認知症とともにあるウェブメディア

副業ヘルパー

どんどんヘルパーに任せて! 介護を人に頼るのは悪いことじゃない

陰洗ボトルはペットボトルで作ることが多い。フタに穴をあけ、シャワーのように使う
陰洗ボトルはペットボトルで作ることが多い。フタに穴をあけ、シャワーのように使う

新卒で入社した出版社で、書籍の編集者一筋25年。12万部のベストセラーとなった『87歳、古い団地で愉しむ ひとりの暮らし』(多良美智子)などを手がけた編集者が、40代半ばを目前にして、副業として訪問介護のヘルパーを始めました。今回は、ヘルパーとして働きながら考えた「介護を人に頼るということ」についてです。

同居や近居のご家族がいてもヘルパーを利用される方は多い

私の所属する訪問介護事業所には、100人以上のお客様がいますが、生活の状況はそれぞれのようです。身寄りがなく一人暮らし、親族がいても遠くに住んでいるという方がいる一方で、ご家族が同居している、同居ではないが近くに住んでいるというケースも少なくありません。実際に、少ないながら私がこれまで担当してきたお宅も、完全な一人暮らしより、家族と同居あるいは近居というお客様が多かったです。

思った以上に介護は長引き、またどんどん大変になるもの

現在90代のお客様のAさんは、最初、近所に住む息子さんが介護を担われていました。「最後の親孝行」という気持ちで、きっと通われていたのだろうと思います。「限られた期間だ」とも思われたのでしょう。
ところが、これは私自身ヘルパーになって実感したことなのですが、介護期間は思った以上に長くなることが多いです。私の事業所でも、お客様となって早5年という方はまったく珍しくありません。10年近い方もいらっしゃいます。認知症もアルツハイマー型だと、進行はゆっくりのようです。私の義母もアルツハイマー型認知症で、5年ほど前に要介護1の認定を受けましたが、いまだ要介護度は変わっていません。認知症に限らず身体的な衰えも、ご病気がある場合などは別にして、少しずつ進んでいく印象です。結果的に、要介護の期間は長くなっていきます。

しかし、いかにゆっくりとはいえ、確実に衰えは進行します。介護期間が長くなるにつれ、当初と比べて介護はどんどん大変になってくるのです。
Aさんの息子さんも、やはり長引く介護に心身ともに疲れ、訪問介護に助けを求められたのでした。Aさんをうちの事業所で担当することになって、8年ほど経ちます。このように、介護は長いのです。ヘルパー利用を選んだ息子さんのご判断は、賢明だったかと思います。

おむつ交換はせずとも、介護にはいろいろな形がある

訪問看護による入浴介助はよくある
訪問看護による入浴介助はよくある

お客様のBさんは完全寝たきりの方で、夫のCさんが同居されていました。いわゆる老老介護です。しかし、Cさんは介護をおひとりで背負うのではなく、外部を頼ることで上手にご自分の負担を軽くなさっていました。
おむつ交換は、すべてヘルパーにお任せ。入浴は訪問看護に。かわりに、我々ヘルパーや訪問看護師さんが「動きやすい」ように、サービスの環境を完璧に整えてくださっていました。
具体的には、おむつ交換に必要なもの(おしりふきや陰部を洗浄する陰洗ボトル、替えのおむつ・尿パッド、おしり周りに塗る薬など)を一式、ベッドサイドのカートにそろえ、すぐにサービスにとりかかれる状況になっていました。おむつ交換のサービスは準備から始まることが多いので、これは本当に助かりました。体位交換の際も積極的に手伝ってくださり、ありがたかったです。
また、固形物の食事が難しくなったBさんのため、飲み物で栄養がとれるよう、ヨーグルトドリンクにしたり、果物のスムージーを作ったり、いろいろ工夫されていました。お部屋も素敵に整え、Bさんの好きな音楽がいつも流れていました。
おむつ交換をしないという一点で、介護をしていない、とはなりません。こうした細々したケアも、立派な介護です。介護職を助けてくださるのも介護。なにより、一緒に暮らして、奥様のご様子に目を配られていることが、介護そのものではないでしょうか。「介護を外に頼む」というのは、決して悪いことではないし、愛がないということでは決してないと思っています。

介護するのがヘルパーの仕事、遠慮なくお任せください

このように、ご家族が同居でも近居でも、訪問介護を受けることは、もちろんできます(同居の場合、「生活援助」については利用の制限があります)。そもそも介護保険制度が作られた理由のひとつが、家族の介護負担を減らすことだったのですから、大いに利用していただきたいところです。
しかし、まだまだ「介護は家族で」という感覚も、根強く残っているようですね。遠くに住んでいるならまだしも、近くに、ましてや一緒に暮らしているなら、自分がやらなきゃ…そんなふうに家族が介護を背負い込んでしまう例を、身近でもたびたび見聞きしました。

実は、私の父も数年間、認知症の母をひとりで介護していました。私が何度、介護サービスの利用をすすめても、「自分でやれるから」と、かたくなでした。しかし、母の介護度がいよいよ重くなり、ついにギブアップ。ヘルパーさんに毎日のように入ってもらうことで、父に余裕が生まれ、母へやさしい気持ちを持てるようになったのでした。
「ヘルパーさん、いいものだね」とうれしそうに言っていた、父の明るい声音が印象的でした。それが、私がヘルパー職をめざしたきっかけでもあります。

介護を全部背負うことだけが、愛ではないと思います。もし、おむつ交換が負担であるなら、どんどんヘルパーにお任せください。「家族の下の世話をよその人に頼むなんて申し訳ない…」と思われるでしょうか。まったくそんなことはありません。仕事ですし、慣れています。むしろ、私はおむつ交換が好きです。ヘルパーとして「お役に立てた」と、もっとも実感できるサービスです。さらに言えば、身体介護であるおむつ交換が入る訪問は、時給が高くなるので、その点でもウェルカムなのです。

介護をひとりで背負い、それが長引き疲弊していくことで、ご家族に憎しみがわいてきたら、とてもつらいことです。介護を誰が担うか否か、それよりも大切なのは、ご家族に愛情を持ち続けていただくことじゃないかなと思っています。

あわせて読みたい

この記事をシェアする

この連載について

認知症とともにあるウェブメディア