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利用者は「お客さま」?「友だち」?介護の若手×丹野智文さん座談会・後編

丹野智文さんと秋本可愛さん

現役福祉介護職の若手3人と、認知症当事者の丹野智文さんが繰り広げる本音トーク。後編の話題は、介護サービスの提供者と利用者との関係や自立支援、いい介護施設とは、など。異なる立場から見える現状の課題、それぞれが考える解決策について、とことん語り合いました。

前編はこちら

介護利用者は「お客様」か「友達」か

加藤沙季さん(以下、加藤) 先ほどから、丹野さんのセールスマンとしての姿勢には、とても感動しているのですが、じゃあ私が接している介護利用者さんは、「お客様」なのだろうかと考えてしまいます。家族でもないし――。

丹野智文さん(以下、丹野) 「友達」はどう?

加藤 私からしたら年上ですし(笑)。もっと敬意を払わないと。

丹野 年上の友達もいる。僕はお客さんと休みの日に遊ぶこともありましたよ。ゴルフしたり、釣りに行ったり。本当に「お客様」として接するなら、何でもやってくれる、ホテルみたいなサービスを提供すればいいはず。でもそうではない。なんとなく中途半端なのが気になります。

丹野智文さん

佐久間友弘さん(以下、佐久間) 利用者に対するホスピタリティー(もてなし)の要素を優先すると、自立支援が阻害されるという指摘もありますが、僕は利用者さんに対して常に「お客様」という意識を持つようにしています。仲良くなる利用者さんもいれば、一定の距離感の関わりの人もあります。

秋本可愛さん(以下、秋本) デイサービスでアルバイトしていた時に感じたのですが、自己負担額1割で1千円のサービスって、本来の料金が1万円ですよね。「これはディズニーランドより上のサービスなのか!」と驚きました。介護の専門性を高めると同時に、サービス面も充実させて欲しいというニーズは、今後一層高まると予想しています。介護保険の適用範囲の中で、また専門職として、利用者の暮らしの環境をどこまで整えられるかは重要です。

佐久間 施設や介護職がどんな役割を担っているのか認識していれば、関係性は「お客様」と「友達」のどちらもアリだと思います。方針が決まっている施設もあるでしょう。

佐久間友弘さん

森近恵梨子さん(以下、森近) 利用者の要望もありますよね。「お客様」として接してほしい人もいれば、「家族」「親友」と言ってくれる人もいます。「ザ・仕事関係」みたいな人も。だから、私は相手によってキャラクターを使い分けています。

秋本 俳優さんみたい。「演じている」感覚なんですか?

森近 私は本当に演技だと思っています。最初はみなさんに一様に敬語で接しますが、少しずつチューニングしていって。過去にどういう仕事や生活をしてきたか、どんなサービスを受けてきたかを知りながら、距離感や話し方を考えています。本人が望む生活にどれだけ近づけられるかが、サービスの質。その上で、継続利用していただくために、ご家族にも納得いただけるところを目指しています。

森近恵梨子さん

いい介護施設って、どんな施設?

丹野 自分が利用する時に備えて、少しずつ施設を見るようにしているんだけれど、みなさん「いい施設」ってどんな施設だと思いますか。僕は入居者、目の前のおじいちゃん、おばあちゃんが笑顔かどうか。ハード面は素晴らしいけれど入居者は無表情、という施設もありました。

森近 外観のきれいさではなくて、利用者の表情にサービスの質が出ていると思います。

佐久間 表情と、あと生活の音に違いが出ると思っています。

秋本 生活の音?

佐久間 会話や食事など、人が暮らしている音です。実際の生活感はそういうところに現れるはず。日常的に音のある生活を提供できるのが僕の理想なんです。

秋本 確かに、ものすごく静かな施設ってありますね。

佐久間 実はデイサービスの仕事を担当した際に気がつきました。デイサービスでは利用者さんとの会話が中心なので、現場には常に音がある。ですが同じ施設でも、施設入居者さんの暮らす2階、3階に上がってみるとシーンとしている。この違いはなんだろうって。
その理由は、入居型の場合、どうしても集団支援だから。食事、トイレ、入浴など日々の仕事のなかで、まず切り捨てられてしまうのが会話ではないかと思います。大切なのは、それを意識できているかどうか。一気に解決できなくても、その問題を理解した上で利用者と向き合えられれば、全然違うと思います。

