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64歳の母にデイサービスは早すぎる? 娘がまんがで描いた家族の18年間

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若年性アルツハイマー病を患った母親の介護記録を、漫画エッセー『母が若年性アルツハイマーになりました。』にまとめた、イラストレーターのNiccoさん。当時64歳だった母雅子さんのデイサービス利用や進行する症状に葛藤する日々が、丁寧に描かれています。

デイサービスの利用を決意

Niccoさんの父・文雄さんは、主治医に介護保険の申請を勧められ、すでにケアマネジャーを探すなどの行動を起こしていました。文雄さんには以前、身内の介護を手伝った経験があり、その際に得た知識が役に立ったのです。

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「父が『お母さんをデイサービスに行かせようと思う』と言い出した当初、私は反対していました。デイサービス=80歳くらいの高齢者が利用する場所だと思っていたのです。でも父から『お母さんは前みたいに革細工ができなくなっているんだよ? だったら家にいて何をすればいいと言うんだ?!』と言われ、そうよね……と納得しました」とNiccoさんは言います。

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雅子さんが手作りした革の髪留め。デイサービスに行く頃は、もう作れなくなっていました

2005年2月、64歳になった雅子さんは、自宅から車で15分ほどの場所にあるデイサービスに通い始めます。週に1度、朝9時から夕方4時までの時間をそこで過ごすことになりました。

「母には『お年寄りが集まるお宅に、お手伝いをしに行ってもらうからね』と話していました。10名ほどの他の利用者さん、スタッフさんたちとパズルや塗り絵、体操を楽しみながら、昼食の準備などの手伝いをしていたそうです。父から『デイサービスが気に入って、休みの日も行きたがっているよ』と聞き、まだ早いと決めつけていたことを反省しました。それに母が楽しく過ごせる場所があれば、父も安心できますしね」

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雅子さんがデイサービスで制作した塗り絵。特徴ある葉の塗り方は、革細工を思い起こさせます

「家族の会」との出会い

雅子さんがアルツハイマー病と診断されてから丸2年。「要介護1」と認定され、デイサービスに週4~5回通うようになっても、外からは一見病気だとわからないくらいだったといいます。しかしこの後、症状は一気に進み、要介護のランクも3になります。

「家族で外食に行った際、別のテーブルのお皿に手をかけたり、デイサービスで暴言を吐いたり、外に出たがって騒いだり……。かと思うと、スタッフさんの前で『こんなふうになってしまってお父さんに申し訳ない。死にたい』と泣いたこともあったようです。一方、私はといえば『なんでお母さんがこんな目にあうの?』『あんなお母さんは見たくない』という気持ちと、『病気なんだから仕方がない』『本人が一番大変なんだから』という気持ちとの間を行ったり来たり。申し訳ないとは思いつつ母のことは父に任せっきりで、実家からも徐々に足が遠のいていきました」

そんな時に出会ったのが「公益社団法人 認知症の人と家族の会」でした。地元の千葉支部が企画した医師の講演会を聴きに行った文雄さんは、その後すぐに会のメンバーになることを決めたのだそう。

「父から『医師やケアマネジャーではなく、自分たちと同じ“家族”と交流できるんだよ』と聞かされた時は、目の前に新しい扉が開いた気がしましたね」とNiccoさんも当時を振り返ります。

そしてこの会との出会いが、後に本の出版にもつながっていくのです。

大変だった排せつケア

2007年4月、66歳になった雅子さんは、歯磨きをしなくなりました。そして5月には要介護4に。この頃から世話をする文雄さんの負担は、加速度的に大きくなっていきます。雅子さんは紙パンツを着用するようになり、文雄さんは雅子さんの入浴をデイサービスに頼むことに。

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「もっとも大変だったケアは排せつです。父は母に布の下着を使わせたがっていましたが、デイサービスからの薦めで紙パンツを履かせることを決めたのです。ただ、この紙パンツも、取り換えるのがまた一苦労なんですね。父が入院した時、私が父の代わりに母をみたことがあったのですが、便をした後でお尻をキレイにしようとしても逃げ出すし、そのままリビングを歩き周りながらお漏らしをするし。子どもたちが幼かった頃の、トイレトレーニングを思い出しました。と同時に、父は毎日この世話をしているのかと思うと、尊敬の念を覚えるやら申し訳ないやらで……」

母を理解するきっかけは…

2008年の夏、文雄さんは「認知症の人と家族の会」から「センター方式」と呼ばれるシートへの記入を依頼されました。認知症の人の状態を把握し、ケアに生かすための用紙です。「生活史」「24時間の気分の変動」など16種類があり、家族や介護関係者が書き込みます。Niccoさんは文雄さんを手伝い、2人の共同作業でシートを作成していきました。

「16ページもあるので記入は大変でしたが、母がイキイキと活動していた時のことを思い出しながら書くのは、悲しくもあり、楽しくもある作業でした。そして母がこれまで歩んできた人生を知ることで、病気になってからの母の行動が理解できるようにもなりました。母が本を破いたり、ジグソーパズルのピースやお人形をバラバラに分解したりしているのを見て、私たちは『壊している』と思っていましたが、母の中では『作る』行為だったんです。母には母なりの意味があって行動していたんですね」

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野島朋子さん_500
Niccoさん
イラストレーター、造形作家。多摩美術大学卒業後、企業の宣伝企画課、デザイン事務所勤務を経て、出産を機にフリーランスに。現在は「子どもアトリエ」講師としても活動中。夫、娘、息子の4人家族。千葉県在住。

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