認知症になって入浴を拒否する妻 風呂に入れる方法を専門家が教えます
構成/中寺暁子
見守り支援を行う梅澤宗一郎さんが、介護経験を生かして、認知症の様々な悩みに答えます。
Q.妻(72歳)はもともときれい好きだったのに、認知症と診断されてから入浴を嫌がるようになりました。どう伝えれば入浴してくれるでしょうか。(72歳・男性)
A.もともときれい好きということですから、お風呂に入ってしまえば「気持ちよかった~」と感じられるのでしょうね。問題はそこまでのアプローチです。なぜ入浴を嫌がるのでしょうか。私の経験上、考えられるのは「伝え方」「タイミング」「環境」の三つです。
入浴を嫌がる3つの理由
<伝え方に問題>
まず伝え方ですが、上から指示するように入浴を促すとうまくいかないことが多いと思います。奥様は「なぜあなたに指図されなくてはいけないの?」と反発したくなるのではないでしょうか。
例えば「今日は暑かったから汗かいちゃったね。僕は洗濯しているから、その間にお風呂で汗を流してきたら?」といった対等な伝え方はいかがでしょうか?。そして服を脱ぐときや体を洗うときなどに困っていたら、さりげなく手伝えるといいですね。
上から指示しないというのは、ヘルパーがお風呂を担当する場合も同じです。「お風呂に入れてあげる」という立場でいると、なかなかうまくいきません。「私はこれをするから、あなたはこれをして」という“等価交換”は、人の心を動かすためにとても大事なことだと思うのです。
<タイミングが悪い>
入浴を促すタイミングもポイントです。入浴を嫌がるのは、単に面倒なだけということもよくあります。テレビを見てくつろいでいるときに、立ち上がるのって、誰でも面倒に感じますよね。トイレに行ったときに、その流れでお風呂に促すなど、立ち上がったタイミングで声を掛けると、面倒には感じにくいものです。
訪問介護で入浴を拒否していたAさんは音楽が好きだったので、音楽をかけて一緒に歌いながら気分を盛り上げ、立ち上がった所で声を掛けることでスムーズにお風呂に入ることができるようになりました。
<環境が整っていない>
環境づくりも大切です。見守り支援で出会ったIさんは「お風呂に入ったときにシャンプーとリンスがわからなくなって何度も失敗し、お風呂が嫌になった」と話していました。
また、軽度の認知症と診断されたMさんは、脱いだ服を入浴後も着てしまう、ということがよくありましたが、それを家族に怒られるとお風呂に行くのが嫌になるという負の連鎖が起きていました。「認知症かも」と感じた時点で、家族の方には本人が失敗しない環境づくりをしていただきたいと思います。
多くの場合、何が今まで通りにできなくなってきたかを説明することが困難になります。そして、本人は喪失感から自信を失い不安や無気力といった状況になることがあるのです。
シャンプー、リンス、ボディーソープを一目で違いがわかるようにしておく、脱いだ服はさっと片づけて着替えやタオルをわかりやすい場所に置いておくといった、認知症であっても一人で入浴できるような環境づくりをぜひやっていただきたいです。「自分のことは自分でやる」という今までの当たり前を継続するためには、周りの人たちがちょっとした気づきと工夫でサポートすることが重要です。
大事なことは「気持ちを動かす」こと
“体を動かそう”とするのではなく、“気持ちを動かす”ということを考えて工夫できるといいですね。
「介護はクリエーティブ」なんですよ。
【まとめ】入浴を嫌がる認知症の人へのアプローチ
- 指図はしない、服を脱ぐときなどにさりげなく手伝いを
- トイレなどに立ち上がったタイミングでお風呂へ
- シャンプーなどを分かるように置き、「自分のことは自分でできる」サポートを