もめない介護

義母が勧める食べかけごはん、期限切れお菓子が悩ましい もめない介護32

コスガ聡一 撮影

「たいした悩みではないとわかってはいるんですが、母にしつこくお菓子を勧められるのが苦痛です」と打ち明けてくれたのは奈津子さん(仮名・57歳)。

父親は亡くなり、母親は一人暮らし。奈津子さんは3人姉妹ですが、姉と妹は現在の住まいが遠いため、時々実家の様子を見に行くのは奈津子さんの役目になっているそう。

「認知症自体はまださほど重くはなく、目に見える症状としてはもの忘れぐらいです。医師の勧めでデイサービスにも通い始めました。ただ、私の顔を見ると、やたらとお菓子を食べさせようとするんです……」

断っても一歩も引かず、「お腹がすいていないのか」「だったら、こっちのお菓子はどうか」と粘られ、奈津子さんは疲労困憊。諦めて口にしようとして、ふと気づき、パッケージの裏を見ると3年前に賞味期限が切れていたなどということもあって、すっかりイヤになってしまったそうです。

「悪気がないのはわかっているけれど、母に会うとまたアレがあるのか……と思うと、気が重くて」と、奈津子さんは苦笑まじりに教えてくれました。

「ひとくちどうぞ」と“白髪の老婆”に追いかけられる

介護が始まったばかりのころ、私も義母の「おやつを召し上がれ」に悩まされたことがあります。断っても聞いてもらえず、賞味期限が切れていたのもよく似ています。

認知症のせいというより、もとからのキャラもあるようで、夫は慣れているのか、「いらない」とバシッと断った後は、義母がなにを言っても聞き流していました。当時の私はそこまでハッキリとした態度をとる勇気がなく、右往左往。そんな迷いを義母に見透かされ、熱心に勧められたような気がします。

「ダイエット中なんです。人間ドックで引っかかってしまって、糖質制限をするよう医者に言われたんです!」

苦肉の策だった「糖質制限」の言い訳も、義母の前では無力でした。さんざんおやつを断るための押し問答をした後、義母に「今日はこれで失礼します」と声をかけたところ、義母がごはん茶碗を片手に、大あわてで玄関にやってきたことが何度かありました。

「きちんと食事をとらないと、体に毒よ」
「ほら、ひとくちだけでもいいから食べなさい」

茶碗の中身は、さっきまで義母が食べていた納豆ごはんです。言葉は悪いですが、納豆を箸でぐるぐるかき回しながら、「ひとくちどうぞ」と“白髪の老婆”が追ってくる姿はシュールを通り越して、もはやホラーでした。

夫と作戦会議を重ねて

私としては、「どうして私ばかりがこんな目に……!!!」と納得がいかない気持ちでいっぱいです。そういうのは、実の親子でやっていただきたいとも、切実に思いました。でも、腹立たしいことに、実の息子(私の夫)はターゲットから外れているのです。

なんとかこの苦境を脱すべく、夫と再度、作戦会議をし、いくつかの方針を決めました。

まず、お茶はペットボトルを持ち込み、義母に勧められても「自分のものがあるから必要ない」と言って断ります。お菓子については引き続き、「ダイエット中だから」と断る理由を説明します。納豆ごはんの「ひとくちどうぞ」はもちろん、お断りします。

伝え方が冷たくならないようにだけ気をつけながら、断り続けて3カ月ぐらいたったころ、ようやく義母が、一度断れば「あら、そう」と引き下がってくれるようになりました。

こちらも対応に慣れてきて、「賞味期限がいつのものかわからないものを食べるなんて絶対にイヤ!」から、「賞味期限は自分で確認すればいい」というスタイルに変わりつつあったことも良かったのかもしれません。

“何でも言うことを聞いてくれる人”にはならない

ただ現在も、義母の勧めグセは健在です。

義父母が暮らす有料老人ホームでは毎日、15時になるとおやつが提供されます。面会時間がちょうどおやつの時間にさしかかると、義母は必ずといっていいほど、「半分こしましょう」と言い出します。

「おふくろ、きちんと栄養計算してあるものだから、ちゃんと自分で食べてくれよ」
「いいのよ。これぐらい半分にしたって平気。ほら、真奈美さん、食べて」
「まったく、もう……」

私はというと、以前ほど必死に断らなくなりました。お腹に余裕があるときは「ありがとうございます」と半分もらいます。家族とおやつを分け合って食べる楽しい時間を過ごしたという記憶が、義母の心の安定につながるかもしれないと思うからです。

でも、「お腹がいっぱいだからお義母さん、自分で食べて」と断ることもあります。それは“なんでも言うことを聞いてくれる人”にはならないほうがいいのではないか、とも考えているからです。

どこまで効果があるのかはわかりません。でも、少なくとも介護が始まったころよりは、ほどよい距離感が保てるようになっているので、試してみる価値はある。そう考えながら、日々の微調整を重ねています。

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