Better Care 通信

「団地で老いる」を支える だれもが安心して過ごせる地域の「保健室」

介護情報季刊誌「Better Care(ベターケア)」となかまぁるのコラボレーション企画です。同誌に掲載された選りすぐりの記事とともに、なかまぁる読者のための、雑誌には載っていない情報を加えてお届けします。野田真智子Better Care編集長からのご挨拶はこちらです。

法人社長の谷川政子さん(左)と、室長の間渕由紀子さん
法人社長の谷川政子さん(左)と、室長の間渕由紀子さん

「Better Care」84号(2019年夏)では、「地元がいちばん、足元を大切に!」という特集を掲げ、前・厚生労働省健康局長の宇都宮啓さんのインタビューをはじめ、全国の魅力的な活動を紹介しています。今回はその一つ、東京都多摩地区の歴史のある団地に開設された相談室「暮らしの保健室多摩」をとりあげます。
そしてなかまぁる読者のために、原稿の最後にはその後の様子を追記しています。

高齢化率の高い団地内に

東京の西部、昭島市は人口11万3000余の都心部のベッドタウン。市全体の高齢化率も25.9%と、都全域の23.3%を上回ってはいるが、<暮らしの保健室多摩>のある昭島つつじが丘ハイツは、35.6%。その団地の、空き店舗の目立つショッピングプラザ内に、居宅介護支援、訪問介護・看護、デイサービス(地域密着型)の事業所をもつ<有限会社つつじ>が、2018年10月、デイサービスに隣接して<暮らしの保健室多摩>を開設した。
室長は、居宅介護支援のつつじが丘介護支援センター長も兼ねる間渕由紀子さん。長年、急性期をもつ大病院で地域連携部門の立ち上げから牽引し、さらに、在宅診療の草分け的存在の一人、新田國夫医師率いる新田クリニック(国立市)でも、医療相談や出張講座などを手掛けてきた地域の暮らしに明るい看護師。
「代表(社長)の谷川政子さんとは長年のおつきあいで、<有限会社つつじ>の開設から15年たったのを機に暮らしの保健室を開きたいので、地域で働かないかと誘われたのがきっかけ。子どもを育て、子育てに協力してくれた母をも看取ったこの地域に、いつか恩返ししたいと思っていたので決めました」と、地元で仕事を始めた動機を語る。
母の介護には訪問介護に、自費も含めて1日5回、入ってもらったりしたという。そこで意気投合し、この<暮らしの保健室多摩>を立ち上げた。その名前の通り、新宿にある<暮らしの保健室>のコンセプトを共有。暮らしの保健室創始者の秋山正子さんと間渕さんは旧知の仲だ。暮らしの保健室は、地域に住む人たちが気軽に集い、暮らしのなかの健康や医療、介護について相談できる場所。そこは、いつも専門職が在駐していて、安心して相談でき、必要な支援機関などへもつないでもらえる場。全国にこの名を冠した活動が広がっている。

学びながら楽しく集う場

昨年10月開設以来、ここ<暮らしの保健室多摩>には延べ350人以上が来室している。月平均60人ほどで、繰り返し訪れる人もいるが、新規の来室者も増えている。また、一般の利用者のほかに、ケアマネジャーや地域包括支援センター職員、訪問看護師など、専門職からの相談も地域も越えて寄せられている。
「たとえば、病気になった親を地方から呼び寄せたいという相談には、この地域の医療機関の情報を伝えるだけでなく、退院調整のお手伝いなどもします。また、明らかに看取りが遠くないと分かる場合などは、残されるご家族、場合によってはご本人ともじっくりとお話をして、どのような最期を望まれているのか伺います。不安がある場合には何度でも無料で相談にのりますとお伝えしています」
現在、<暮らしの保健室多摩>の開設は、月・火・水・金の10~15時半。電話や面談で相談にのり、不安や困りごとの解決に向けて一緒に伴走する。地域の住民に利用してもらいたいと始めたが、住まいやかかりつけ医、病院などの地域を問わず、だれでも利用できる。
「つつじが丘ハイツの一部地区では高齢化率が60%を超えているところもあり、高齢の方が多いだけに認知症への関心も高いです。でも、漠然とした不安から『認知症にはなりたくない』と思っている人も多く、正しい理解が必要です」
そこで、毎月第3日曜日には、団地内の集会室を借りて「だ・ん・ち・でカフェ」を開催。
「地域のママ友やサロンに詳しい方の参加で、実行委員会をつくり、認知症を学びつつ楽しく過ごすことができればとの思いで始めました」
毎回、認知症や医療、介護関連のお勉強をちょっとし、簡単な体操や歌やおしゃべりはいっぱいの楽しいカフェ。参加費は200円。会場費や飲み物代、講師謝礼に使う。「今日も、体操あり、歌ありで、楽しかった」と常連の声が寄せられている。

