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介護の裏ワザ、これってどうよ?

無気力じーちゃんの起動ボタンは自慢の過去にアリ これって介護の裏技?

青山ゆずこです! 祖父母がそろって認知症になり、ヤングケアラーとして7年間介護しました。壮絶な日々も独学の“ゆずこ流介護”で乗り切ったけれど、今思えばあれでよかったのか……? 専門家に解説してもらいました!

「気分転換しよ! ドライブは?」「・・・行かない」「やらない」「なんもしたくない」THE無気力!!

がらり昔と変わって、引きこもりがちになるじーちゃん

アルツハイマー型認知症と診断されたじーちゃんは、暴れまくるばーちゃんとは正反対に、自分の殻に閉じこもりがち。一度何かをやり始めたらノリノリになるのですが、それまではとにかく腰が重い。外食や買い物に誘っても「俺はいいよ」と言って家に引きこもってしまうことも。
昔は旅行に買い物にと、とにかく外に出ることが大好きだったじーちゃん。なるべく無理強いはせず、気分転換や軽い運動がてら「時々、気分よく外に連れ出せる方法はないか」と考えたとき、じーちゃんが積み上げてきた過去をくすぐる作戦を思いつきました。

「おう! 俺だよ!」立ち入り禁止の場所で活性化するじーちゃん

じーちゃんは元々、会社のお偉いさん(ゆずこはよく知らない)だったようで、現役時代は優秀な営業マンとして全国各地を飛び回っていたとか。それなら部下の面倒見もいいはず。そこで、一瞬ちょっとだけ部下になりきり、「じーちゃん! ちょっと仕事手伝ってほしいんだけど、〇〇に一緒に行こう」「あたしにはどう対応していいか分からない仕事で……アドバイスがほしい」といって声をかけます。
すると、「どうした!」「よし、俺を現場に連れていけ」とフットワークの軽いこと、軽いこと。ゆずこの言う仕事とは、買い物やちょっとした荷物運びのことなのですが、なんか色々勝手に勘違いしてくれてじーちゃんはノリノリになります。

お店に着くころには“仕事”のことなんかころっと忘れてしまって、楽しそうに買い物に付き合ってくれる。なので、「仕事」や「手伝って」は、じーちゃんの重い腰を上げるきっかけとしてめちゃくちゃ使える言い回しです。外食中や買い物中でも、じーちゃんの過去に触れる話題を出すと、嬉しそうに色々と答えてくれるので会話にも困りません。
ただ、わたしもちょっと楽しくなってしまって、行く先々のお店で、「じーちゃんって貫禄とそれっぽい雰囲気あるから、この店のオーナーに間違われてるかもよ(笑)」「じーちゃんだったら、どういう風に部下を教育するの?」などと聞いていると、じーちゃんは眼光を鋭くして「じゃあここの社員に挨拶でもしてこないとな!」とすぐどっかに行ってしまう始末。

上司や部下の話をしすぎると、今自分がいる場所が「会社」と思い込んでしまうのか、関係者以外立ち入り禁止のバックヤードや厨房などにもズカズカ入って行くのです。そして、周りのスタッフらしき人たちが茫然とする中、開口一番「よう! 俺だよ!」と。昔は会社のお偉いさんとして、割とどこでも顔パスで入っていけたようで、その癖が今になって思いっきり出るという……。その態度があまりに堂々としているため、高確率で「オーナーが抜き打ちで来たらしいぞ」「幹部の人!?」と、その店が何度ざわざわしたことか。
その度に平謝りしていましたが、現役時代のビジネスマン(?)なじーちゃんが垣間見えて、なんか嬉しいゆずこなのでした。

「じーちゃん貫禄あるぅ! オーナーと間違われるかもよー?」「すごい仕事できそー」

「自分に興味を持ってくれてる」それは誰でもすごく嬉しい

やる気が起きず、家に引きこもりがちなじーちゃんを刺激する方法として、過去に焦点を当ててみた今回の作戦。じーちゃんには割と効果があったようですが――。
認知症の在宅医療推進や情報の発信に積極的に取り組み、『認知症の人を理解したいと思ったとき読む本 正しい知識とやさしい寄り添い方』(大和出版)の監修を務める、湘南いなほクリニックの院長・内門大丈先生にお話しを聞きました。

「ゆずこさんの今回の作戦は、認知症をもつ人を一人の“人”として尊重し、相手の立場に立って考え、ケアを行おうとする、『パーソン・センタード・ケア』の考え方に非常に近いと思います。おじいさんのこれまでの人生やバッググラウンドを尊重して、ツボを突くような作戦ですね。すごくいいと思います。
人によって個人差はありますが、自分の人生に興味関心を持ってもらうのはとても嬉しいことです。強制的に連れ出すのではなく、良い具合に相手のツボをつき、刺激を与えて誘導する。おじいさんも、褒められたり周りから自分の人生や経験に対してプラスのフィードバックをされたりすることで、フットワークもいつもより軽くなったのでしょうね」

強制や、きつい口調で言葉をかけるのではなく、相手がみずからその気になるような流れが理想ですよね。それはまるで「北風と太陽」のような。
「相手が〇〇してくれない」と困ったときは、その人の過去の人生や経験の中になにか上手くヒントが隠されているかもしれません。

内門大丈先生
内門大丈先生
湘南いなほクリニック院長。いなほクリニックグループ共同代表。日本老年精神医学会専門医・指導医。日本認知症学会専門医・指導医。認知症の在宅医療推進や認知症情報の情報発信に積極的に取り組んでいる。『認知症の人を理解したいと思ったとき読む本  正しい知識とやさしい寄り添い方』(大和出版)監修。

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この連載について

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