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介護福祉士で漫画家でアートワーカー。ありのままの私で生きようと思える仕事

高橋恵子さん

介護の仕事で出会った高齢者との日々を、絵と言葉でつづった「なかまぁる」の人気連載「今日は晴天、ぼけ日和」。手がけるのは、漫画家としての活動と並行し、認知症専門のデイサービスで働く現役介護福祉士・高橋恵子さんです。高橋さんは「アートワーカー」としての顔も持ち、高齢者の方たちと絵を描くなどのアートワーク(芸術療法をもとにしたプログラム)を行い、介護の現場にコミュニケーションを作り出しています。

高橋恵子(たかはし・けいこ) 介護福祉士・漫画家・アートワーカー

1977年生まれ。家族の介護に悩んだ経験から、2002年より介護の仕事を始める。訪問介護事業所での勤務を経て、現在は認知症専門のデイサービス施設に勤める。18年12月より、「なかまぁる」で「今日は晴天、ぼけ日和」(毎週日曜更新)を連載中。20年1月から雑誌「訪問看護と介護」(医学書院)の表紙と連載「家でのこと」を担当する。

――アートワーカーというのは、どんなことをするんですか。

芸術療法をもとにしたプログラムである「アートワーク」をしています。高齢の方に行う場合は、主に感情の表現とコミュニケーションの活性化を目的とし、認知症が進んでいる方、手が不自由な方、どんな方でも参加してもらえるよう、さまざまな材料を工夫しながら使っています。

例えば、2017年2月には梅から季節の訪れを感じ、心身のリズムを取り戻すためのアートワークをしました。まず始めに梅の香りを嗅いでみたり、ウグイスの鳴き声を聞いてみたり、五感を刺激してイメージを膨らませました。それから、絵画用の筆を渡されると、「うまく描かなきゃ」って緊張しますよね。だから、手に持ちやすい「タンポ」(布などに綿を包んで丸くした道具)を使って、紙に「描く」のではなく、色を「置く」ようなイメージで自由に表現してもらいました。高齢者の方にとってのアートワークとはそのような時間を積み重ねていくことで、完成した作品だけでなく、創作する過程で「何を感じたか」ということも重要なのです。

アクリル絵の具で梅の木を描くアートワーク=2017年2月、東京都内のデイサービス施設 写真提供/高橋恵子さん
アクリル絵の具で梅の木を描くアートワーク=2017年2月、東京都内のデイサービス施設(写真提供/高橋恵子さん)

――みなさん、どんな反応をしていますか。

高齢の方の場合は「あるがままの自分で、楽しい時間を過ごす」ことを目的にしているので、どんな表現でも、発言でも受け入れる、肯定的な雰囲気づくりをしています。みなさん仲良く、楽しそうに交流されていて、その中で生まれる表現はとても豊かで、個性的なんですよ。

若い方だと、つい最近までバリバリとお仕事をしていた若年性認知症の方がいました。次第に言葉が出なくなり、妄想に悩まされ、そうした変化に心が追いつかずに葛藤している様子でした。そこで、アートの力を借りることにしたんです。紙とクレヨンを用意すると、紙いっぱいにとげとげしい線を描き出したり、一部分だけ紫色を塗り続けたり、その時々の心境が現れているようでした。私たちアートワーカーはその様子を見守り、そっと促したり、うなずいたりします。すると、言葉はなくともお互いに深い共感が生まれ、気付くとその方からは葛藤が消え、落ち着きを取り戻していました。アートには閉ざされていた心の声を引き出す力があると実感した出来事でした。

アートワークで製作された砂と貝殻、流木、ガラスなどを組み合わせた作品=2019年8月、東京都内のデイサービス施設(写真提供/高橋恵子さん)
アートワークで製作された砂と貝殻、流木、ガラスなどを組み合わせた作品=2019年8月、東京都内のデイサービス施設(写真提供/高橋恵子さん)

――高橋さんが介護の仕事に就いたのは、家族の介護がきっかけだと。

家族のことで悩んでいた20代前半のころ、障害児医療施設へボランティアに行ったんです。そこで初めて他人の肌に触れ、お世話をして、「この仕事をしたい」「この仕事ならやっていける」と直感しました。失いかけていた人への信頼が回復したというんでしょうか。それから専門スクールに通ってホームヘルパー2級(現在の介護職員初任者研修)を取得し、2002年、25歳の時に訪問介護の事業所で働き始めました。

