深夜にスーツで出勤?認知症の父の対応で家族は寝不足【お悩み相談室】
構成/中寺暁子
デイサービスを運営する島田孝一さんが、介護経験を生かして、認知症の様々な悩みに答えます。
Q.母が他界し、私たち家族は認知症の父(78歳)と同居しています。10年以上前に定年退職しているのですが、最近夜中になるとスーツに着替えて、会社に行こうとします。「会社はもう辞めたでしょ」「夜中なんだから寝よう」と説得しても反発されてしまい、夫や子どもたちも寝不足です。どのように対応すればおさまるでしょうか?(45歳・女性)
A.夜間の問題は家族で対応するしかなく、負担が大きいですよね。認知症の人は音や視覚の刺激が少ない夜間になると、漠然とした不安を感じやすくなると言われます。また、完全に覚醒しているわけではなく、寝ぼけたような状態になることで日中よりも症状が出やすい場合もあります。
お父さんの行動は、「認知症の人の行動および心理症状=BPSD」の一つです。認知症の人の行動には、必ず心理的な原因があります。原因を考えずに、例えばスーツを隠したり、ドアに鍵をかけたりして行動を止めようとしたところで、また別の症状が現われ、いたちごっこになるケースが少なくありません。
ではお父さんは、どのような心理でこのような行動に出るのでしょうか。認知症の人の症状を引き起こす心理的な原因として多いのが、喪失感や虚無感です。「自分は誰の役にも立っていない」「誰からも頼られていない」「自分の存在が家族のお荷物になっている」といった思いです。会社勤めをしていたころは、「家族の役に立っている」「会社では信頼を得ている」という実感があったはずです。そのころのようにスーツを着て会社に行くことで、今の喪失感や虚無感をうめようとしているのかもしれません。
つまり、今の暮らしの中でお父さんが役割をもったり、役に立っていると実感できたりすれば、夜間の行動はなくなるのではないでしょうか。例えば認知症になると、家族から感謝されたり、労われたり、意見を求められたりすることがなくなる傾向があります。就寝前や日中の関わりの中で「お父さん、今日はありがとう」「疲れたでしょ、ゆっくり休んでね」「お父さんはどう思う?」と声をかけるだけで、お父さんの承認欲求が満たされ、行動が変わってくると思います。
どのような声がけや関わりがお父さんの喪失感や虚無感を埋めるのか。家族だからこそ、それを考えることができるのだと思います。
【まとめ】認知症の父が夜間に会社に行こうとする
- 行動を引き起こす心理的な原因について考える
- 家族の役に立っていると実感してもらう
- 感謝や労いの言葉をかけたり、意見を求めたりする