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なぜ、売れっ子マンガ家は介護とダブルワークを始めたのか。やりがいは?

『40代女性マンガ家が訪問介護ヘルパーになったら』の1コマ©吉田美紀子/双葉社
『40代女性マンガ家が訪問介護ヘルパーになったら』の1コマ©吉田美紀子/双葉社

ツイッターで認知症の人の視点に立ったマンガを発表して注目を集めている吉田美紀子さん。実は、本業のマンガ家に加えて、40代に入ってから介護職にも挑戦、今はダブルワークで働いています。前編に続き後編では、ここに至るまでの山あり谷あり、決して平坦ではなかったその道のりについて語っていただきました。

リハビリを兼ねて介護職員初任者研修を

――著書『40代女性マンガ家が訪問介護ヘルパーになったら』(双葉社)にも描かれていますが、5年前に介護ヘルパーの仕事を始めたきっかけは、本業であるマンガの仕事が激減したためだったそうですね。

吉田: そうなんです。4コマ雑誌の全盛期には毎月7~8誌で描いていたんですが、その後、雑誌の休刊と共にどんどん仕事先がなくなって。最終的に、連載は月に1本、2ページ程度になってしまいました。

それこそピークの時は忙しすぎて買い物にも行けず、山形の実家に「食べるものがないから送って!」と電話して、食材を段ボールで送ってもらうほどだったんですけど……。結局、連載1本では家賃すら払えないので、以降は貯金を切り崩して生活していました。

結婚を考えてお付き合いしていた男性もいたものの、少し前に別れてしまったため、なんとしてでも自活の道を見つけなきゃいけない。とはいえ、20年ものあいだ引きこもって漫画を描いていたので、まずはリハビリを兼ねて習い事でもしようと、旧ヘルパー2級相当の資格が取れる「介護職員初任者研修」を受けることにしたんです。

山形の母から「お前はマンガで頑張れ」

――当時、お友達のマンガ家さんたちも、似たような状況の方が多かったのでしょうか?

吉田: 私のまわりでは、今は完璧にマンガとは縁が切れてしまって、宅配便の仕事や事務系の仕事に就いた人が多いですね。私も最初は「両親も80歳を超えているし、地元に帰って就職するのもいいかも」と思っていたんです。

ところが、先に母から「もうこっちには働く場所がない。お前の同級生も、みんな仕事を求めて引っ越した。お前はマンガで頑張れ」と言われてしまって。帰る場所がないという現実に唖然としました。親にはとても本当のことを言えず、「仕事は順調」と嘘をついて電話を切った記憶があります。(笑)

『40代女性マンガ家が訪問介護ヘルパーになったら』の1コマ©吉田美紀子/双葉社
『40代女性マンガ家が訪問介護ヘルパーになったら』の1コマ©吉田美紀子/双葉社

――わかります。親には心配をかけたくないですよね……。吉田さんが受けたという初任者研修の費用は、どれくらいかかるものなんですか?

吉田: 私が通っていた時は60,000円でした。1か月で資格が取れるコースと、週1回で4か月かけて資格を取るコースとがあり、私は後者を選びました。同じ内容でもそれぞれクラスの雰囲気が全然違って、1か月の方は熱気がすごい(笑)。皆さん「即、仕事に活かすために来た!」という感じで、顔つきが真剣なんです。それに比べて週1コースの方は、「将来何かの役に立つかも」とのんびり通っている感じの、40代くらいの主婦が多かったような気がします。

大きなやりがいを感じた訪問介護

――研修終了後、吉田さんの初仕事は「訪問介護」でした。

吉田: いきなりフルタイムだと怖いので、最初は短時間でできて、こちらの都合に合わせてくれる訪問介護がいいかなと思ったんです。自分で調べて面接に行きました。ひととおり質疑応答が終わった後で「何日から働けますか?」と聞かれた時は、「採用された、良かった~!」とホッとしたことを覚えています。

高齢者のご自宅にうかがう訪問介護は、実際にやってみたらものすごく楽しくて。皆さん歓迎してくれるし、何よりこちらが身の回りの世話をすることを、本当にありがたがってくれるんです。「私は役に立っているんだ」と素直に受け取れ、大きなやりがいを感じました。

しかも本人も認知症なのに、私が「まだ独身なんですよ~。アハハ!」なんて言うと、親身になって話を聞いてくれるんです。優しくされて、心がほっこりすることが多かったですね。

なかにはセクハラをしてくる男性もいます。そういう時は腹が立ちますけど、むこうにも同情すべき部分とか、それまで培ってきた生活があるので、無下に拒絶するのもなんだかなあという(笑)。それほど悪質な人ではなかったので、こちらも適当にかわして乗り切りました。

――介護の仕事をされている方たちは、吉田さんのように異業種から転職してきた人も多いのでしょうか?

