今日はサケや!しゃべりとリズムで海へも川へも あるある探検隊の活動報告29
構成/福光恵 写真/レギュラーのマネジャー
「あるある探検隊」のリズムネタで一世風靡したお笑いコンビ・レギュラーの松本くんと西川くんは、いま介護施設をまわっています。テレビや劇場の一般客相手と違って、施設の利用者さんたちを笑顔にするのは、やっぱり難しい! そんな2人が見つけた、今日の介護現場の“あるある”は――。
長崎県の介護関連イベントの直前、レギュラーの2人は楽屋で険悪なムードになっていた。この日の出番は、「介護フェアの講演会」。チラシには「定員150人」「ファミリー層」と書いてある。
「今日どうする?」
楽屋に着くなり、当日のステージの流れの相談を始めた松本くん。
「いつもどおりでいいんちゃう?」
「え、ちゃんと客層見て言ってる? 何人くらいいた?」
「150人くらいとちゃう? いつもどおりやろうや」
ふだんのお笑いの舞台と違って、施設での介護レクリエーションや介護関連の講演会では、事前に観客の人数や様子などを西川くんがチェックしたあと、じっくりと2人で構成や出し物の段取りを決めて本番に挑むのが、いつものやり方だ。
この日、西川くんはちゃんと楽屋入り前に客席を見て、予定よりも高齢者が多いことに気がついた。となると、ちょっと流れが予想しづらいから、介護施設でやる「いつものメニュー」を多めに織り交ぜながら、その場その場で対応していくのがいいだろう——。
そんな提案をしたつもりの西川くんだったが、あくまでも普通の「講演会」だと認識している松本くんの気持ちはおさまらない。
「いやいや、いつもどおりってなんやねん。そんな打ち合わせじゃ無理や」
「だから“いつもどおり”でわかるやろ」
西川くんの言う“いつもどおり”の意図がよくわからないまま、不満を募らせる松本くん。かくして、“臨機応変に決めればいい”派の西川くんvs.“きっちり詰めてやろう”派の松本くんのバトルの火ぶたが切られた。
「あと3分で出番です〜」
ふと我に返ると、同行した社員やイベントスタッフの姿もなく、楽屋には2人きり。堂々巡りの口論は1時間近く続いていた。
ふたを開ければ、時間切れで“出たとこ勝負”でいこうと折り合った2人は、いつものお笑い営業に近いスタイルで、いままでにない盛り上がり!
激しくやりあったことをすっかり忘れ、お互い上機嫌で帰途についたのだった。
松本くん ほんま、あの日はケンカしたまま舞台に行ったよね。
西川くん あれは、なかなか雰囲気悪かったなあ。
松本くん 僕ら、いつものお笑いの営業では、客席の反応を見ながら、その場その場で流れを決めているけど、介護現場ではけっこう細かく段取りを考えているやんか。だから、だいたいこんな観客だからこうしようというのを事前に知っておきたいし、それがないと不安になるんや。
西川くん たしかに介護関連の仕事では、僕らもけっこうパターンが細分化されているからな。事前に会場の年齢層や雰囲気、テーブルの配置などから、10種類以上のパーツを組み合わせて構成を考えておく。
松本くん 介護レクリエーションならば、大きく分けて、元気な「アクティブシニア」バージョン、軽度の認知症の人たちのバージョン、そして重度の認知症の人たちのバージョンやね。講演会にも、いろいろなパターンがあるし。
西川くん 「アクティブシニア」が多いデイサービスなどでの介護レクリエーションだと、ゲームを多くして、会場とのおしゃべりも多めやね。逆に「介護度が高い」利用者さんが多いときは、ゲームというよりも、僕らがしゃべって、スタッフさんを巻き込んで楽しい雰囲気を作っていく感じ。歌やリズムものなどの音楽系も、介護度が上がるほど増やしてる。
松本くん その中間の「軽度の認知症」の人たちが多い場合が、実はいちばん難しいな。いわばサケみたいなもんやね。海にも行けるし、川にも行ける、みたいな。おしゃべりやリズムものなどをうまく組み合わせていこうとしても、だいぶ想定からズレが出てくる。
西川くん だから現場の様子を見ながら軌道修正していくっていうパターンやね。直前まで口論していたあの講演会が、まさにこれや。
松本くん 講演会も、客層によって内容を変えてるやん。高校生なんかが多いときは、「認知症にはこんな種類があって……」といったことを細かく説明する。彼らは勉強しに来てるわけやから。それが高齢者だと、認知症について説明するよりも、一緒にゲームなどで参加してもらうほうが断然、盛り上がるやろ。あの口論した講演会も、事前にこうしたパターンを決めておきたかったんや。
西川くん あの日は僕も迷いがあったんよ。講演会と聞いていたのに、客席を見ると、どうもお客さんの様子が違う。高齢者が多いし、たぶん、介護の勉強をしたいというより、日曜日だし芸人さんが来るっていうんで来てみました、という感じじゃないか。どうにも場の空気感が掴みづらかったんで、とりあえず、いつもの施設レクの出し物を多めにして様子をみようかと……。
松本くん まあ、結局、西川くんの言っていた「その場で決める」作戦でよかったな。なにやってもウケて、気分良くしゃべれたわ。介護施設ではいつも反応がイマイチの西川くんの「気絶ネタ」も大拍手が起こって、ばかウケしてたやんか。お客さんが僕らの間を取り持ってくれた形やな!
西川くん 松本くん、たしかにそれはアルな!(でも、大ウケしたのは僕の作戦やで)