認知症は「なったら終わり」?精神科医が伝えたい「なってからが勝負」

2025年には、高齢者の5人に1人が認知症になると言われています。今や認知症とは無縁ではいられない社会になりつつあります。20年1月25日、「朝日健康・医療フォーラム2020」が大阪の中之島会館で開かれました。その中から、セッション2「人生100年時代と認知症」~いつまでも元気に暮らしていくための「備え」~を採録でお届けします。

< 講演 >

「人生100年時代と認知症」~いつまでも元気に暮らしていくための「備え」~

松本一生先生 精神科医・松本診療所(ものわすれクリニック)院長

まつもと・いっしょう
松本診療所(ものわすれクリニック)院長、大阪市立大大学院客員教授。1956年大阪市生まれ。83年大阪歯科大卒。90年関西医科大卒。専門は老年精神医学、家族や支援職の心のケア。大阪市でカウンセリング中心の認知症診療にあたる。著書に「認知症ケアのストレス対処法」(中央法規出版)など。
「人生100年時代と認知症」をテーマに話す松本一生先生

早く気づいて、早く対応することが大切

認知症は「なったら終わり」と誤解されがちですが、「なってからが勝負」の病気です。私は診療所を開いて29年になります。70歳でアルツハイマー型の認知症になり26年間通院し、あまり悪化していない患者さんがいらっしゃいます。その方は、生活習慣病の悪化を防ぎ、筋肉が弱らないように運動し、人と交流を深めることを心掛けておられます。つまり、元気に100歳を迎えるには、ある程度の目標を持つことが大事なポイントです。

特に重要なのが、認知症に早く気づいて、良い医師に出会い、早く対応してもらうこと。認知症を診る医師に早めに相談し対応ができれば、認知症は悪化しないと考えています。ですから、まず気づくことが大事です。ご自身で次の5つ、【①物がなくなることが増えた➁いつも作ってもらっている料理の味が変わった③待ち合わせや約束を違えることが増えた④何事も「面倒くさく」なってしまう⑤おとといの晩ご飯の献立が思い出せない】からいくつか思い当れば、医療機関に相談してみるといいと思います。この5つは、私のところで、軽度認知障害から認知症に移った843人の発言の上位です。

家族や地域の人が次のような異変に気づくこともあります。【①これまでより怒りっぽくなった➁何度も確認が増えた③家電の操作ができなくなった④何事にも関心を示さない⑤大きなお札での支払いばかりする】この内3つ以上思い当れば相談する価値はあります。

生活習慣病をコントロールし、地域とつながりを

認知症になった人の生活習慣病(糖尿病、高血圧、脂質異常症)と、昼夜逆転や妄想、イライラするなどの「混乱」が起きる回数の統計を、25年程前から取っています。例えば、糖尿病があっても医師に診てもらって上手にコントロールできている安定群は、コントロールできていない非安定群に比べ、混乱が10分の1しか起きていません。血圧を安定させることで、昼夜逆転や不眠にならずに済むこともあります。生活習慣病をコントロールすることで、認知症の悪化を抑えられるのです。

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認知症のご本人のケアが始まって3~4年目で、混乱につながる行動・心理症状(BPSD)が起きやすくなりますが、年月の経過とともにこの混乱状態は改善します。ところが、ご本人が安定した頃に今度は介護しているご家族の不調が増え、血管性病変、不定愁訴、悪性新生物(がん)の症状が出ることがあります。ケア開始から6年目くらいでこれらの症状の出現回数はピークを迎えます。ご本人だけでなく、介護家族も支えることが必要です。

大切なのは地域包括支援センターや行政の人、そして皆さん一人ひとりを含む地域で、認知症の方やその家族を見守ることです。その際、個人の秘密や情報を守り、双方向の意見を伝えましょう。中には、ケアを受けることを無意識に拒否してしまう人もいます。現時点で何もできなくても、その人にしっかり目を向け続ければ、何かあった時には関われます。精神療法でいう「関与しながらの観察」ですが、地域で見守る時にも大事な視点です。

「地域のつながり 地域包括センターが大切」と話す、松本一生先生

< パネルディスカッション >

「人生100年時代と認知症」~いつまでも元気に暮らしていくための「備え」~

松本一生先生 精神科医・松本診療所(ものわすれクリニック)院長

進行役:朝日新聞社なかまぁる編集長 冨岡史穂

「拡大家族ネットワーク」をつくろう

冨岡 松本先生のお話をお聞きして改めて、「家族と」「地域と」という観点から準備していくことが、長く元気で生きていくための一番の備えだと思いました。ただ「家族が大事」と言われると、家族の介護をされている方が「家族が全部やらなければいけない」とプレッシャーに感じるのでは?

