介護+○○=私のシゴト

閉ざされがちな介護業界を変えていく、注目の働き方「パラレルキャリア」とは?

「今の仕事にやりがいが持てない」「ダブルワークに興味があるけれど、何をすればよいかわからない」など、人生と仕事で悩み、迷っている方も多いでしょう。そこで、“仕事×人生”の選択肢の一つとして、報酬のみを目的とするダブルワークとも副業とも違う「パラレルキャリア」というスタイルに着目します。介護現場でケアマネジャーとして働きながら「未来をつくるkaigoカフェ」を主宰する高瀬比左子さんと、本業のほかにもうひとつ、社会を創ることに取り組む個人名刺”二枚目の名刺”というスタイルを提唱するNPO法人「二枚目の名刺」主宰の廣優樹さんに、介護の多様性とパラレルキャリアで広がる可能性についてお話を伺いました。

高瀬さん(左)と廣さん(右)はともに「主体的に動く」ことの大切さを語る
高瀬さん(左)と廣さん(右)はともに「主体的に動く」ことの大切さを語る

――社会からは「やりがいを持って働く」ことを求められますが、日常生活の中でなかなか「やりがい」「いきいきと働く」ことは実感しにくいこともあります。とくに介護に携わるなかで、どうすれば仕事にやりがいや楽しさを見出せるのでしょうか?

高瀬 私が主催している「kaigoカフェ(※1)」に参加するのは、まさに自分らしい一歩を踏み出したいと思っている介護職の方が多いですね。30~40代の方が中心で、先が見えず、次のキャリアを模索したい方が多いです。私自身もそうでしたので、気持ちがよくわかります。

※1 kaigoカフェ…「未来をつくるkaigoカフェ」の略。介護に関する身近なテーマをもとに、肩書や役職を気にせず自由に思いを語ることで、一歩踏み出すきっかけを作れる場として2012年に設立。「介護業界を元気にしたい」「介護業界のイメージを変えたい」というコンセプトをもとにカフェを開催。現在、各地でkaigoカフェのようなコミュニティの立ち上げを行っている。

――高瀬さんはなぜ「kaigoカフェ」を始められたのでしょうか?

高瀬 介護に関することを、肩書や役職を気にせず自由に語り合える場を作りたかったのです。介護の仕事をしていると自分からなかなか外に出ていけないし、外の世界を知るきっかけもない。でも、想いを語り合う場を通して、これまで見落としてきた可能性や自分自身の中に眠るものが呼び覚まされ、一歩を踏み出せることもあります。たとえば、今の介護業界でステップアップするには、経験を積んで管理者になるか、ケアマネジャーとして専門職として極めるか、それくらいの選択肢しかないと思われています。でも、対話を通して、ほかにもさまざまな選択肢があると気づくこともあるはずです。

廣 介護業界に限らず、さまざまな業界で同じような課題は抱えていると思います。そうした中、企業は最近、社員をあえて社外や、業界の外に出したほうがいいのではと気づき始めてきていますよね。組織の中に従業員を留めるのではなく、外に行かせれば成長を促せるし、会社に戻ってきて価値を生み出せる、という流れが着目されています。

――いつもいる場とは違う場所に出ることで、どんな変化があるのでしょうか?

高瀬 ひとつの仕事だけにのめり込むのも大事ですが、いくつか場があると客観的に見ることができます。介護業界は閉ざされた世界で、そこに浸かっていると「これはおかしい」と問題視できない。外の世界を知ることで「こういう工夫をすれば、介護者も利用者さんも快適だ」と気づく発見があります。しかも、いつもいる場所が一カ所だけだと息が詰まって、精神的にも追い詰められやすいですよね。

 そうですね、介護業界の“当たり前”が、外に出ると違うことはたくさんある。そこに気づいた人が介護業界を変えていく人になると思います。また、いつもと違う場所に出ることは、多様な価値観に触れるチャンスです。なぜ介護をやりたいのか、どんな介護をやりたいのかを、自分の中で再定義するきっかけにもなるはず。その上で、介護という仕事と、もし選択するのであればそれ以外の仕事、さらには家庭を含む生活を、自ら選択・設計していけるとよいですよね。

高瀬 たしかに自分で選択すると、当事者意識を持てるので、そういうものに出会えた人は長続きしますよね。自分が本当にやりたいと思えることに出会えると、すごくいきいきしますし。「これしか選択肢がなかった」とか「誰かに選ばれて仕方なく」という意識だと他人事にしか思えず、続かないことも多い。

当事者意識を持つことで、社会とのつながりができる

廣さんは「NPO二枚目の名刺」を通して、パラレルキャリアの最初の一歩を後押ししている(写真提供/NPO二枚目の名刺)
廣さんは「NPO二枚目の名刺」を通して、パラレルキャリアの最初の一歩を後押ししている(写真提供/NPO二枚目の名刺)

――廣さんのNPO二枚目の名刺(※2)は、どのような方が持っているのですか?

