もめない介護

ミッションインファックス 認知症の義母の薬をまとめよ もめない介護33

コスガ聡一 撮影

「2階の女性が夜になると、寝室にやってきてものを盗んでいくの……」

認知症だと確定診断が下った当時から、義母は繰り返し訴えていました。義父と義母は夫婦ふたり暮らしで“2階の女性”は存在しません。このコラムでも何度か触れてきましたが、認知症の周辺症状のひとつとされる「もの盗られ妄想」です。

ほぼ同じ時期に認知症だと診断された義父は「その女性を見たことはない」と言いながらも、「家内のものばかり盗んでいくので困る」と、義母の言い分をまるごと信じていました。つまり、義父母の中では「2階に泥棒がいる」ということが共通認識になっていたのです。

介護が始まったころ、よく「盗まれたもの」として登場したのは処方薬です。もの忘れ外来は受診に付き添っていましたが、義父母は地元のかかりつけの内科や歯科にも通っており、そこで処方された薬をしょっちゅう紛失。訪問看護師さんから「血圧の薬がありません。お父さまは泥棒に盗まれたとおっしゃっています」と連絡を受けるたびに、頭を抱えていました。

当時の義父母は、通い慣れたクリニックであれば、自分たちだけで受診した後、会計窓口で精算し、薬局で薬を受け取ることはできる。でも、ほどなく薬を紛失してしまうのが常でした。

お薬カレンダーで、毎日の投薬を分かりやすく

もの忘れ外来での投薬治療が始まった段階で、壁掛けタイプの「お薬カレンダー」(薬を1週間分、朝・昼・夜・寝る前に分けて収納できる)を導入。さらに薬も、飲むタイミングごとに一つの袋にまとめる「一包化」してもらうことに。

お薬カレンダーを設置するにあたって、義父は何も言いませんでしたが、義母は遠回しに不満を伝えてきました。

「そんなものなくても、薬ぐらいきちんと飲めるのに……」
「どうしても、それ(お薬カレンダー)を使わなきゃダメなの?」
「壁になんて貼ってもすぐ落ちてくるんじゃない?」

私はといえば、素知らぬフリをし、「そうですね! このドアの辺りに貼るのはどうですか?」「将来を考えると、いまから慣れておくといいんですって」などと、能天気な受け答えに徹しました。

すると、義母も「そこなら邪魔にならないわね。もっと下げてもらったほうが見やすいかも」と乗ってきました。よし、その調子だ!

もの忘れ外来でもらった薬以外に、義父母がそれぞれ地元のクリニックで受診した薬も、一緒にセットするようにしました。薬のセットは訪問看護師さんにお願いしました。

無数に増えていくかかりつけと薬をまとめるために

ただ、新たに浮上したのが「カレンダーにセットする前の薬の保管場所」という問題です。

もの忘れ外来の薬については、処方された後、薬局からナースステーションに直接届けてもらっていました。でも、義父母がそれぞれ受診している地元のかかりつけ医は、処方薬局が異なります。

訪問看護師さんから「なんとかまとめてもらえませんか」と言われ、その通りだなと思うけれど、さあ、どうやってまとめるのか。

最初にトライしたのは、もの忘れ外来と内科の受診をセットにすること。前にも触れたように、受診付き添いをシンプルにする、という目的もありました。

幸い、もの忘れ外来には内科が併設されていたので、同じ日に受診予約をすれば、多少付き添う時間が延びるだけで済みます。さらに、義父が通っていた泌尿器科の薬も、「ずっと処方内容が変わっていないのであれば、紹介状をもらって内科で処方してもらう手もある」と薬局で教えてもらいました。

段階を踏んで、少しずつまとめていこうと思っていたのですが、この新しく通い始めた内科の先生と義父母の相性がどうも合わない。さらに、受診時に義父が「背中のかゆみがつらい」
と訴えても、「皮膚のことは皮膚科に聞いて下さい」と、担当科以外は厳密にノータッチ。

それはそれで誠実な対応なのかもしれないけれど、かかりつけと薬が無数に増えていく状態をなんとかしたいというニーズにはミスマッチすぎる……。

往診で、薬の処方から受け取りまでがスマートに

そこに第三の選択肢として浮上したのが、「往診のドクターをお願いする」という案でした。

通院先を変えることに対しては「長年通っていた××医院に申し訳ない」「自分たちでも通えるのに……」と抵抗感を示していた義父母も、往診については「家まで来てくれるのはありがたい」と乗り気。

ケアマネさんに、往診対応してくれる先生を探してもらい、お試し受診をしたところ、「感じのいい先生ね」と、義母の合格点もゲット。もの忘れ外来は引き続き、家族付き添いのもと受診し、それ以外については往診の先生にまとめて診てもらうという方針が固まりました。

往診をお願いするようになって、いちばん良かったのは、薬の処方から受け取りまでのルートが整理されたことです。

もの忘れ外来の受診時に処方せんを受け取ったら、往診の先生のクリニックと提携している薬局に、処方せんをファックスで送ります(原本は後日郵送)。当日か翌日には、薬局から直接、訪問看護ステーションに薬が届きます。そこから適宜、訪問看護師さんがお薬カレンダーにセットしてくれるという流れです。

往診時に処方された薬については、往診の先生と薬局で直接やりとりするので、処方箋のファックスや原本郵送のやりとりもありません。

この体制ができたおかげで、「飲み薬」に関しては気をもむ機会がグッと減りました。実はかゆみ止めの塗り薬に関してはその後も「盗まれた」騒動が続くのですが、その対策についてはまた別の機会にご紹介したいと思います。

あわせて読みたい

この記事をシェアする

この連載について