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もめない介護

認知症の親だけの生活 口座管理を解決する方法 もめない介護23

通帳のイメージ
コスガ聡一 撮影

「実家からしょっちゅう電話がかかってきて、『生活費が足りなくなったから銀行で下ろしてきてちょうだい』って言われるんだけど、渡してもなくしてしまうの。でも、渡さないとケンカになるし……」

そんな悩みを教えてくれたのは、認知症介護歴5年になるという加世子さん(62)です。加世子さんのお母さん(85)はもともとしっかり者で、一家の主婦として家計の切り盛りを一手に引き受けてきた人だそう。認知症だとわかってからは、加世子さんのお父さんが家計管理をバトンタッチ。夫婦で助け合いながら暮らしてきましたが、昨年、お父さんが亡くなり、ふたたび家計管理の問題が浮上したと言います。

一時期は施設に移るという案も出ましたが、お母さんのたっての希望で、訪問介護(ホームヘルプ)などを利用しながら、ひとり暮らしを続行中。食事の世話などはヘルパーさんに助けてもらい、いまのところつつがなく過ごせていますが、「生活費」の管理だけはどうにも厳しい……と、加世子さんは頭を抱えていました。

必要なときに必要な分だけ渡すことができればいいのかもしれませんが、離れて暮らしていると、なかなか実現は難しいもの。近くに住んでいたとしても、しょっちゅうお金を渡しに行くのは想像以上にわずらわしいものです。

介護を始めると必ず立ちはだかる家計管理の壁

わたし自身も、離れて暮らす義父母の認知症介護にかかわるようになって、早々にこの家計管理の“壁”にぶつかりました。

うちの場合、几帳面な義父が、用途別に通帳を分けていたこともあって、それぞれの口座で「残高不足で引き落としできませんでした」が頻発。引き落とし口座はひとつにまとめておいてくれれば……! と思いましたが、後の祭りです。

そこで通帳を預かり、定期的に記帳しながら、必要に応じて貯蓄からそれぞれの引き落とし口座に現金を移す作業を義父の代わりに行うことにしました。通帳の数を減らすことにトライしなかったのは理由があります。下手に説得を試みて、機嫌を損ねたり、不信感を抱かれたりしたら、元も子もないと思ったのです。

月々の生活費の管理も試行錯誤です。

生活費は毎月1回、義父に指定された金額をATMで下ろしてきて、義母に渡します。
あとで「なくなった!」「盗まれた!!」とならないよう、お札の枚数を一緒に数え、封筒に日付と金額、名前を書き、義母が指定した場所に一緒にしまいました。夫が一緒にいるときであれば、しまうところをデジカメやスマートフォンのカメラでパチリ。

「あら、記念撮影?」と、義母は笑っていましたが、こちらは切実です。幸い、実際に使う場面はありませんでしたが、「真奈美さんが生活費を持って行ってしまった」とあらぬ疑いをかけられたときには、この写真を見せて落ち着いてもらおうと思っていました。

生活費を渡す→しまい込んで忘れる→生活費を渡す・・・の無限ループに

そして、やはり、この生活費が入った封筒も頻繁に行方不明になりました。

「家内が、生活費がないと言っているのでおろしてきてほしい」
「家内が、ドロボウに生活費を盗られたというので、おろしてきてほしい」

義父から切羽詰まった調子で電話がかかってきたこともあります。義母との生活費のやりとりは、なるべく義父の目の前でやるようしていたのですが、記憶に定着しない。もの盗られ妄想のある義母は「盗まれたら困るから」と、家のどこかにしまいこんで忘れ、義父に「生活費がない」と愚痴る。そして義父があわてて私に電話してくる……という、ループにハマリつつありました。

しかし、夫の実家までは片道1時間。そんなにしょっちゅう、“呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン”とやっていたら、こちらの身も持ちません。おそるおそる、「わかりました。次に行ったときにおかあさんと一緒に確認しますね」と伝えてみると、義父は「そうしてください」と意外にアッサリ。

訪問した際に、一緒に探し、生活費の封筒が見つかれば解決。見つからなかったら、何ごともなかったような顔で「じゃあ、ATMでおろしてきますね」と伝え、“いつもの金額”を渡す。もちろん、同じように封筒には日付と名前、金額を書きます。

「大変なものを見つけちゃったかもしれないわ」

そんなことを繰り返していたある日、義母から「真奈美さん、ちょっと……」と呼ばれました。

「私、大変なものを見つけちゃったかもしれないわ。引き出しの中にお金がたくさんあるの……」

興奮気味の義母が指さした先には、銀行の封筒がいくつもあります。それなりの枚数のお札も入っていそうな厚さです。「中身を確認してもいいですか?」と義母に声をかけ、封筒をひっくり返すと……日付と金額と、私の名前! なぜか家のどこかでなくしてしまったはずの生活費の封筒が大集合していました。

「おかあさん、これ、先月と先々月と、その前の生活費ですね」
「あらやだ! こんなところにあったの」
義母は照れ笑い。ひとまず1ヶ月分だけを残し、あとは銀行口座に戻すことを提案すると、「家のなかに余計なお金をおくのは不用心だから、そのほうがいいわね」と義母も賛成してくれました。

お金の問題は切実だし、早く決着をつけたいのは山々だけれど、あえて遠回りが必要な場面もあるかもしれない。どうすれば、お互いのストレスを最小限にできるのか。トライアンドエラーはいまも続いています。

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