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ここがヘンだよ、介護施設?!介護の若手×丹野智文さん座談会・前編

認知症当事者である丹野智文さんと「KAIGO LEADERS」を運営する秋本可愛さん、現役福祉介護職の若手3人が、介護・福祉の仕事の神髄について話し合いました。

介護・福祉の仕事の神髄は何か、真の介護サービス、自立支援とは――。介護・福祉サービスの提供側である現役福祉介護職の若手3人が、認知症当事者でこれまで多くの介護福祉施設を訪ねてきた丹野智文さんと、それぞれの体験を交え、本音で語り合いました。ファシリテーターは、介護に携わる若い世代のコミュニティー「KAIGO LEADERS」を運営する、秋本可愛さんです。

施設は家じゃないの? 丹野さんの違和感

秋本可愛さん(以下、秋本) まずは、自動車販売会社で「スーパー営業マン」として働いていた丹野さんの目に映ったという、介護現場の違和感から話を始めたいと思います。以前別のインタビューでもお話しになっていますね。

秋本可愛さん
秋本可愛さん

【丹野さんのインタビュー中の発言要旨】

車の業界では、お客様にいかにショールームに長く快適にいてもらうか常に考えている。一方、介護現場に行くと、お茶を飲むスペースから見える場所にぞうきんが掛けられている。(その場にいる人に)楽しんでもらう空間づくりに、(介護業界は)まだ目が向いていないのかな。
動画記事へのリンクはこちら

丹野智文さん(以下、丹野) 営業マン時代、私は毎朝お客さんを案内するショールームの椅子に座って、そこから店内がどう見えるのかを確認していました。将来は自分がお世話になるということもありますが、介護施設を訪れても利用者からの見え方は気になります。以前インタビューで話したのは、流しの下の雑巾のことですね。家の洗面台だと大抵は化粧板で覆われていますが、施設の場合はむき出しなことが多く、そこに雑巾が掛かっているのをよく見かけます。施設は利用者にとって我が家も同然。雑巾が目につくところでお茶を飲んだり食事をしたりしたいでしょうか。

丹野智文さん
丹野智文さん

加藤沙季さん(以下、加藤) 私は自分の部屋でも生活スペースから見えるところに掛けちゃってます、雑巾(笑)。気にならない人もいると思うし、丹野さんのように気にされるかたもいる。施設には様々な人が共同生活をしていて、一人ひとり考え方や感じ方が違うことを認識しないといけない。職員の視点に偏りがちですが、利用者のそれまでの暮らしを知ることが必要だと思います。

加藤沙季さん
加藤沙季さん

丹野 利用者の誕生日を記念して、顔写真が大きくプリントされて壁に貼られているのも不思議。自分の家に自分の写真を大きく飾るかな? それとも面会に訪れる家族のため?

佐久間友弘さん(以下、佐久間) 僕の勤める施設でも誕生日の写真はあります。5年入居している人の部屋には、5年分の写真が順番に重ねられて飾ってあります。その場所はベッドの上で、本人から見やすいわけではないんですよね。「写真を飾ること」が作業的になってしまっているのかもしれません。

佐久間友弘さん
佐久間友弘さん

森近恵梨子さん(以下、森近) みんな「施設っぽいこと」「デイサービスっぽいこと」をしているんじゃないかな。私は誕生日の写真や施設内のレクリエーションだけでなく、施設スタッフの話し方や接し方でさえ、どの施設も同じに感じることがあります。介護業界のイメージ、モデルがあるんですよね。
他の施設でやっているから、業務だからやるのではなく、自分が働く施設の利用者に必要なことなのか、本来はゼロから考える必要があると思います。

森近恵梨子さん
森近恵梨子さん

佐久間 例えばですが、もしかしたらスタッフと利用者が、よりたくさんコミュニケーションをとるためのツールになるかもしれないな、とか。

丹野 介護職の人にありがちなのは、「歌いませんか」や「おふろに入りましょう」など決まった行動や結論から入ること。利用者自身のやりたいことが起点になっていない。古い唱歌とか童謡みたいな歌をみんなで歌っている施設で利用者の女性に「楽しい?」と聞いてみると「本当はキャンディーズが歌いたい」って言う人が実際にいるんです。

病名ではなく、人として接する

丹野 自分の講演会に出掛けた先で、トイレの場所を案内してくれた人がいました。でも、その人は個室の中にまで一緒に入ろうとするんです。私は一人で大丈夫なのに。
他にも、携帯電話を使っているだけで、自動販売機でジュースを買っただけで「すごいね!」と驚かれたこともあります。いずれも介護職の人でした。

森近加藤 やばいよ! その介護職の人!(笑)

秋本 確かに専門職の人が陥りがちなことかもしれません。

加藤 トイレの話、介護施設以外の場所で初対面の人にそんなことされるのは、変ですよね。でも施設にいると、当たり前になっているから。

森近 私は時々おむつ交換をしながら「とんでもないことをしているな」と思うことがあります。

丹野智文さんと秋本可愛さん

丹野 介護職の人たちの知識や経験は、もちろん大切。でも必要のない人にまで過剰に提供しようとすると、行き違いが起こるんです。私は怒りませんが、もし怒ったらBPSD(認知症の周辺症状で、その一つに暴言などがある)だと言われる!