松本 「家族なんだからちゃんとやってくださいね」という一言くらい家族が苦しめられることはないですよね。家族もともに支えてもらうことがとても大事なんだというメッセージを、僕は伝え続けたいと思います。家族の不安定さがなくなると実は、認知症のご本人の病気の進行を後倒しできるというデータもあります。

冨岡 クリニックでご本人とご家族を見ながら「こういうときは要注意」と気をつけていることはありますか。

松本 「私、介護でつらい思いをしたことがない」といいながら、体の症状をいっぱい出している方には最大の注意が必要です。頑張りすぎているご家族ですから。それから「母のために人生を捧げます」と言っている息子さんがいたりしたら、自分を二の次にして介護に勤しんでしまって、息子さんが破綻してしまう危険性があったりします。3つ目は「自分が何でもしないといけない」みたいな発言をしている介護者がいたら、やりすぎ、頑張りすぎじゃないかと考えます。周りの方がさりげなく「腰の痛みはどう?」など症状を聞いてあげると、家族支援につながります。

冨岡 介護の話ではなく、介護をするご家族の体調の話ですか?

冨岡史穂編集長

松本 「誰々さん、ストレスがあるんじゃないの?」と聞いたら、大抵は「いやいや、大丈夫」と頑張ってしまう。例えば息子さんが「きょうはふらつく」とか「きょうはむかつく」とかおっしゃったら、その症状の相談に乗ってあげることで、簡単なかかわりができやすいのではないかと思いますよ。

冨岡 現代は核家族が当たり前で、独り暮らしの方も多くいらっしゃいます。「地域とつながりが大事」といわれても、なかなかそれが難しい。

松本 そうなんですよ。だから私は「拡大家族ネットワーク」と言っているのですが、地域で信頼できる人を、自分の「拡大した家族」の一員と考えるのです。認知症は発病する20年程前に発端が始まっているといわれます。それを考えると、できれば早めに周囲の人と連携し、自分の健康管理を心掛けておくことが認知症を減らす最大の力になると思います。

松本一生先生

冨岡 自分から拡大家族ネットワークをつくることが、一番の「予防」になるわけですね。ところで先生、認知症を予防する薬はあるのでしょうか。

松本 薬に希望がないわけではありませんが、私は生活習慣病をうまくコントロールし、血圧を安定させて生活することが、認知症の最大の予防だと言い続けています。
そして、今日は健康で100歳を迎えるためと題して、認知症についてお話ししてきましたが、実はこの話は、高齢者や若年性認知症の方だけの話題ではないし、生活習慣病や血圧コントロールだけの話でもないんですね。課題を早く見つけて、家族や地域とともに支えあっていくことは、少子高齢化の社会を生きるみんなに関わることなのです。僕自身に対する教訓にもしていきたいと思います。

冨岡 松本先生、ありがとうございました。

なかまぁるShort Film Contestノミネート作品上映

『ゆめ伴(とも)プロジェクト~認知症になっても地域で輝く~』上映の模様

なかまぁるは2019年に、認知症のイメージを変えようと「第1回なかまぁるShort Film Contest」を開催しました。「朝日健康・医療フォーラム2020では、応募があった37作品の中からコンテストに入賞したショートフィルム『ゆめ伴(とも)プロジェクト~認知症になっても地域で輝く~』(監督:佐野雄希)を上映しました。認知症の人や高齢者が地域社会で輝いたり、活動したりする場を生み出す大阪・門真のプロジェクトを紹介する内容です。認知症の人たちがカフェのスタッフとしてお客をもてなしたり、一緒に歩いたり走ったりする「RUN伴+門真」に参加したりするなど、生き生きとやりたいことに挑戦する姿がスクリーンに映し出され、会場の参加者は熱心に見入っていました。

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