そういえばじーちゃんも認知症 高額請求かわす術 これって介護の裏技?
青山ゆずこです! 祖父母がそろって認知症になり、ヤングケアラーとして7年間介護しました。壮絶な日々も独学の“ゆずこ流介護”で乗り切ったけれど、今思えばあれでよかったのか……? 専門家に解説してもらいました!
30分おきに取り立てにあう恐怖……!
以前、ばーちゃんに「ゆずこに家中の500円玉を全部盗まれた!」と、
絶妙にしょぼい小銭どろぼうの疑いをかけられたわたしですが、その後もたびたび「ゆずこが私のサイフを盗っていった」など、お金に関係する身に覚えのない疑いをかけ続けられました。
さらに、普段はばーちゃんという圧倒的な存在感の影になっていて目立ちませんが、同じく認知症(アルツハイマー型)のじーちゃんも、認知症と診断されてからお金に関することに固執するようになっていったのです。
例えば、ゆずこが毎月払う家賃のこと。住んでいるのはじーちゃんとばーちゃんの持ち家ですが、「じーちゃんばーちゃんの介護をするために、一緒に住む」と言うと二人のプライドを傷付けてしまう可能性があったので、「仕事がなくて住むところに困っているので、ちょっとの間だけ一緒に住ませて」という、なんとも生々しい理由で同居させてもらっていました。
二人の了承はとっていたのですが、一緒に暮らしはじめてからすぐのこと。
早朝、まだ布団で爆睡しているわたしに向かって、
「お前、今月の家賃を払ってくれよ」と、家賃の請求をしてきたのです。
その額は5万円。しかも毎月ではなく、「30分おき」という鬼畜っぷり。何度かは素直に渡すと、受け取って去っていったと思いきや、30分後には「おう、今月の家賃払ってくれや」と悪徳不動産がやってくる。受け取ったことも、会話もすべてじーちゃんの中ではリセットされてしまうようで、暇さえあれば常に取り立てられるのです。
資金はじーちゃんの財布から。上手く立ち回って家賃はタダ?
さすがに毎回バカ正直に払っていたらすぐに破産してしまいます。そこで、ある作戦を実行してみました。
それはズバリ、「じーちゃん自身に5万円を出してもらっちゃえ作戦」です。
家賃の催促をされたら、おもむろに「ねえじーちゃん、ちょっとお財布見せて」と言いながら5万円を手に取ります(年金をすべてお財布に入れて持ち歩いてしまうので、現金があるのは確認済み)。
そして、お札を持ったまましばらく世間話。するとお財布を見せた記憶が少し薄れてくるので、その5万円をそのまま「あ、そーだ。はい、家賃♪」と言って渡せば終了です。これなら30分おきでも、10分おきでも私には何も負担がかかりません。
でも、短時間で何度も「お財布を見せて」と言えばすぐに見せてくれるじーちゃんがちょっと怖い(防犯面で)。一瞬「あれ?これ俺が渡したお金じゃ……」と考えるようなそぶりもあるのですが、そこは一切見なかったことにしてスルー。ちょっとヒヤヒヤですが、30分に一度家賃を請求してくる厄介な大家に対して、真顔で乗り切ります。
そして短時間で飛び交いまくる、じーちゃんの5万円。傍から見れば謎の儀式。でも陰からこっそり見ているばーちゃんには、なぜかこのゆずこ作戦はすべてお見通しのようで、いつも意味ありげな笑みを浮かべているのです……。
なぜお金にこだわる? 認知症とお金のトラブル
家賃を超頻繫に回収するじーちゃんや、分け前をよこせと言って聞かないばーちゃん。ただ、冒頭の小銭泥棒疑惑もあわせて、やたらお金にまつわるトラブルが多いのは気のせいでしょうか。認知症の方を介護されているご家族からも、「お金を盗られた!と疑われることが多い」という悩みをよく聞きます。なぜそこまで、とくにお金に固執するのでしょうか。はたして、その因果関係とは?
東北福祉大学福祉心理学科の教授で日本認知症ケア学会の理事、そして『認知症になるとなぜ「不可解な行動」をとるのか』(河出書房新書)の著者である加藤伸司先生にお話を聞きました。
「今までできていたことが段々できなくなっていって、さらに記憶が欠落してしまうなど失うものが増えていくと、頼りになるものや心の支えがどうしてもお金になって、それで固執してしまうのかもしれません。ケチだとかお金に汚いというわけではなくて、です。
私たちも知らない場所に行ったときに、お金がなかったら不安になりますよね。お金を持っていればタクシーに乗ったり、電車を使ったり、『なんとかなるかもしれない』と思えるじゃないですか。それは認知症の方も同じなのだと思います。『お金を盗られた!』という物盗られ妄想も、結局は根本的に不安が原因の一つになっているのかも知れません」
先生のお話を聞いて、「じーちゃんばーちゃんはお金お金ってうるさいなあ」「お金に汚いのかな」と一瞬でも思ってしまったことを後悔しました。どうしても、お金が心のよりどころになってしまう、ちょっと悲しい現実がある。
今度同じようなことがあったら、もの凄く優しい笑みを浮かべながら5万円を渡したいと思います。そしてまた、超高速で同じ5万円が飛び交うことでしょう。
- 加藤伸司先生
- 東北福祉大学総合福祉学部福祉心理学科教授。認知症介護研究・研修仙台センターセンター長。日本認知症ケア学会副理事長。近著に『認知症になるとなぜ「不可解な行動」をとるのか』(河出書房新社)、『認知症の人を知る―認知症の人はなにを思い、どのような行動を取るのか』(ワールドプランニング)など