お通夜で冷えた体と心にしみたスープ煮 認知症の母が喜ぶ毎日ごはん
撮影/百井謙子
フードライター大久保朱夏さんが、認知症のお母さんとの生活のなかで見いだしたレシピを紹介します。明日を生きるために、今日も母と食卓を囲みます。
※料理は普通食です。かむ力やのみ込みに配慮した介護食ではありません
実家は高度経済成長期に建てられた、横浜郊外の10階建ての団地にある。
私は団塊ジュニア世代で、小学校は1学年12クラスのマンモス校だった。同じ団地に大勢の子どもたちがいた。母は結婚前に大学図書館で働いていた経験を生かし、団地の集会所に「文庫」を開設し、子どもたちの場所をつくった。
介護のために実家に戻ってみると、当時の子どもたちは私と同じように巣立ち、ほとんどが高齢夫婦か独居の世帯になっていた。文庫は存続していたが、子どもの声は聞こえなくなり、音という音が吸い込まれているのではないかと思えるほどひっそりとしている。
ある年の3月のはじめ、隣の家のご主人が急逝した。
母は認知症という診断をされたばかりの頃、親戚の法事で場にそぐわない発言をしたことがあり、私はお通夜の参列に付き添うのをためらっていたのだが、本人の希望で出かけることに。
参列者の列に並び、お焼香を済ませたところで近所の方々が駆け寄ってくれた。「よく来たね」と、母の背中を何度もさすってくれ、母も近所の人も目を真っ赤にしている。私はお通夜に連れてきてよかったと安堵した。
帰宅して「たらとかぶのスープ煮」を食べながら、母は「食べると明日につながる気がするわね」と言った。寒い3月11日のことだった。
たらとかぶのミルク煮
やわらかくて、うまみのあるたらはスープ煮に。具が汁に浸かってしまうと食べるときに見えにくくなるので、スープの量は控えめにしています。ほんの少しのみそで味に深みが増します。
材料 2人分
たら 2切れ
かぶ 2個
ブロッコリー(ゆでたもの) 2房
牛乳 150ml
固形スープの素 1/2個
みそ 小さじ1/2
作り方
- たらはキッチンペーパーで水気をふき、食べやすく4センチずつほどに切り分ける。かぶは皮をむき、くし形に切る。ブロッコリーは細かく刻む
- 鍋に200mlの水と固形スープの素を入れて火にかけ、煮立ってきたら1を入れてふたをして2分ほど蒸し煮にする
- ブロッコリー、牛乳、みそを加えて混ぜ、ひと煮立ちしたら火を止める