開始という遅めの時間帯(8月からは昼開催も追加)で、最大の特徴は通話ではなく文字ベースでコミュニケーションすること。深夜、自分の顔や部屋を見せずに認知症や介護について話したいという人は、そのほうが参加しやすいそうです。
そして阿久津さんたちはオンラインに参加していない人へのフォローも忘れていません。これまで昼のカフェに参加していた常連さんと手紙をやり取りし、その内容を誌面にまとめて「新聞」にしているそうです。これにより常連さん同士がお互いの近況を分かるようになっています。
新しいカルチャーをどう育てるか
感染症対策で実際に集まれない代わりとして登場してきたオンラインカフェですが、次第に従来のオンサイトカフェとは異なる層が参加しはじめていることがわかりました。オンラインカフェは新しいカルチャーになりつつあります。
願わくば、もう少し日中(特に午前中)のオンラインカフェが増えるといいでしょう。新たな参加者を歓迎するのと同時に、これまで参加していた人たちの存在を忘れてはいけないからです。オンラインが難しければ手紙や電話など使い慣れたコミュニケーション手段を駆使することもできます。カフェを開催する人は、ぜひ声なき声、姿なき姿に常に思いをはせてほしいと思います。