なぜ家族が施設を選ぶのか 診断直後からのサポートも重要

丹野 そもそも、デイサービスの内容や、入居施設をなぜ本人が決めないのだろう。みなさん、自分が進む学校、将来の進路は誰が決めますか。

加藤 自分自身です。

丹野 ですよね。でも、認知症の人や高齢者の人になると、家族や周囲の人間が、彼らの都合で決めていませんか。

「施設利用者が社会と関係を持てるような環境を作っていきたいです」と話す佐久間さん

森近 私が勤めていた小規模多機能型居宅介護事業所は、「訪問」「通い」「泊まり」のサービスを提供しています。「通い」を利用してもらう前には、まずは何度も訪問して本人との関係を築くところから始めます。訪問するうちに一緒に外出する機会が生まれ、「出掛けたついでに事業所に寄ってみませんか」って。何度か事業所に来てもらううちに、他の利用者との人間関係が新しくできる。「通い」はその後です。半年かかることもありますが、自然な流れだと思います。

丹野 本人が利用したり住んだりする場所なのに、本人が嫌だと言うと「拒否した」と言われてしまう。変だよね。

森近 家族が決めた施設にいきなり連れてこられて、うまくいかないのは当然。そうやって連れてこられた人は、入居後も人間関係が築けずに部屋に閉じこもるようになったり、周囲から「うまくいかない人」と言われるようになったりすることがあります。ただ、いま私たちが取り組んでいるサービスにも介護保険ではカバーしきれない部分があるため、まだまだ課題を感じています。

丹野 今までの制度作りって当事者抜きに考えられてきました。重度になってからのサポートしか想定されていない。それが大きいと思います。
特に、家族と当事者の関係性はもっと診断直後からしっかり考えていくべきです。後々、サービスの利用や施設入居の時にも絶対影響する。施設の介護職の人たちも、もっとやりやすくなると思いますよ。

加藤沙季さん

加藤 施設側としても、診断後すぐではなく段階を経て入居してこられます。施設で受け入れる以前の家族と当事者の関係性は、良好であればあるほどいいですよね。

丹野 今日は、介護職のみなさんが集まっているけれど、そうなると地域包括の人たちの力や連携がもっと必要だ、という話かもしれない。診断直後から、当事者同士がもっと情報交換できるといいな、と最近は私自身もそういったことをサポートする活動に取り組んでいます。

秋本 今日は本当に色々なお話ができました。最後にみなさんひと言ずつ感想をお願いできますか。

加藤 丹野さんがとても素敵な人で、感動しちゃいました。明日からも頑張ります!

一同 (笑)

佐久間 みなさんのお話が、とても勉強になりました。個人的には最近、施設利用者と社会との遮断を問題に感じています。お金を持たせないとか、携帯を持たせないとか。入居しても社会と関係を持てるような環境を作っていきたいです。

森近 介護業界、現場の違和感を再認識しました。今年は新たにデイサービスを立ち上げる予定です。今日もらった視点を、ぜんぶ生かそうと思います。

丹野 みなさんが頑張ってくれることで、私が一番安心できるんです。みなさんからは、本当にいつもパワーをもらっています。これからも一緒に頑張っていきましょう。

座談会に参加されたみなさん

●ファシリテーター

秋本可愛(あきもと・かあい)

1990年山口県生まれ。Join for Kaigo代表取締役。大学在学中から認知症予防のためのフリーペーパー制作や介護現場でのアルバイトを経験し、卒業後の2013年、株式会社Join for Kaigoを設立。介護に携わる若い世代のコミュニティー「KAIGO LEADERS」運営や、行政主体の介護人材確保イベントの企画、介護事業所の採用・育成支援などに取り組む。

●参加者

丹野智文(たんの・ともふみ)

1974年、宮城県生まれ。自動車販売会社で働いていた39歳のとき、若年性認知症と診断された。衝撃や不安に苦しんだが、生き生きと笑顔で暮らす認知症の「先輩」たちと知り合い、希望を取り戻す。地元で「おれんじドア-ご本人のためのもの忘れ総合相談窓口-」を立ち上げる一方、「日本認知症本人ワーキンググループ」などにも参加。認知症の人たちの笑顔を増やすために国内外を飛び回る。著書『丹野智文 笑顔で生きる -認知症とともに-』発売中。

加藤沙季(かとう・さき)

1994年神奈川県生まれ。介護福祉士、社会福祉士。大学卒業後、埼玉県にある特別養護老人ホームでケアサービスワーカーとして勤務する。

佐久間友弘(さくま・ともひろ)

1981年東京都生まれ。介護福祉士、介護支援専門員。専門学校卒業後、特別養護老人ホームに勤務。認知症専門フロアに配属されたことがきっかけで認知症ケアに関心を持つ。現在は介護付き有料老人ホームでケアマネジャーを務める。

森近恵梨子(もりちか・えりこ)

1990年米ニューヨーク生まれ。社会福祉士、介護福祉士、介護支援専門員。上智大学大学院社会福祉学専攻・前期博士課程修了。小規模多機能型居宅介護や訪問介護を経験し、現在は地域密着型通所介護事業所に所属。介護に関する講師やライターとしても活動する。

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