吉田: そうですね。以前は普通にOLやってましたという人、丸の内でバリバリ働いていた人、水商売をやっていた人など、いろいろな人がいます。会社から突然解雇されたとか、会社側の都合で辞めてほしいと言われたという人が結構いました。

そういう人たち、特に40代の女性がハローワークに行くと「まずは初任者研修を受けてください」と言われるんですって。事務の仕事を希望していても、まずはそれを受けるように言われると。40代だと、もう事務の仕事はないんですね。やっぱり若い人を取りたい会社が多いのだと思います。

難しいのは同僚との人間関係

――その後、吉田さんは訪問介護だけでなく、発達障がいのある児童のための発達支援事業所、病院での看護助手、介護老人福祉施設など、様々な施設でヘルパーをされています。仕事をしていて一番大変なのはどんな時でしょう?

吉田: やっぱり認知症で「徘徊」する人には心配させられますね。家に行っても留守で、鍵を開けたままどこかに行っちゃってるとか。足腰が弱いのにとんでもなく長い距離を「徘徊」する人もいるので、そういう時は脳の仕組みの不思議を感じます。

あと「徘徊」ではないですが、女性の場合、夕方になると落ち着かなくなる人が多いんです。主婦として台所に立っていた頃のことを思い出すみたいで。そういう人の口癖は「子どもがお腹すかせてるから」。夕方は主婦が忙しい時間帯だけに、そわそわしちゃうんでしょうね。

――認知症になっても、我が子を気にかけているとは切ないですね……。他の部分で大変なことはありますか?

吉田: 基本的に利用者さんとの関わりで辛いとか、大変だと思うことはほとんどないんです。難しいのは職場の同僚との人間関係ですね。やめようかどうしようか悩むことが多かったです。どこの職場にも1人はエキセントリックな人がいるので。

特にナースの中に必ずいるのが、一見優しそうなのに、人が傷つくようなことをバシバシ言ってくる人(笑)。看護助手をやっていた時は、2桁のスタッフが職場の人間関係を理由に辞めていきました。もっとも、何か月か我慢すると矛先が他の人に移るので、それまで辛抱できれば大丈夫なんですけど。

オムツ交換なんて絶対に無理だと思っていた

――吉田さんが介護ヘルパーの仕事を始めて5年。これまで様々な職場を経験されていますが、そこでの仕事はすべて初任者研修で取った資格でできるものなのでしょうか?

吉田: できます。なかでも看護助手の仕事にはもともと資格が要らないので、誰でも大丈夫です。現場では、着替え・お風呂・トイレ・食事の介助など、身の回りのお世話全般、つまり医療行為以外の部分を担当していました。

私はまだやったことがないのですが、介護施設では痰の吸引が必要な利用者さんもいます。私よりずっと前に介護の仕事を始めた介護福祉士さんは、昔は今のようにシステムが確立されておらず、看護師の独断で指示が来て、おそるおそる医療関係の処置をしていたと言っていました。

現在は介護の仕事も整備されてきたとはいえ、1人で多くの人を看なければいけない時間帯が必ずあるので、そこは責任重大だなと思っています。

『40代女性マンガ家が訪問介護ヘルパーになったら』の1コマ©吉田美紀子/双葉社
『40代女性マンガ家が訪問介護ヘルパーになったら』の1コマ©吉田美紀子/双葉社

――利用者さんの下の世話をすることに抵抗はなかったですか?

吉田: 最初はありました。私には潔癖症っぽいところがあって、本来は汚れを拭くためのウェットティッシュがないと外出できないような性格なんです。だから人のオムツを替えるなんて、絶対に無理だと考えていました。

なので訪問介護ではかなりハードルを下げてもらい、最初にやったのはリハビリパンツの交換。でも現場で指導してくれる先輩は、汚れたオムツだろうがなんだろうが、平気な顔でテキパキ交換しちゃうんですね。それを見ているうちに「そんなに汚い仕事ではないのかも……。とりあえず手袋もマスクもしてるから大丈夫!」と思えるようになりました。「まわりの人が普通にやっている」という状況は、すごく大きかったような気がします。

それでもいつの間にか訪問介護を始めて早5年。いろいろ大変なこともありますが、どんな経験もムダなにはならないと信じて、これからもマンガ家との二足のわらじで頑張っていこうと思います。(おわり)

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よしだ・みきこ
山形県生まれ。20代からおもに4コマ誌で活躍。40代に入ってからセカンドキャリアとして、介護の仕事を始める。現在は、介護の仕事を続けながら、双葉社、竹書房、ぶんか社、芳文社などの4コマ誌などのほか、自身のツイッターでも作品を発表している。近刊にコミックエッセイ『40代女性マンガ家が訪問介護ヘルパーになったら』『中年女性マンガ家ですが介護ヘルパー続けてます』(ともに双葉社)などがある。
Twitterアカウントは@YoshidaMikiko

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