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一人ひとりの人間味を大切に 社会とつながった生活を支える【百人百色の介護・偕老ホーム】

介護情報季刊誌「Better Care(ベターケア)」とのコラボレーション企画を新たにはじめます。毎回、同誌選りすぐりの記事とともに、なかまぁる読者のための追加情報を加えてお届けします。今回は、各地の特色ある施設を紹介する人気連載「百人百色の介護」から、神奈川県藤沢市の偕老ホームをピックアップします。その地域の介護環境や相談窓口なども詳しく解説しています。野田真智子Better Care編集長からのご挨拶はこちらです。

偕老ホームの明るいリビングルーム。みんなでラジオ体操
偕老ホームの明るいリビングルーム。みんなでラジオ体操

偕老=偕(とも)に老いること。中国の『詩経』にある言葉。おもに夫婦の契りの永遠を指してつかわれるが、別に夫婦に限らない。みんなで仲良くともに老いる。ここはそんな名前のグループホーム。2ユニット定員18名、すべて個室だ。玄関をあがると打ち合わせの応接スペースがあり、その奥は事務室。施設長の熊谷眞理子さんと話をしていると、エプロンをした上品な女性がお茶を運んできてくれた。「ミツエさんはすばらしいお茶の出し方をなさいます」と熊谷さん。ひところは何をするにも自信がなく、一日中座っていて座りだこができていたほど。いまも「〇○をしてください」といわれると躊躇して動けなくなるが、得意なお茶出しに活躍しているのだという。
右奥の広いリビングルームでは、なにやらみなで運動をしている。「スタンドアップ!」の声に立ちあがってラジオ体操。これから食事とあって、「パタカラ体操」にも力が入る。

体操の後はテーブルを拭く人、整える人、お皿に盛りつける人、運ぶ人。それぞれができることをしている。家にいれば普通のこと。もしかしたら、家ではしたことがなかったかもしれない男性陣も、しっかり働いている。まさしく、生活リハビリだ。

南北に長い藤沢市の北部、周囲にはまだ畑もみられる地域にある、鉄骨3階建ての建物。豊かな樹木のある1・2階がグループホーム。内装はふんだんに木を使い、落ち着いた家庭の雰囲気が感じられる。

地域に溶け込み、必要とされる

壁には、さまざまな感謝状や、活動をしたときの写真が貼ってある。近所の神社の宵宮、別の神社の神輿(みこし)見物、近所の小学校の運動会、学童クラブのまつり…と、多様で数多くの行事に積極的に参加している。「今週の予定表」には、月曜=光陵公園のバラ見学、火曜=買い物、水曜=みなでランチづくり、木曜=お菓子づくり、金曜=市民体操・カフェ、土曜=お菓子づくり、日曜=なじみ庵、とスケジュールが目白押し。なじみ庵は、市内のボランティアグループ菜の花の会主催、偕老ホーム共催で、2か月に1度開催。「地域の集い場・ワンデイサロン」。毎回、昔懐かしい遊びやマジックなどのイベントのほか、介護や子育てに関する相談コーナーなどもある。また偕老ホームでは、毎月1回、地域の人に向けたオープンカフェ「すまいるカフェ」を開いていて、なじみ庵へはその出張というかたち。

お茶出し名人のミツエさん(右)と熊谷さん
お茶出し名人のミツエさん(右)と熊谷さん

そのほか、地域とのつながりで忘れてならないのが、近所にある市立御所見(ル・ごしょみ)小学校の校門前に毎朝立って、登校してくる子どもたちに声かけをする「おはようボランティア」。もう何年も続けていて、いまではほとんどの子が顔なじみ。放課後に遊びに来たり、偕老ホームに踊りを披露しに来たりもする。
「地域の行事には、お客さんとして招待されるだけでなく、できることをする参加のしかたをしています。それが本当に地域密着だと思っているので」と熊谷さん。高齢者へのサービス以外にも、子育て支援として、保護者の病気や仕事などの理由があるとき、市内在住の2~12歳の子どもを17~21時まで預かる「トワイライトステイ」も実施している。夕食も食べさせてもらえるので、親としては安心だ。

