深夜のチャイム、誰もいない玄関は、認知症ローテク疑似体験?もめない介護44
編集協力/Power News 編集部
「布団で寝ていたら突然、玄関チャイムが鳴りました。
(こんな朝っぱらから……)と眠い目をこすりながら、ドアを開けましたが誰もいません。
ヘンなのと思いながら時計を見ると、夜中の3時。
夫は「ダメだよ……こんな時間にドアを開けたら危ないよ……」と私に注意した後、グースカ眠ってしまいました。その矢先に、またピンポーン。気持ち悪い!
外の様子を確認したいのはやまやまですが、もしのぞき穴を見た瞬間、向こうからものぞかれていたとしたら……ギャー! ホラーマンガの名場面ばかりが思い浮かび、生きた心地がしません。布団を頭からかぶり、スマホでネット検索したところによると、結露や虫(!)などが原因で玄関チャイムが鳴るケースも存在するようです。
しかし、故障の可能性がわかったからといって、どうすることもできません。断続的に鳴り続けるチャイムに、カンベンしてくれ! と半泣きになりながら、ふと、義父母たちはこんな気持ちだったのかも、と思いました。
この連載でもご紹介していますが、義母は認知症になってから時折、“見えないもの”の話をします。
見知らぬ誰かに暮らしが脅かされる恐怖を体験から知る
自宅の2階に勝手に住みついた女性、家に遊びに来て小物を持っていってしまう子どもたち。有料老人ホームで暮らすいまも、「知らない人が部屋に入ってきてくつろいでた」と訴えることが時々あり、「さっきまでたくさんいたあの子たちはどこにいったの?」「母(義母の母)が来たような気がしたんだけど、見なかった?」と聞かれたりもします。
最近はだいぶ落ち着きましたが、介護が始まったころは、鬼気迫るような表情で訴えていたことも頻繁にありました。なんだかよく分からないけれど、見知らぬ誰かによって暮らしが脅かされそうになっているのは、さぞ恐かっただろうと。あのときの義父母の不安そうな顔の意味が、丑三つ時の玄関チャイムに心底ビビりながら、ようやく分かったような気がしたのです。
認知症の症状は多岐に渡ります。「認知症のせい」と頭では分かっていても、気持ちがついてこない瞬間もたくさんあります。親にとっても、自分にとっても初めての経験の連続ですから戸惑い、受け入れがたいのも、ある意味自然なことです。ただ、そんなとき、「認知症だから仕方がない」と無理矢理納得しようとする代わりに、これまで経験したことがある感情や感覚を重ね合わせてみると、理解の助けになることがあります。
日常的に起こる身近な経験が、介護に活きてくることも
たとえば、認知症による「もの忘れ」。介護が始まったころ、夫に「飲み過ぎて、記憶をなくしたときのことを想像すると、親父やおふくろの気持ちが少し分かる」と言われたときは、そこ!? と驚きましたが、確かに共通点がたくさんあるのです。
ひどく酔っているときほど、本人はその酔いを自覚できない。周囲から「酔っ払ってるでしょ!」と言われると、なんだか面白くないので「酔っていない」と言い張ってしまう。翌朝、目が覚め、記憶がおぼろげなときに「昨日はああだった」「覚えてないの?」と繰り返し言われると、申し訳ないを通り越して腹立たしい気持ちなることがある……などなど。
思い起こせば、30代のころはベロベロに酔っ払った夫と、「そんなところで寝てると風邪を引くから布団に入りなよ」「うるさい!」「なんなの、その態度!?」というケンカをしょっちゅうしていました。
そのうち、どうやら酔うと、“責められている”と感じるセンサーが過敏になるのではないかという傾向が見えてきて、内心アホかと思っていても、それが声に出ないよう気をつける。ひと声かけて相手が動かないときは、床で寝ていても放っておく。翌朝、「寝違えた……」「首が痛い」と嘆いていても、鬼の首をとったように説教しない。そんな風に対応を変えることで夫婦ゲンカが減った経緯がありました。このときの経験はすべて、義両親との対応にも活きています。
他人の失敗を大目に見る気持ちは、自分自身をラクしてくれる
また、私自身は、物心ついたときから、とにかく忘れ物やなくしものが多い子どもでした。親が共働きで夕方まで帰ってこないのに自宅の鍵をなくし、家に入れなくなった経験が何度もあります。ランドセルを忘れて学校に行ったこともたびたびありますし、逆に「そんなに教科書を忘れるなら、学校にランドセルを置いて帰りなさい!」と担任の先生に金切り声を上げられたこともあります。
「どうしてちゃんとしないの!?」とさんざん叱られ、困惑する気持ちも何度となく味わってきました。でもおかげで今、義父母がさまざまなものをなくしても、さほどストレスを感じずに済んでいるような気もします。
「ありえない!」と思うような失敗も、自分に無縁なものかというとそうではなくて、案外似たようなことをやってるかもしれません。完璧を目指すより、失敗をまあまあ大目に見ながら、対策を立てる。そう心がけることは、回り回って自分もラクにしてくれます。
ちなみに、鳴り続ける玄関チャイムの怪異現象はボタンが“半押し”になっていたのが原因だったようです。正しい位置になるよう調整したら、止まりました。