認知症とともにあるウェブメディア

介護の裏ワザ、これってどうよ?

プライド高い認知症のばーちゃんにダメ人間作戦 これって介護の裏技?

青山ゆずこです! 祖父母がそろって認知症になり、25歳からヤングケアラーとして7年間介護していました。壮絶な日々をゆずこ流介護で乗り切ったけれど、いま思えばアレでよかったのか?と自問することがあります。でももし、裏ワザとして正解だったのなら、同じヤングケアラーとして奮闘している仲間におススメできたりして!? はたして、ゆずこ流は許されるのか、専門家に解説してもらいました。

じじばばのプライド「ボケても死守するよっ!」

相手のプライドをくすぐれ!

食事や入浴など、何度声をかけても拒否されてしまう時がありますよね。理由を聞いても答えてくれず、とにかくかたくなに拒否をされてしまう。
夫婦そろって認知症のウチの祖父母も、「私(俺)はご飯なんか食べたくないんだよ!」「風呂なんか入らなくても生きていける!」と、どんなに声をかけても真っ向から否定され、拒否をされちゃいます。
元々好き嫌いもないし、時間的にも絶対お腹が空いているはずなのに。家の中をせかせか歩き回るから、汗もめちゃくちゃかいているはずなのに。だけどこんなときは、いくら正論で長時間説得しても相手は言うことを聞いてくれません。

「〇〇しなきゃダメでしょ!」は禁句だった!

食事や入浴に限らず、「〇〇しなきゃダメでしょ!」「なんでこんなこともできないの」など、介護しているとつい言ってしまいがちなこんな言葉ですが、正論を突きつけても、相手は頑なに言うことを聞いてくれません。そんな言い争いを何度も繰り返しているうちに、ふとあることに気付いたんです。
介護って、知らず知らずのうちに「相手に〇〇をやってあげてる」「〇〇してあげてるのに」 など、こちらがちょっと上の立場に立っているかのように誤解してしまう瞬間があるんじゃないかと。もちろん、そんなつもりは毛頭ないんですよ。でも、ほんと無意識のうちに、いつの間にか。

しかも、うちのばーちゃんは、昔からプライドがヒマラヤ級にめちゃくちゃ高い。そんな人が、娘や年下の相手から“命令”されたら、余計に機嫌を損ねたり、すねてしまってもおかしくないかも知れない。

そこで、自分がじーちゃんやばーちゃんだったら、こんな言い方をされてどう感じるかなと、言われる側の気持ちになりきってみたんです。……うーん、なんだかやっぱりちょっとムカッとするかも。そこで私はこの状況を打破するべく、孫だから許される(?)こんな奇策を試してみました。

相手が引くほどのダメ人間キャラを演じてみる

ポイントは、相手が引くくらいダメ人間キャラを演じたあと、“相手に頼って”行動を促しちゃう。プライドをこちょこちょとくすぐるイメージです。大丈夫、孫やヤングケアラーなら許される(はず)。

例えば、食事をとらないとき、「食べなきゃだめでしょ!」とは言いません。
ゆずこ「ねえねえ、あたしも好き嫌い多くてさ。マジでニンジンとかピーマンとか、パクチーとか滅べばいいって感じ。ばーちゃんの気持ちめっちゃ分かるわあ~!」
ばーちゃん「……(予想外の言葉だったのか、若干引いてる)」
さらに、こう畳み掛けます。

「え、あたしコレ嫌い。ねえ、ばーちゃんコレも食べて」「ばーちゃん、お風呂入れて、顔洗ってぇ」。

ゆずこ「あのねばーちゃん、一生のお願いなんだけど、あたしの嫌いなやつも食べてくれない? 頼れるのばーちゃんしかいないの……」
しょんぼりしながら甘えてみると、「まったくあんたは……、しょうがないねぇ」と言って、ばーちゃんは結構な確率でもぐもぐと食べてくれます。頼られることでプライドが良い方向に刺激されるのでしょうか。

さらに、ばーちゃんが入浴を拒否し続けるときも、
ゆずこ「あたしも二日酔いでめっちゃ酒くさいんだけどさ、お風呂ってメンドクサイよね!ついでに化粧落としてないから目の下がマスカラで真っ黒で、髪の毛も寝癖で逆立ってるけど、お風呂は面倒だし☆ まあ、ばーちゃんが髪洗ってくれるなら入るけどぉ~」
ばーちゃん「あんた、それじゃ外も出歩けないだろう。しょうがないねぇ。まったく、あんたは私がいないとダメだねえ」

こんな感じであえてダメ人間を演じてみたら、あれだけ拒否されていた食事や入浴に驚くほどスムーズに誘導できました……!

