「ヘルパーさんが帰るとモノがなくなる」と母 家族の対処法は【お悩み相談室】
構成/中寺暁子
認知症介護指導者の白石昌世司さんが、高齢者や介護の様々な悩みに答えます。
Q.父と2人暮らしの母(70代)は、脳梗塞で右側の手足に麻痺が残り、訪問介護を利用しています。ヘルパーさんと相性がいいようで安心していたのですが、ある日、母から連絡がきて「ヘルパーさんが帰るとモノがなくなる」と言われました。父は取り合ってくれないようで、どう対応すべきでしょうか(50代・女性)
A.やるべきこととしては、まず2つあります。1つはケアマネジャー、あるいはこのヘルパーさんが所属している事業所にお母さんの訴えや状況を報告することです。ありがちなケースとして、利用者の方からヘルパーにモノをあげて、その事実を利用者の方が忘れてしまうということがあります。通常ヘルパーは断って受け取らないのですが、慣れ親しんだ間柄になり受け取ってしまったことも考えられます。
もう1つは、お父さんにお母さんがなくなったと言っているモノが、本当になくなっているのか、探しても見つからないのかということを確認することです。
認知症になると「もの盗られ妄想」といって、お財布など大事なモノをどこに置いたのかを忘れてしまい、「誰かが盗った」と思いこんでしまうことがあります。特に疑われやすいのが、家族や頼りにしているホームヘルパーなどです。そこで気になるのが、お母さんが脳梗塞を起こしたことがあるという点です。「血管性認知症」といって、脳梗塞が原因で認知症を発症することがあるからです。お母さんは脳梗塞の発症後、認知症のような症状は出ていなかったでしょうか。また、お母さんはいつ頃から「モノがなくなる」ということを感じていたのでしょうか。細い血管が詰まる小さな脳梗塞は、症状がなく再発を繰り返しやすいという特徴があります。小さな脳梗塞が起きたときに、認知症の症状が出るということもあるのです。血管性認知症の初期段階では、症状の一つとして記銘力や遂行能力は低下しているのに、判断力や専門的知識は保たれている、時間帯によって症状やできることが変わるというような「まだら認知症」と言われる症状が見られる場合もあります。
つまり、今回のお母さんの言葉は、小さな脳梗塞が原因になっている可能性もあると思います。このため、主治医に一度相談することをおすすめします。CT検査などで新たな脳梗塞が見つからなければ、ほかの可能性が考えられます。例えばお母さんのように病気を発症してからだが不自由になると、それを受け入れるのに時間がかかることがあります。気持ちの落ち込みが激しく、周りが心配して病院を受診させたらうつ病を発症していたということもあります。うつ病になると妄想の症状が出ることもあります。この場合は治療で改善する可能性が高いですし、本人のつらさも軽減するかもしれないので専門医に診てもらうことをおすすめします。
いずれにしてもお母さんに変化が起こっている可能性があるので、これまで以上にお父さんやケアマネジャー、ヘルパーなど専門職とともにお母さんのことを気にかけてほしいと思います。
【まとめ】「ヘルパーさんが帰るとモノがなくなる」という母。どう対応すべき?
- ケアマネジャー、あるいはヘルパーが所属している事業所にお母さんの訴えや状況を報告する
- お父さんにお母さんがなくなったと言っているモノが、本当になくなっているのか、探しても見つからないのかということを確認する
- 小さな脳梗塞を起こしているなど、脳に変化があるかもしれないので、主治医に相談する
≪お悩みの内容については、介護現場の声を聞きながらなかまぁる編集部でつくりました≫