フォーカス

世を席巻「注文をまちがえる料理店」は認知症の何を変えたか 代表に聞く1

和田行男さん
和田行男さん

2017年6月、東京・六本木で、「注文をまちがえる料理店」が、2日間限定でオープンしました。注文を取るホールスタッフは、認知症の人たち。この取り組みは日本だけでなく、海外でも報道されました。また、趣旨に賛同した多くの人々が全国各地で同様の取り組みを実践しています。しかし、その店名に違和感を唱える人も少なくありません。「注文をまちがえる料理店」は何を目的とし、何を残そうとしているのか――。仕掛け人の一人で、一般社団法人「注文をまちがえる料理店」代表理事の和田行男さんにお話を聞きました。

きっかけはギョーザに変身したハンバーグ

――和田さんは長年、介護福祉事業に携わり、多くの認知症の方たちに接してこられました。認知症ケアの第一人者として、どのような思いで「注文をまちがえる料理店」という取り組みに参加されたのでしょうか。

かつて認知症の方に対する支援は、要介護状態になって介護施設に入所したら、身の回りのことは介護職員たちがしてあげるというスタイルでした。本当は自分でできることもあるし、ほんの少し助けてもらえばできるかもしれないのに、全員「できない人」と見なされ、一律に「介護してもらう」ことが一般的だったわけです。僕自身はこうした「介護」に疑問を感じ、本人のいろいろな力を使い続けられるような応援を介護の現場で実践してきました。その延長線上に「仕事をする」ということも僕自身の課題だと思っていたので、「注文をまちがえる料理店」の話が出た時は「やろう!」となりました。

――声をかけてこられた小国士朗さんはテレビ局のディレクターだった方で、その3年前に和田さんの施設を取材していました。取材で認知症の方が生活する様子を見たことが、「注文をまちがえる料理店」につながったとか。

当時、取材が行われたグループホームでは、職員の支援で入居者自身が献立を決め、買い物や調理も協力し合っておこなっていたんです。そのとき「ハンバーグを作ろう」ということになって準備を始めたはずなのに、出来上がったのはなんとギョーザでした。準備している間に、変わってしまったんでしょうね。同じひき肉料理とはいえあまりのまちがいっぷりに、小国さんは「あれ? ハンバーグを作るんじゃなかったの?」と、のど元まで出かかったそうです。でも誰も困っていない。それどころかみんな楽しそうに食べている。その経験が「注文をまちがえる料理店」につながったそうです。

「注文をまちがえる料理店」の看板

でも「注文をまちがえる」って、思わずほほ笑んでしまうようなおかしさやかわいらしさがあるでしょう? 僕の自宅近くに老夫婦で営むお好み焼き屋さんがありました。お父ちゃんが注文をとった後、お母ちゃんが作りながら「注文は何でしたか」って何度も聞いてくるんでお父ちゃんが怒るんですけど、お父ちゃんも勘定を間違えていてね(笑)。でも、お客である僕らが受け止めて対処したんです。このやりとりがおかしくて、小国さんに「注文を間違えるお好み焼き屋がある。今度、連れて行くわな」と話をしました。実現しませんでしたがね。

認知症の人がそうでない人と向き合うことが大前提

――店名からいろいろなことが伝わりますよね

認知症の方がそこで働いているという、一つの看板でもあるわけです。「だから注文をまちがえるかもしれないよ、そこは勘弁してね」って。よく見てもらうとわかるけど、「注文をまちがえる料理店」のあとに、ごめんねの意味を込めて「てへぺろマーク」がついているんですよ。

――それは車に、もみじマークが貼ってあるようなイメージですか

たとえば、大人は子どもに対して、誰に教わらなくてもごく自然に子どもがわかる言葉を使うし、子どものスピードに合わせますよね。また、体に障害がある人も、障害のない人と同じようには動けないことを周囲の人は理解しています。一見してわかりますからね。一方、認知症の場合は、いろいろとんちんかんに思える行動の原因が脳だから見えないわけで……。でも「注文をまちがえる料理店」では店名を通して認知症の人が働いていると伝わるので、名札を付けているようなものです。

――ただ、認知症の方たちの中でも、できることに個人差がありますよね。「注文をまちがえる」という名前を付けてしまうことによって、「認知症の人はまちがえるものだ」と固定概念を植え付けてしまう懸念はなかったんでしょうか。

和田行男さん

正確には「まちがえるかもしれない」なんだけど、「まちがえるかもしれない料理店」って変じゃないですか。僕自身は「注文をまちがえる料理店」というネーミングにはおかしさがあると思っていて、僕と同じように感じる人もいれば、批判する人もいる。僕自身はそれでいい、いろいろあっていいじゃない、と思っているんです。

――認知症の方が働く場として、例えば箱を組み立てるといったモノ相手の作業が多い印象ですが、人と接することにこそ意味があると? 

モノと向き合う仕事でもお給料はもらえるかもしれないけれど、それは本人のプラスにしかなりません。でも人と向き合う仕事であれば、認知症の方だけでなく、今回の料理店に来るお客様も認知症の方と関わることによって何か変わっていくこともあるんじゃないか。だから接客して「人と向き合う」というのが大前提でした。

※和田さんのインタビュー(2)に続きます(9月3日公開予定)

和田行男(わだ・ゆきお)
一般社団法人「注文をまちがえる料理店」代表理事
認知症ケアの第一人者。高知県生まれ。1987年、国鉄の電車修理担当から福祉の世界へ大転身。特別養護老人ホームなどを経験したのち97年、東京都で初めてとなる「グループホームこもれび」の施設長に。株式会社大起エンゼルヘルプでグループホーム・デイサービス・認知症デイサービス・ショートステイ・特定施設・小規模多機能型居宅介護を統括。2016年から「注文をまちがえる料理店」の企画・運営に参加し、2018年の法人化とともに代表理事に就任した。『大逆転の痴呆ケア』『認知症開花支援』他、著書多数。

あわせて読みたい

この記事をシェアする

この連載について