私を様付けで呼ぶ母への温かいサラダ 認知症の母が喜ぶ毎日ごはん
撮影/百井謙子
フードライター大久保朱夏さんが、認知症のお母さんとの生活のなかで見いだしたレシピを紹介します。二人の日々の付き合い方とは?
※料理は普通食です。かむ力やのみ込みに配慮した介護食ではありません
こうやって自分で文字にするのは気恥ずかしいのだが、母は私のことを「大久保朱夏様」と「様」をつけて呼ぶ。いつからだったか私にも思い出せない。
私は母の中で「親切な友達で、料理研究家の大久保朱夏様」になっていた。親子であることを忘れてしまっても、「様」をつけて敬ってくれているのだからよしと割り切ることにした。
ある夜、新じゃがとたこの温かいサラダを夕食に出したら喜び、「こんなにいい人と、どこで知り合いになったのかしら?」と母は私に質問してきた。
「さあ、どこだったかしら? 長いお付き合いの気がするわね」と笑いながら返す。
と、こんな和やかな日ばかりは続かず、症状の波は大きくて「お前なんか出ていけ」「もう二度と来るな」と激しい言葉を浴びせられる日もあった。
このまま出ていってしまおうかと何度も思ったが、穏やかな日は「大久保朱夏様のごはんはおいしい!」「料理研究家の味つけは、さすが」「料理の手際がいい」と口に出して言ってくれたので踏みとどまることができたのだと思う。
同居介護1年で、やせ細ってしまった母の体重が5kgほど増えた。
いち早く春を感じてもらいたくて2月に作ったのが「新じゃがとたこの温かいサラダ」。ゆでだこの赤色と菜の花の緑色のメリハリが効いた組み合わせは、母が好んでいた。
新じゃがとたこの温かいサラダ
新じゃがはやわらかくゆでて少し崩して、たこにまとわせるようにして、しっとり仕上げます。熱いうちにレモン汁で香りをつけると風味よく仕上がります。
材料 作りやすい分量
新じゃが 3個(260g)
ゆでだこ 120g
菜の花 4本
レモン汁 小さじ1
オリーブオイル 小さじ2
塩・粗挽き黒こしょう 各少々
作り方
- たこは7~8mm幅に、菜の花は3等分に切る
- 皮をむいた新じゃがを一口大の乱切りにして水からゆで、やわらかくなってきたら菜の花を加えて一緒にゆであげる
- ゆで汁をきり、ふたをして軽くゆする
- 3の鍋に1のたこを加え、レモン汁、オリーブオイル、塩を入れて和える
- 器に盛り、粗挽き黒こしょうをふる