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母が認知症に 迷惑をかけるので仕事をやめてほしい【お悩み相談室】

手すりを消毒する女性のイメージ

介護支援専門員(ケアマネジャー)の長澤かほるさんが、介護経験を生かして、認知症の様々な悩みに答えます。

Q.一人暮らしの母(73歳)が初期の認知症と診断されました。10年くらい前から午前中だけ近所のマンションで清掃の仕事をしています。行き帰りやマンションの住人に迷惑をかけるなど仕事で何かあったら困るので、やめてほしいと思っています。しかし本人は続けたいらしく、あまり強くは言えません。(48歳・女性)

A.娘としての立場や先回りしたいお気持ち、わかります。でも、今、お母さんから仕事を奪ってしまったら、毎日やることや生きがいがなくなって、認知症が進んでしまうかもしれません。初期の認知症ということですし、本人に働きたいという意欲があれば、続けさせてあげるのはいかがでしょうか。

相談者は「マンションの住人に迷惑をかける」と心配されていますが、そうなったらなったで「仕方ない」と割り切ってもいいのではないかと思います。お母さんが迷惑をかけたときに、相談者が責任をとらされるわけではないはずです。お母さんと自分を切り離して考えてみてはいかがでしょうか。

問題はいつまで続けるのか、ということです。「仕事ができなくなるまで」というようにあいまいに期限を設定してしまうと、周囲は「もう無理」と判断しているのに、本人は「まだできる」と主張するなど、ズレが生じてしまう可能性があります。そこで「何歳まで続けるか」「あと何年続けるのか」というように期限を数値化し、感覚によるズレが生じないような区切り方を考えておくといいと思います。例えばお母さんに「73歳なのにまだ仕事をがんばっていてすごいね」とほめると同時に「いつかは引退しないといけないけれど、何歳までやる?」と相談してみてください。「あと1年」「75歳まで」などと決めて、目標を共有しておきましょう。

行き帰りの心配に関しては、難しいところですが、お母さんの携帯電話にGPS機能をつけるなど、安全を確保するためにできる限りの対策をとっておくといいと思います。

仕事に関して心配であれば、雇い主にお母さんが認知症であることを伝えておくのも一つの方法です。ただしその場合、「辞めてほしい」と言われてしまう可能性があります。そうなると、お母さんにとっては突然日常を奪われるようなものです。それを避けるために、辞めたあとのお母さんの生きがいになりそうなことを見つけておくなど、方策をとってから、雇い主に伝えることをおすすめします。

もちろん雇い主が認知症について理解があり、「やれるうちは続けてください」「今のところしっかりやってくれているので大丈夫ですよ」と言ってもらえる可能性もあります。その場合もお母さんと相談者の中で、期限を決めておくことをおすすめします。それを雇い主にも伝えておくと、安心されると思いますし、後任を見つける時期も明確になるので、信頼関係がより強まるのではないでしょうか。お母さんが「やり遂げた」と満足できる終わり方にすることが大切だと思います。

【まとめ】初期の認知症である母が仕事を辞めたがらない

  • 仕事を辞めると、症状が進行する可能性もあるので、問題が起きていないなら仕事を続けてもらう
  • 「何歳まで」「あと何年」など、退職する時期を本人と相談して具体的に決めておく
  • 雇い主に「辞めてほしい」と言われたときのために、お母さんの生きがいを見つけておく

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