会話がかみ合わない母を元気にするレシピ 認知症の母が喜ぶ毎日ごはん
撮影/百井謙子
フードライター大久保朱夏さんが、認知症のお母さんとの生活のなかで見いだしたレシピを紹介します。吐き出された「ネガティブな言葉」にあたらないようにするにはどうしたら?
※料理は普通食です。かむ力やのみ込みに配慮した介護食ではありません
実家に戻って認知症の母を介護することになり、最初に戸惑ったのは会話が通じないことだった。「いい天気だね」と言っても「人が来てうるさい」とチグハグなことを言う。口を開けば「夫ががんで死んだ」「十二指腸潰瘍で手術をした」と過去のつらいできごとばかりを繰り返す。食卓に向かい合って座っていると、吐き出される母の「ネガティブな言葉」に私の方があたってしまう。どうしたら今を生きてもらえるのだろう。
ある日、数値で示せないかとひらめいた。
「今の元気度は何%? 病気で寝ているのが0%で、飛び上がるくらい元気なのが100%だとしたら、今は何%?」
0%は顔をしかめ、いかにも具合が悪そうな感じに、100%は両手を挙げてバンザイをして演技をしながら尋ねる。的外れな答えが返ってきたら、「今だよ、今のことを教えて」と言って、もう一度、同じ質問を繰り返す。母とチューニングしていくような感覚だ。
「100%まではいかない」と、数値の手がかりをつかめたらこっちのもの。「ということは、90%?」とさぐりを入れてみる。そのうち微妙な差を母が自分で感じ取れるようなり、65%などと数値を刻むようになった。
元気度が50%以下のときは不穏で介護もうまくいかない。50%以上なら食前より食後に数値が上がり、100%に近づくことにも気がついた。
人間、食べればなんとかなる。
母は、にんじん料理が出てくると、「見るだけでおいしく感じる」と表情がおだやかに。
「にんじんしりしり」は、元気度アップメニューとしてよく作っていた。
にんじんしりしり
にんじんしりしりは沖縄の郷土料理。かつおだしを含ませて味をしっかりつけるので、冷めてもおいしく常備菜にもなります。にんじんは焦がさないように炒めて甘さを引き出しましょう。
材料 作りやすい分量
にんじん 2本(300g)
サラダ油 大さじ1
塩 少々
かつおだし 100ml
溶き卵 2個
作り方
- にんじんは、しりしり器(またはスライサー)でせん切りにする
- フライパンにサラダ油を熱し、にんじんを弱めの中火で炒め、塩をふってさらに炒める。にんじんがしんなりとしてきたら、かつおだしを数回に分けて加え、炒めながら含ませる
- 溶き卵を回し入れ、しばらく置いて半熟に固まってきたら菜箸でほぐす