※2 二枚目の名刺…「2枚目の名刺」というコンセプトによりNPOと社会人をつなぎ、社会人の変化・成長を促しつつ、ソーシャルセクター、企業の発展を同時に後押しするモデルを提唱。社会人が2枚目の名刺をもつきっかけとなる「サポートプロジェクト」の実施の他、企業・行政と連携し2枚目の名刺を持ちやすい環境づくりに取り組む。2009年に設立。

 本業で持つ一枚目の名刺のほかに、社会を創ることに取り組む個人名刺を”二枚目の名刺”と位置づけています。一般に「パラレルキャリア」ともいわれています。従来の副業が報酬目的だとすれば、二枚目の名刺は、自らの価値観を社会で表現する手段でもあり、自己成長の機会でもあります。本業以外に、何か社会と接点を持つ活動がしたいのだけれど、どうやって始めればよいかわからない、自分に合う活動がわからないという方は少なくありません。NPO二枚目の名刺では、社会人がチームを組み、3~4ヶ月限定でNPO等の事業推進に取り組むプロジェクトを実施しています。二枚目の名刺を試しに持つこと、また共感するプロジェクトに参加することを通じ、パラレルキャリアの最初の一歩を後押ししています。

――実際に二枚目の名刺を持った方にはどんな変化がありましたか?

 「価値観が変わった」という方が多いですね。NPOの方やチームメンバーの価値観や熱意に触れることで、いつもの仕事の中で見失いがちだった自らの価値観が、自然と再定義できるようになります。自分は何者なのか、社会で何を実現したいのかということがはっきりし始めると、誰かに与えられたり、決められたりするのではない、自分の人生のオーナーシップを取れるようになる。「こうしたい」と思うことを自分で選択できる人生は豊かですし、とても素敵なことだと思います。

高瀬 自分でも生きている感じがありますよね。自分で選んで何でもやっているから、次から次へとやりたいことが出てきますし。

 そのやりたいことを、これまでであれば、一つの仕事の中だけで実現しようとしたわけですが、パラレルキャリアは必ずしも一つの仕事の中だけで完結させなくてよいという考え方です。「自分がやりたいこと」を選択し、取り組んでいるときは、当事者意識を持っていきいきと働けるし、やりがいも感じられると思います。

――周囲にもいい影響を与えそうですね。

高瀬 外で得た強みがあると、新しい視線で介護現場にも向き合えると思います。いくつか居場所があったほうがいきいきと働けますしね。

何も言わなければ、何も起こらない…自らアクションを起こすことの必要性

高瀬さんは「kaigoカフェ」で、参加者同士が対話できるさまざまな場を提供している(写真提供/kaigoカフェ)
高瀬さんは「kaigoカフェ」で、参加者同士が対話できるさまざまな場を提供している(写真提供/kaigoカフェ)

――そもそも、やりたいことが見つからないという方には、どのようなアドバイスをされていますか?

 まずは、いつもの自分の仕事や生活の範囲から一歩踏み出して動いてみるということだと思います。惰性から抜け出すことで、思いもよらない刺激や出会いがあれば、今まで気づかなかった自分、あるいは自分がやりたいことの発見につながりますよね。

高瀬 少しでも関心を持ったら自分からアクションを起こして参加してみるというところから始めてもいいと、私も思います。あるいは一緒に何かやりたいと思える人に出会えたらそれでいいんじゃないかと。そこからまた新しいことが生まれる可能性があるので。そのために「二枚目の名刺」や「kaigoカフェ」のような場があるのだと思います。

――まずはアクションを起こすことが大事、いうことですよね。

高瀬 だいたいのことは自分から出て行かないと、向こうからは来てくれません。ただし、違うもの同士をつなげるにはセンスがいるのも事実です。そこで、これからは介護職も提案力とか構想力が必要になってくると思います。多くの人は「自分はこういうことがやりたい」とプレゼンする力が足りないんです。「kaigoカフェ」に来て、人前で話すことでコミュニケーション能力がつけば、疑問に思ったことや提案したいことを上司にも話しやすくなるかもしれません。

 話をすることで自分の意見も整理できますし、伝えたあとの相手の反応から、学びも得られますよね。

高瀬 うまくいかなかったら自分の伝え方がよくなかったかもしれないとか、この人と信頼関係が築けていないとか気づけるんですよね。何も言わなかったら何も伝わらない…その繰り返しですね。

新しい「介護×○○」の組み合わせができる可能性は無限にある

「これから『介護×○○』という取り組みがたくさん出てくる」と廣さん
「これから『介護×○○』という取り組みがたくさん出てくる」と廣さん

――廣さんは外側から見て、介護業界で変えたほうがいいと思うことはありますか?

