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自分や家族が認知症になったらお金をどう管理する?金融機関の活用法

高齢者とお金のイメージ

認知症になったときにお金の管理をどうするかは、大きな問題です。財産管理を専門とする信託銀行や、地域に根ざした信用金庫には、認知症の人やその家族を支えるための取り組みはあるのでしょうか?最新の動きを聞きました。

お金を「自分らしく使う」ため

「判断能力が低下した人の財産管理について、私たちはこれまで『守る』ことを重視してきました。しかし、安全性を高めるほど、本人が使いたいときに使えなくなってしまう。自分らしいお金の使い方を継続できる仕組みが必要だと考えました」

そう話すのは、三菱UFJ信託銀行リテール企画推進部の櫨原大輔さんです。スマートフォンの専用アプリを使って本人と親族らの間で情報を「見える化」することで、簡単に、なおかつ安全に支出を管理できる信託商品「代理出金機能付信託 つかえて安心」を3月12日に売り出しました。

三菱UFJ信託銀行のスマートフォンの専用アプリを使って本人と親族らの間で情報を「見える化」することで、簡単に、なおかつ安全に支出を管理できる信託商品「代理出金機能付信託 つかえて安心」
三菱UFJ信託銀行の「つかえて安心」のパンフレット

スマホアプリで「見える化」

認知症などで判断能力が十分でない人の財産管理を支援する仕組みとしては、「成年後見制度」が2000年に始まりました。しかし、家庭裁判所での手続きが必要なことや、お金の使い道が厳しくチェックされることなどから、利用は約21万件にとどまり、広く一般に普及しているとはいえない状況です。

それに対して、「家族信託」と呼ばれる仕組みもあります。家族などが財産管理の受託者になり、認知症になった本人のお金の使い道を決められるのが特徴です。しかし、家族などの受託者の裁量が大きく、家庭裁判所のような第三者による支出状況のチェックも必須ではないため、不正を防ぎにくいデメリットがあります。

三菱UFJ信託銀行の「つかえて安心」は、両者の間を埋めるようなサービスとして考案されました。契約者本人は信託口座に資産を預け、代理人を1人指定します。代理人は、契約者の3等親以内の親族、弁護士、司法書士の中から選ぶことができます。また、契約者や代理人がふだん使っている口座を払い出し口座として指定しておきます。病院の受診料や薬代、日々の買い物などの出費があったら、契約者や、代わりに支払った代理人は領収証をスマートフォンで撮影し、専用アプリで払い出し請求をします。すると、信託銀行の店舗に行くことなく信託口座から、指定口座にお金が振り込まれる仕組みです。毎月1万~20万円の範囲で、定額でまとめて払い出し設定することもできます。

お金の使途を項目ごとに一覧で表示できる。閲覧者には請求の取り消し権限はありませんが、代理人以外の家族にも支出状況を「見える化」することで、「代理人による不正利用の相当な抑止力に」
お金の使途を項目ごとに一覧で表示できる

ポイントとなるのは、請求日から入金されるまでに5日間の「みまもり期間」があり、事前に登録された親族などの閲覧者にも請求内容が通知されることです。閲覧者は、契約者と代理人が何人でも指定することができます。閲覧者には請求の取り消し権限はありませんが、代理人以外の家族にも支出状況を「見える化」することで、「代理人による不正利用の相当な抑止力になります」(櫨原さん)。

デジタル技術を活用し、人の手を介さない仕組みのため、信託金額は200万円から利用でき、信託報酬も他の信託商品に比べて割安に設定されています。この商品は特許出願中で、今までにない仕組みだそうです。

認知症になると無駄遣いできない?

櫨原さんが強調するのは、自分らしいお金の使い方を守ることです。契約者の意向をくんでくれる代理人をあらかじめ決めておくことで、契約者本人の判断能力が落ちてからも、その人らしいお金の使い方を続けることができるといいます。お金の使途が本人のためだけに限られる厳格な運用では、たとえば家族で外食したときの食事代をごちそうすることも認められません。櫨原さんは、「端から見ると無駄遣いでも、その人にとっては有益なお金の使い道もある。認知症になったからって、無駄遣いができなくなるのはおかしいと思うのです」と話しました。

「つかえて安心」を開発した三菱UFJ信託銀行の櫨原大輔さん。「これまでのように年齢で区切る時代ではなくなってくる。人ぞれぞれの認知能力に合わせた対応をしていかなければいけないと思っています」
「つかえて安心」を開発した三菱UFJ信託銀行の櫨原大輔さん

金融庁によると、現在、家計金融資産の約3分の2を60歳以上の世帯が保有しており、今後、その比率はさらに増加する見込みです。判断能力が低下したり、身体が不自由になったりして店舗に行けず、お金の引き出しに困る高齢者の増加は、現実に起きている問題だと櫨原さんは言います。「これまでのように年齢で区切る時代ではなくなってくる。人ぞれぞれの認知能力に合わせた対応をしていかなければいけないと思っています」

信金OBがお金を守る

地域に根ざした信用金庫が、福祉のプロである社会福祉協議会とタッグを組んで、判断能力が低下した人の財産管理を支援する動きも出てきました。

一般社団法人「しんきん成年後見サポート」は、さわやか信用金庫、城南信用金庫など東京都品川区内に支店をもつ五つの信用金庫によって、2016年に設立されました。品川区社会福祉協議会と連携して、成年後見人などの受任を主な業務としています。

一般社団法人「しんきん成年後見サポート」は、さわやか信用金庫、城南信用金庫など東京都品川区内に支店をもつ五つの信用金庫によって、2016年に設立されました
「しんきん成年後見サポート」のホームページより

特徴は、信金OB・OGによって運営されているということ。24人のスタッフのうち、信金からの出向者を除く22人が65歳以上の元信金職員です。事務局長の平森均さんは、「お金のプロとして何十年もやってきた人ばかりなので、金融機関と同じレベルの厳格な財産管理を行っています」と話します。

信託銀行の店舗は少なく、都市部に限られるのに対し、信用金庫は街のあちこちにあります。しんきん成年後見サポートを構成する五つの信用金庫だけでも、都内と神奈川県内にある店舗数は300を超えます。「地域密着が信金の理念。窓口で認知症の家族の相談を受けたときに職員から紹介してもらい、安心して利用してもらえたら」と平森さん。判断能力があるうちに、本人の意向を家族や身近な人に伝えておくことも重要です。

認知症とお金の関係を考える

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