本来の目的に忠実に

偕老ホームは玄関にかぎをかけていない。だが、開所時はかけていた。熊谷さんが赴任して、鍵をかけないことにしたとき、職員からの反対が多かった。
「でも、グループホームの目的は、ご家族や地域と連携してご本人の希望や能力にあった暮らしを支援するものと信じていましたから、玄関が開いているのは当然。外に出かける方がいれば、そっとあとから見守ってついていくのが当たり前だと思っていました」

いちばん影響を受けたのが、大熊由紀子さんの書いた『「寝たきり老人」のいる国いない国』だったという。
「ご入居のときは、『入れられた』『疎外された』という思いを持つ方がほとんど。でもだんだん、ここが居場所だと感じてくださると、『自宅のほかにもウチがある』と感じて、ここに『ただいま』と帰ってきてくださるようになります」

フキの皮をむいたり、野菜を切ったり
フキの皮をむいたり、野菜を切ったり

外に出かける入居者があると、はじめは近所から苦情もきたが、そのたびに熊谷さんは名刺を持って挨拶をして回った。買い物は、少し高くても入居者も一緒に行って近所の商店街で買い、新しい入居者の歓迎会や、家族も一緒の誕生会なども、近くの飲食店で開催している。近隣のあらゆるイベントに地域住民として参加し、手伝い、住民として「ただ普通に」過ごしてきている。

物とられ妄想もあり、こだわりの強い前頭側頭型認知症をもつ入居者、精神疾患をもつ入居者など、「よその事業所で受け入れきれないという方がよく紹介されてくる」というが、偕老ホームの自然な日常の中で暮らすうちに、穏やかな、その人なりのリズムになってくる。

開設以来、ほとんどのケースで看取りをしてきた。訪問診療をしてくれる医師もいるので、安心して、家族と一緒に看取っている。
「ほとんどの方が、最期に近い時までしっかり食事を召し上がっています。病気になったときの予備力のためにも、食事は重要です」

入居者は、働き、楽しみ、おいしく食べ、おしゃべりし、遊び、眠り、と身体も心も動かしている。今日も偕老ホームには、気持ちのいい地域の風が吹き抜けている。

※「Better Care」80号(2018年夏)より転載。内容はすべて掲載時のものです。
偕老ホームの最新事情はこちらの記事に。

■偕老ホーム
運営:特定非営利活動法人 偕老会
住所:〒252-0824 神奈川県藤沢市打戻1896
Tel:0466-48-7812
Fax:0466-48-7813

神奈川県藤沢市の介護環境
>>福祉の概況
●神奈川県南部中央に位置し、相模湾に面する。江の島や片瀬、鵠沼(くげぬま)、辻堂など国内有数の海水浴場がある「湘南」の中心都市で、横浜、川崎、相模原に次ぐ県内4位の人口を有する。市南部は海水浴のほか、釣りやマリンスポーツが盛んな観光地であり、市北部は工場地域として発展してきた。しかし、近年は企業の撤退が相次ぎ、工業都市としての一面は薄れつつある。面積は69.57㎢。
●藤沢市の総人口は431,694人。65歳以上人口の高齢化率は24.18%(18年6月1日現在)。
●要支援・要介護認定者は18,393人。要支援=6,605人、要介護1=4,436人、要介護2=2,297人、要介護3=1,973人、要介護4=1,532人、要介護5=1,550人(18年1月現在)。

>>主な相談窓口
●福祉健康部 電話0466-25-1111
●社会福祉協議会 電話0466-50-3525
●いきいきサポートセンター(地域包括支援センター)
片瀬   電話0466-29-5066
鵠沼南  電話0466-33-1166
鵠沼東  電話0466-55-1511
辻堂東  電話0466-36-3333
辻堂西  電話0466-54-9511
村岡   電話0466-24-4100
藤沢東部 電話0466-55-5570
藤沢西部 電話0466-22-7633
明治   電話0466-35-2811
善行   電話0466-90-0065
湘南大庭 電話0466-87-3588
六会   電話0466-80-5877
湘南台  電話0466-45-2300
遠藤   電話0466-54-8312
長後   電話0466-45-1121
御所見  電話0466-49-2020

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