ゆずこ流は正しかったのか? 専門家が解説

このように“ダメ人間”になりきって相手に頼っちゃう孫介護のテクニックですが、介護や認知症の専門家の方々からはどのように見えるのでしょうか。横浜相原病院の院長で、『「こころ」の名医が教える 認知症は接し方で100%変わる!』(IDP出版)の著者である吉田勝明先生にお話を聞きました。

先生、私のこのダメ人間テクニックはどんな効果があったんでしょうか。質問しながらも、なぜか冷や汗ダラダラです。吉田先生の口から出た言葉は……

「あなたがやったことは正しいんだよ! いっぱいいっぱいになりながらも、追いつめられながらも、自分なりに一所懸命に考えてやったことでしょう? 後悔や『あのときもっとああすれば……』なんて“たられば”はいくらでも出てくるんです。でも、頑張った自分を決して否定しちゃダメですよ」

ヤバい、なんか泣きそう。

「認知症の患者さんも、役割を与えられたり、頼られたりすることで自尊心が適度に刺激されます。逆にいくら正論で諭したって、あまり効果は期待できないんです。説得の内容が頭に入ってこない上に、強い口調で何かを言われた、説教をされたという嫌な印象『だけ』が記憶に残ります。そして相手から否定されたと感じ、言い訳としてさらに作り話を重ねるという悪循環に陥ってしまうんです」(吉田先生)

ちなみに、赤ちゃん言葉を使ったり、「〇〇ちゃん」と過剰に子ども扱いをしてしまったりすることも本人のプライドを傷つけてしまう危険があるのだとか。
「自分が認知症ということを理解している場合もあるので、プライドを傷つけない接し方をする配慮が特に重要です」(吉田先生)

介護の中では、自分でも気が付かないうちに相手を子ども扱いしていることがあるような気がします。介護される人の全員が子ども扱いを嫌うことはないのかもしれませんが、中には「何だこの小童が!」とイラッとする人もいるのかも。

だからこそ、こちら側がダメ人間になるテクニックを駆使することで、プライドを傷つけるどころかくすぐっちゃう。自尊心を刺激しちゃうという裏技でした。ただ、実は割と、ゆずこの素のキャラでいけちゃったのが自分でもちょっと怖いですが、世の中のヤングケアラーのみなさま、一度試してみてもいいかも?
「ゆずこのダメ人間キャラは演技じゃないんじゃね?」とか聞かないで……。

あ、そうそう。この連載が始まることになったのは、わたしが7年間のドタバタ在宅介護の日々を綴った『ばーちゃんがゴリラになっちゃった。』(徳間書店)というコミックエッセーが編集者の目に止まったからでした。

吉田先生には、「人を動物に例えるのはよろしくない」とご指摘をいただいたのですが、うちのばーちゃんは元々超力持ちだったので、認知症になってからは手が付けられないほど暴れたり、わたしの部屋のタンスや机を軽々と毎日外に捨ててしまったり、およそ人間ワザとは思えない症状が出たり……(笑)なのでわかりやすい表現にしました。

そんな日常の中、体当たりで学んだ介護テクニックや立ち回りなどについて、これからも「これってどうよ?」と専門家の先生を直撃していきたいと思います。

吉田勝明先生
吉田勝明先生
横浜相原病院院長。日本老年精神医学会専門医・精神科専門医。「今を楽しく」をモットーに、認知症の患者と全力で向き合う。著書に『「こころ」の名医が教える 認知症は接し方で 100%変わる!』(IPD出版)など。

あわせて読みたい

この記事をシェアする

この連載について

認知症とともにあるウェブメディア