秋本 なるほど……。

丹野 利用者が怒る怒るって言われるけれど、介護職の人の行動が怒らせていることもよくあります。訪れた施設で、職員がなにを言っても「嫌だ」って拒否をして手を焼かせている利用者がいました。でも不機嫌の理由が、僕にはすぐ分かったんです。

秋本 それはなんだったんですか。

丹野 だってその人、その時みんなでマージャンをしていて、一人で大負けしていたんだもの。

一同 ああ! それは怒りますね(笑)

丹野 認知症かどうかではなく、その人自身を見ていれば分かるはず。認知症だって、症状には段階があるし、高齢の人には老化も加わります。認知症という一面だけで接してはいけないのではないかな。どうしても、病名で見ているように感じます。

佐久間 僕は、できるだけ利用者さんのことを肯定するよう心がけています。予測のできない行動をとる人がいた時に、ケガをするような危険な行為の場合は止めなくてはならないけれど、その人の行動や世界は否定し過ぎない。
肯定する場合は、同僚たちにも伝わるよう、あえて大きめの声で言うようにしています。安全面については判断が難しい部分も多いので、積極的に職員同士で共有し合うことが大切だと感じます。

「入居者の方とはできるだけおしゃべりしたり、一緒にテレビを見たりするよう心がけています」と加藤さん

加藤 私は話すのが好きなので、入居者の方とはできるだけおしゃべりしたり、一緒にテレビを見たりするよう心がけています。実務的な仕事はちょっとサボっているかも(笑)。

秋本 おしゃべりは必要なことだと思います。サボっていることになるの?

加藤 私の職場ではならないです。もちろん仕事もきちんとやっていますよ!
他にも「ケアコラボ」という介護記録用のスマホアプリを活用して、利用者さんの「人生録」作りに取り組んでいます。すると、それぞれの個人的な話が聞けるんです。指輪を大切そうに身につけているおばあちゃんがいて、ずっと旦那さんからもらったのかなと思っていましたが、実は娘さんからの贈りものだった。話してみないと分からないなあ、と。

丹野 そういうの、いいですね。新しい技術で便利なツールが出てきている。それらを活用して業務の効率化が図れれば、仕事の負担を減らせるし、利用者との会話の時間がもっととれるかもしれませんね。

転倒リスクをどう考えるか

丹野 多くの施設で、利用者が転ばないようにと、過剰に行動を制限しているように感じます。ちょっと転ぶ程度なら大丈夫なんじゃないの、と思ってしまうけど。転倒リスクは、家族へ十分に説明すればクリアできる問題ではない?

加藤 家族への説明を丁寧にしていても、十分に理解して、受け入れてもらえるかは難しい点だと思います。

森近 介護職の側と家族の側がチームとしての関係を築けるといいですよね。家族会で、家族の方と食事やお酒をご一緒して仲良くなれた経験がありますが、施設になかなか来られないご家族だと、じっくり話す機会も持てない。関係性によっては、ちょっとした忘れ物一つでも、大クレームになることがあります。

加藤 私は職場で事故防止委員会のメンバーなので、まさに最前線。ただ同僚が「転ぶ権利だってある」と言っていてなるほどな、と感じたこともある。安全に、やりたいことをやってもらえることが目標ではあるのですが――。実際に転倒で骨折をしてしまって、万一寝たきりになったら、利用者自身にとっても不利益になりますし。悩ましい。

森近 私は転倒の数週間後に亡くなった人を見ているので、守らなきゃ、と思ってしまいます。

加藤 大きなケガをしてしまった場合、行政に事故報告書を提出しなくてはならないですよね。ケガがなくても、施設内では転倒件数を記録しています。実際に残業して作業することもあります。転倒が発生すると仕事が増えるという現状も、理由の一つとして考えられそうです。

秋本 現場の問題を感じ、変えていかなくてはという意識を持った介護職の人も大勢います。でも若手の立場を考えると、まずは上司への提案が難しそうだな、とも思う。会社員という視点で丹野さんはどう思われますか。

丹野 車は売れた台数で成績がつくけれど、介護職の場合は正解がないし、評価もしづらいでしょう。仕事としての難しさは理解できます。
ただ、私は上司の言うことなんて、無視してたけどね!

一同 (笑)

後編に続きます

●ファシリテーター

秋本可愛(あきもと・かあい)

1990年山口県生まれ。Join for Kaigo代表取締役。大学在学中から認知症予防のためのフリーペーパー制作や介護現場でのアルバイトを経験し、卒業後の2013年、株式会社Join for Kaigoを設立。介護に携わる若い世代のコミュニティー「KAIGO LEADERS」運営や、行政主体の介護人材確保イベントの企画、介護事業所の採用・育成支援などに取り組む。

●参加者

丹野智文(たんの・ともふみ)

1974年、宮城県生まれ。自動車販売会社で働いていた39歳のとき、若年性認知症と診断された。衝撃や不安に苦しんだが、生き生きと笑顔で暮らす認知症の「先輩」たちと知り合い、希望を取り戻す。地元で「おれんじドア-ご本人のためのもの忘れ総合相談窓口-」を立ち上げる一方、「日本認知症本人ワーキンググループ」などにも参加。認知症の人たちの笑顔を増やすために国内外を飛び回る。著書『丹野智文 笑顔で生きる -認知症とともに-』発売中。

加藤沙季(かとう・さき)

1994年神奈川県生まれ。介護福祉士、社会福祉士。大学卒業後、埼玉県にある特別養護老人ホームでケアサービスワーカーとして勤務する。

佐久間友弘(さくま・ともひろ)

1981年東京都生まれ。介護福祉士、介護支援専門員。専門学校卒業後、特別養護老人ホームに勤務。認知症専門フロアに配属されたことがきっかけで認知症ケアに関心を持つ。現在は介護付き有料老人ホームでケアマネジャーを務める。

森近恵梨子(もりちか・えりこ)

1990年米ニューヨーク生まれ。社会福祉士、介護福祉士、介護支援専門員。上智大学大学院社会福祉学専攻・前期博士課程修了。小規模多機能型居宅介護や訪問介護を経験し、現在は地域密着型通所介護事業所に所属。介護に関する講師やライターとしても活動する。

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この連載について

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