幻の炒め物 ストレッチャーから母は手を振った 認知症の母が喜ぶ毎日ごはん
撮影/百井謙子
フードライター大久保朱夏さんが、認知症のお母さんとの生活のなかで見いだしたレシピを紹介します。あれも、これも。食べさせてあげたかった料理と、母との思い出が頭の中を巡ります。
※料理は普通食です。かむ力やのみ込みに配慮した介護食ではありません
母が3週間後に有料老人ホームに入居することが決まってから、いろいろ思いを巡らせていた。出発前日はデイサービスを休みにしてゆっくり過ごそう。母が好きな切り干し大根と根菜の炒め煮を多めに作り、食べ慣れた味を施設に持っていくつもりだった。
ところが母が突然、高熱を出した。昨晩まで元気に歩け、食欲も旺盛だったのに、体が硬直してベッドから起き上がれなくなり、救急車で総合病院へ。尿閉塞だった。そのまま入院になるのかと思いきや、救急の待合室で母が大声を出したことが問題になり、入院せず導尿するためのチューブを挿入して自宅に戻ることになった。
「誤ってチューブを引き抜いてしまうと出血の可能性がある」と、医師から言われ、ベッドの横でずっと見守っていた。私一人では対処できず、老人ホームへの入居予定日を繰り上げることに。施設では看護師が常勤し、主治医が往診もしてくれる。母はヨーグルトを食べるのもやっとという状態で、切り干し大根と根菜の炒め煮は幻になってしまった。
出発の朝、40年近く暮らした団地の玄関に母の友人が集まってくれた。ハンカチで涙をぬぐっている人もいる。母は介護タクシーのストレッチャーに横たわり、見送りの人に「行ってきます」と手をふった。
切り干し大根と根菜の炒め煮
切り干し大根とれんこんの食感が楽しめます。食物繊維がとれるので便秘予防でよく作っていました。ゆで大豆を加えることで、滋味深い味に。作り置きのおかずとしてもおすすめです。
材料 作りやすい分量
切り干し大根(乾燥) 25g
にんじん 4cm(30g)
水煮れんこん(スライス) 20g
蒸し大豆 80g
サラダ油 小さじ2
だし汁 250ml
しょうゆ 小さじ2
みりん 小さじ2
作り方
- 切干大根は水に浸してやわらかくして、水けをしぼる。にんじんはせん切りにする。れんこんはいちょう切りにする
- フライパンにサラダ油を敷いて1を中火で炒め、油がなじんできたらだし汁を入れ、しょうゆ、みりんで調味する。大豆を加えて強めの中火で煮る
- 煮汁が少なくなるまで煮て火を止め、しばらく置いて味をなじませる