――実際に働き始めてみて、どうでしたか。

最初に入ったのがターミナルケア(終末期医療)も行う訪問介護事業所で、人が亡くなる瞬間に何度か立ち会いました。亡くなる前って、なぜか肌に触れただけで分かることがあります。でも、仕事は山のようにあって、またすぐ次の現場に行かなきゃならない。いちいち自分の感情と向き合っている時間はなくて、若い私にはものすごくストレスでした。加えて、時に感情的になりやすい認知症の方を介護するには、「まず、自分の心を整理する必要がある」と感じ、芸術療法の勉強を始めました。実際にアートワーカーとして活動を始めたのは、東日本大震災のあった2011年ごろです。あの時期は高齢者の方も心が不安定になっていて、アートが役立つかもしれないと考えたんです。

高橋さんの作品などが収められたアルバム
高橋さんの作品などが収められたアルバム

――今はどんな施設で働いているんですか。

2019年4月から定員10人という小さな認知症専門のデイサービスで働いています。おばあちゃんの家みたいな平屋造りで、中庭にはいろんな木が植えられていて、利用者の方がそこで洗濯物を干しているんです。高齢の方も、若年性認知症の方も、みんなが一緒になって「今日1日、どう過ごすか」を考える、とても居心地のいい環境です。認知症って、高齢の方にとっては亡くなる前の「ギフト」みたいな意味合いがあると思っています。心のいろんなものを捨てて、どんどん身軽になっていくように見えるんです。でも、若年性認知症の方は違って、「どうして自分が」という葛藤の中で懸命に生きています。そんな姿や、そうした方たちの気持ちに応えようと親身に働く職員たちを見て、勉強させられる毎日です。

アトリエ「artco(アートコ)」に飾られている粘土作品
アトリエ「artco(アートコ)」に飾られている粘土作品

――介護やアートワーカーとしての活動は、どんなところがおもしろいですか。

こんなに豊かな仕事はないと思っています。「なかまぁる」の連載「今日は晴天、ぼけ日和」の2回目でも描きましたが、高齢者の方の体ってまるでご神木のような、触れるだけでありがたい気持ちがわいてくるんですよね。おおらかで優しくて、安心感を与えてくれる。介護の仕事をしていると、「命の尊さ」がダイレクトに伝わってくるし、それは自分自身の豊かさにもつながると思っています。

私は発達障害で通院していた時期があり、仕事や日常生活を送る上で不便なことがあります。でも、介護の仕事を通じて、ありのままで生きている認知症や障害のある方たちと出会い、「無理に治さなくてもいいんだ」「このまま生きていこう」って思えるようになりました。人との出会いや、その人から言われた言葉の一つひとつを心の栄養にして生きています。

――介護の風景を絵に描き始めたのは、どうしてですか。

20代前半のころ、イラストレーターとして雑誌の挿絵などを描いていましたが、介護の仕事を始める時に辞めました。それでも、介護をしていると毎日のように「描きたい」という瞬間があるんですよね。それに、介護業界というと人手不足や待遇の悪さなど、暗い面ばかり取り上げられるのが嫌だったんです。少しでも明るい部分を伝えたいと思って、「高齢の方といると、こんなに楽しい」ということを描き始めました。

最初は自分のSNSに載せる程度だったんですが、意外なことに大勢の人が共感してくれて。周りの職員とも会話が生まれ、もともと自分のことをさらけ出して話すことが苦手だったので、うれしかったですね。以前、施設内に作品を展示して頂いたことがありました。絵のモデルになった高齢者の方は「これ、私?」って驚きつつ、喜んでくださいました。

高橋さんが所属するアトリエ「artco」
高橋さんが所属するアトリエ「artco」

――今後の目標や夢はありますか。

介護福祉士、漫画家、アートワーカー、どれも大切なので、まずは続けていくことです。実は最近、漫画やアートワーカーとしての活動が忙しくなり、デイサービスで働く日数を減らしました。それでも高齢の方と会う度に幸せになるし、「早くまた会いたい!」って思います。アートワーカーとしては、芸術療法に基づいたさまざまなプログラムを提供するアトリエ「artco(アートコ)」(東京都中央区)に所属していて、今後は老若男女、誰でも分け隔てなく参加してもらえるような取り組みや出張講座も準備中です。これからもたくさんの人と一緒に、アートでつながってきたいです。

高橋恵子さん

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