Aさんの作品などが飾られている居心地のいい室内
Aさんの作品などが飾られている居心地のいい室内

毎日の居場所が安心の元

一方、相談室に、毎日のように顔を見せる人がいる。そろそろ来るはず、と間渕さんは電話をかける。「くる」といってからしばらく来ないので「ちょっと見てきますね」と迎えに行った。間渕さんと現れたAさんは、89歳。ちぎり絵の講師をしていて、相談室に飾られている多くはAさんの作品。今日は取材ではなく、急遽、ちぎり絵教室になった。
「北朝鮮から18歳で引き揚げてきたのよ。大変だったけれど、本当につらかったのは、そのあとの暮らし」と、鮮明な思い出を話しながら、手は素早く美しい色の和紙をちぎっては糊で台紙に貼り付けていく。和紙はすべて、Aさんがこれまで福井の越前和紙屋さんに通って自ら特注してきたもの。すばらしい色合いだ。取材者のおぼつかない仕上がりに、笑いながらサッと水をつけて糊を溶かし、ちぎり方を変え、貼り付け位置をずらし、見事な作品につくりかえてくれる。
「いいのよ、自分が思ったようにつくれば。ちぎり絵には、こうでなければ、ということはないの」と絵心のない取材者にやさしい。

色とりどりの和紙を広げて作品制作に取り組むAさん(右)と間渕さん
色とりどりの和紙を広げて作品制作に取り組むAさん(右)と間渕さん

曜日を忘れ、食事も忘れがちなAさんに、間渕さんは「今日、お昼、食べたの? まだならおにぎりがあるわ」「野菜も摂らなきゃね」となにくれとなく心を配る。「このごろ、いろいろ忘れて困るの。どうも通帳がないのよ」というAさんに、「忘れても大丈夫よ。私たちがいるでしょ。私、おせっかいおばさんだから」と笑顔で答える間渕さん。間渕さんのもたせた夕飯用の料理や果物をもって、Aさんは帰っていった。「家にあるものをもってくるだけだから」と、間渕さんは、ほぼ毎日、Aさんに渡す分もお弁当として持参してくる。
「ご近所は一人暮らしの方も多いので、この相談室で夕方、ちょい飲み、ちょい食べの会を月に2回くらい開けないかなあと考えています。みんなで一緒におしゃべりしながら食べると、食も進むし、ついでにちょっと栄養や健康の知識も伝えられます。見守りにもなるでしょ」と、今後の展開を思案中。
超高齢化の進展する団地で、地域を熟知し、地域に溶け込む間渕さんのような専門職の果たす役割は大きい。しかし、秋山さんの保健室にはある公的支援の金銭的裏打ちがまったくない<暮らしの保健室多摩>の場合、相談費などは無料なので、間渕さんの人件費はもちろん、その他の活動原資も、他部門の収益に依存せざるを得ない。今後どうするのか、活動継続には大きな課題がある。
「それでも実際に、とても必要性の高い活動。なんとかいい解決策が見つかればと思います」
利用者も、近隣住民も、そして取材者も、心からそれを願っている。

10月下旬、 認知症の認定看護師になる学生さん4人の、デイサービスと「暮らしの保健室多摩」の見学実習
10月下旬、 認知症の認定看護師になる学生さん4人の、デイサービスと「暮らしの保健室多摩」の見学実習

その後の「暮らしの保健室多摩」

室長の間渕由紀子さんは、自身のFacebookに、こんなことを書いています。

10月下旬、 認知症の認定看護師になる学生さん4人が、デイサービスと暮らしの保健室多摩の見学実習。デイの職員の認知症の方に対する工夫や対応の仕方に病院との違いを感じたらしい。そして、認知症の方々の会話を通して、お互いを思いやるピアカウンセリングができていると驚いている。その後、一人暮らしのアルツハイマー型認知症の方のご自宅を訪問したら、お部屋の掃除が行き届いていることにまたまたびっくりしていた。
コーヒーを飲みながら<暮らしの保健室多摩>でアルツハイマー型認知症の数人の方とあれこれ話し合い。普通に生活できて、普通に会話をしていることが衝撃だという。そして、妄想や幻視の話を聞いて「あのレビーの方」と決めつけた言いかたをしたので、生活をするのには診断名は関係ないことをしっかりと伝える。それはまさに認知症の方への偏見にもつながること、生活している方の視点でみて、今日見たことを急性期病院に戻ったら他の方にもしっかり伝えてくださいとしめた。

暮らしの保健室 多摩
■有限会社つつじ <暮らしの保健室多摩>
住所:〒196-0012 東京都昭島市つつじが丘3-5-6 101号室(つつじが丘団地6号棟1F)
TEL:042-500-5441(代表)
FAX:042-544-3727
受付:月・火・水・金 10:00〜15:30

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