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介護施設で、あるある探検隊♪

戦火と白米、僕を虜にする飽食のフィナンシェ あるある探検隊の活動報告30

「あるある探検隊」のリズムネタで一世風靡したお笑いコンビ・レギュラーの松本くんと西川くんは、いま介護施設をまわっています。テレビや劇場の一般客相手と違って、施設の利用者さんたちを笑顔にするのは、やっぱり難しい! そんな2人が見つけた、今日の介護現場の“あるある”は――。

レギュラーお二人のサイン色紙
写真は毎回、レギュラー公式マネジャーがスマホで撮影した「渾身」の1枚です!

地域の人たちが集まる小規模な介護イベントでのこと。子どもたちの出し物が終わり、いよいよレギュラーの2人による講演会が始まった。会場の多くは70~80代の高齢者。そこに、子どもやファミリー層の姿がちらほらと交じっている。
まずは、会場の空気をほぐすためのお約束の「アイスブレイク」。この日、2人が会場に投げかけた最初のお題は、「人生で一番よかった思い出」だ。

「旅行に行ったこと」「初孫を抱いたときのこと」「会社を勤め上げたこと」——それぞれの“いい思い出”が次々と挙がる。
そんななか、90代であろう長老の男性がまっすぐに手を挙げた。

「お国のために戦えたことです」

言うまでもなく、第2次世界大戦のことである。会場から「おお……」という小さなどよめきが上がる。想定外の答えに一瞬うろたえたレギュラーの2人も、なんとか調子を合わせた。
「ご苦労さまでございます!」

こういう場で戦争の話題が出ることはままあるが、悲しい思い出として記憶に残っている場合が多いのもまた事実。イベントで扱うには、なかなか微妙なテーマだ。そこで、いったん空気を変えようと、そそくさと次の質問に移ることに。
「じゃあ、いままで食べたなかで一番おいしかったものはなんですか?」

すると、いろいろな料理の名前が挙がるなかで、先ほどの男性が再び手を挙げてこう答えるのだった。

「白米」

「え、白米ですか?」
「戦争のときに食べた白米。甘く感じてうまかったなあ」

極限状態で食べる貴重な白米は、それはきっと言葉にできないほど美味だったに違いないが……。どうしても戦争話に行き着いてしまう展開に戸惑いながらも、飽食の時代に生きるわが身を振り返り、しばし「食」について考えさせられた2人だった。

松本くん あのときは、ちょっと焦ったね。前にも言ったけど、介護レクリエーションや講演会で思い出話をしてもらうと、こうやって戦争の話題が出るのは付き物やん。だから、深入りしないようにほかの話題に振ったのに、また戻ってしまうという……。

西川くん 僕はむしろ、感動したな。利用者さんとの会話のなかで戦争の話題が出てくることはあっても、暗い話がほとんどやろ。なのにあの先輩は、僕らみたいな若輩者に向かって堂々と「よかった」と言わはる。

松本くん たしかにね。ただ、やっぱり気を使うよね。会場は意外にシーンとするわけでもなく、フラットに「へえ」という感じだったけど、このまま話がヘンな方向にいったら嫌やなあ、とか。イヤな思いをする人がいないといいなあ、とか。

西川くん そりゃ、無邪気に「すごいですね!」とか言うわけにもいかないし、興味本位で聞く話でもないしな。嫌な印象を与えず、できる限り「スルーする」というのが基本スタンスやな。

松本くん ほかの人にわざわざ悲しいことを思い出させるのも本意やないしな。僕らの「回想法」は、楽しいことを思い出してほしいと思ってやっているもんや。みんなに楽しんでもらうための介護レクリエーションなんやし。

西川くん そりゃそうや。でも、それでも出てきてしまうのが戦争話なんだよねえ。

松本くん だから、「白米」のほうは少し話を掘り下げたで。「貴重なお米を食べたんですね」とか、もうちょっと踏み込んで、「おかずはいらないんですか⁉」とか。さすがに、「フリカケかけて食べたほうが断然おいしいですよ」とまでは、怒られそうでボケられんかったけど(笑)。しかし、話を聞くうちに何年かぶりに口にした白いお米だということがわかって、なんだか胸がじーんってしたわ。

西川くん ほんま、日々あれがうまい、あれがまずいとか言っている自分たちが恥ずかしくなったね。とくに松本くん、施設で出してくれた高級クッキーを食べて、「クッキーのイメージが変わった!」とか言ってる場合やないで。

松本くん そうやな。現代人の「食」やグルメ指向についても反省させられたわ。そういや、それで思い出したんやけど……。

西川くん わかった! この前、介護レクリエーションでお邪魔した東京・世田谷の高級ショートステイ施設やろ!

松本くん よくわかったな。しかし、あれはすごかった。高級クッキーどころの話やないで。なんと、ケーキが出てきたもんな。

西川くん それも施設に常駐するパティシェさんが作りはったオリジナルやで。高級ホテルのような豪華なショートステイ施設だったけど、さすが世田谷やわ。

松本くん とにかくびっくりした。施設によってサービスもいろいろあるねんな。コーヒーだって、有名コーヒー店の豆を使って1杯ごとに手で淹れるサードウェーブやで。

西川くん このコーヒーがまた絶品で、僕なんてお代わりお願いしたほどや。でも、その数日後に「一番おいしかったのは白米」と聞いて、改めて、グルメぶって大喜びしていた自分を恥じたわ。人間、贅沢したらあかんで~。なんでも食べ物は大切にしていかないとな。

松本くん そのとおりや。だから僕らに差し入れをくれるみなさん! 日持ちのするフィナンシェでお願いします!

西川くん 松本くん、それはたしかに……いやいや、僕にはチョコレートでお願いします!

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