 介護業界は、最近のテクノロジーの進展や、業界外の新しい取り込みが進んでいない業界のひとつのように思います。一方、介護の人手不足の解消のため、さらにより質の高い介護を実現するために、新しい発想を持ち込もうとする人が出てきている。例えばAIを活用しケアプランを作成したり、進化するセンサーをもとに体調・栄養管理をもっとデジタル化したり、ということが実現され始めている。介護業界はこれから「介護×〇〇」という新たな掛け合わせから、介護の課題を解決する取り組みが生まれてくるはず。新しいものを取り込む努力が求められるように思います。

高瀬 介護はあらゆる分野に生かされる、と私も思います。生活に密着したものですからね。超高齢社会で、すべての分野にコラボできるジャンルといえるでしょう。だから実際は、あらゆるところに必要とされていると思います。

 企業の立場からすると、新しい技術を現場で必要とされるものとして展開するには、現場の困りごとを伝えてもらう必要があります。また、展開する商品・サービスが真に必要なものになるためにはどうすればよいか、現場から示唆を得たい。ですから介護の現場を知っていることは、とても価値があることなんです。

――介護職の人は閉じたところにいる、と諦めるのではなく、組み合わせがたくさんあることに気づいて、発信していけるといいですよね。

高瀬 「介護×〇〇」の「○○」を探すには、自分がどんな介護をしたいかというビジョンを持つことが大切ですね。そこに自分のフラグを立てられれば、興味をもっている人が集まってくる。そのためには、自分から外に出ていかないと見つからないし、介護と○○をつなげるセンスは必要になるので、それを磨くためにも「kaigoカフェ」を利用してほしいと思います。実際に、一般企業の方の協力するような形で専門性を生かしている例もありますから。

パラレルキャリアとしての「介護」のススメ

「『介護職』という名前にとらわれず、お互いに『ケア』しあう社会を作っていければ」と高瀬さん
「『介護職』という名前にとらわれず、お互いに『ケア』しあう社会を作っていければ」と高瀬さん

――パラレルキャリアとして介護を始める方へ、アドバイスはありますか?

高瀬 まず、どんな働き方があって、どれくらい関わりたいのか、どんな介護だったらできるかを自分なりに見極める必要があると思います。関心のある施設や事業所に見学に行ったり、実際目で見てできそうか確認したりするのがいいと思います。

 65歳以上の人口は、2040年には4000万人近くになるといわれています。介護職とか要介護、要支援というと定義が狭くなりますが、少し広げて考えると、介護という仕事は行動制約が出てくる人たちを支えることです。逆に言えば、介護職が持っている知見は、制度上、要介護、要支援と言われる人たちにだけでなく、もっと幅広く生かせるように思います。介護の仕事は、変化のある業界に身を置く楽しさもあるかもしれないですし、多様な介護の在り方が出てくることで、昔よりも自分らしい介護の形を表現しやすくなっていくのではないでしょうか。

高瀬 介護というより「ケア」という言葉のほうがいいかもしれない。してあげる人、してもらう人、ではなくお互いに支え合うことが重要になってきます。それに、介護職と言っても、さまざまな職種があります。いろいろな関わり方があるので、これまで築いてきた別のキャリアも生かせますね。介護は特別なものではなく、みんなが普段から言葉を変えてやっていること。地域のなかで起こる、さまざまな「困りごと」を一緒に解決することが介護でもあります。専門知識を持っている人たちが、さりげなく地域の中へ溶け込み、強みを生かせる機会を増やすことで、専門職のモチベーションアップにもつながり、安心して暮らせる地域づくりにも役立つはず。外の世界とつながっていける専門職を増やしていけたらいいなと思いますし、その後押しができたらいいですよね。

高瀬さんプロフィール

高瀬比左子(たかせ・ひさこ)

NPO法人 未来をつくるkaigoカフェ」代表。介護福祉士・社会福祉士・介護専門員。ケアマネジャーとして働きながら「未来をつくるKaigoカフェ」を主宰。介護業界でケアマネジャーとカフェのパラレルキャリアを実践しながら、介護の未来や専門性、新しい働き方を発信している。

濱さんプロフィール

廣優樹(ひろ・ゆうき)

NPO法人二枚目の名刺」代表。2009年に「NPO二枚目の名刺」(11年からNPO法人)を立ち上げ。ほかに、商社国内外の食料・食品の事業開発、渋谷区教育委員会 統括コーディネーターとして学校と地域・企業をつなぐ業務にも並行して取り組む。4児の父。

本プロジェクトは介護のしごと魅力発信等事業(福祉・介護に対する世代横断的理解促進事業)の一環です。(実施主体:朝日新聞社・厚生労働省補助事業)

介護のしごとの魅力を多面的に知る!朝日新聞のKAI-Go!プロジェクト

理学療法士の知見からパラアスリートを支える道(まるごと大学スポーツメディア「4years.」)

50歳で介護業界に転身 プロが語る「介護の魅力」とは(50代以上のアクティブ世代のみなさんを応援するwebメディア「Reライフ.net」)

介護の未来を担うミレニアル世代の本音を語る座談会! 介護職を通して見えた、目指したい生き方と働き方、そして日本の姿(ミレニアル世代女性向けwebメディア「telling,」)

「福祉・介護のしごと」魅力発信サイト「KAI-Go!」。朝日新聞が運営する世代別Webメディアの介護に関する記事を集約。日本で起きている福祉・介護の課題に、型にはまることなくアイデアあふれる取り組みを始めている人や、いきいきと働く現場の声を紹介します。

あわせて読みたい

この記事をシェアする

この連載について