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副業ヘルパー

ベッドが動くことで助かることあれこれ 介護の便利道具の活用法

介護ベッド。手元スイッチで高さや角度を調節できる
介護ベッド。手元スイッチで高さや角度を調節できる

新卒で入社した出版社で、書籍の編集者一筋25年。12万部のベストセラーとなった『87歳、古い団地で愉しむ ひとりの暮らし』(多良美智子)などを手がけた編集者が、40代半ばを目前にして、副業として訪問介護のヘルパーを始めました。今回は、ヘルパーとして働く中で知った、介護の負担を減らす便利な道具についての2回目です。

ベッドが低いと無理な姿勢でおむつ交換することになる

前回、介護の負担を軽くする道具について書きましたが、「介護ベッド」はその最たるものだと思います。介護ベッドとは、電動でマットレス部分の高さや角度を変えられるものです。
介護業界に入るまで、介護ベッドの存在は知っていたものの、その「動く」機能の意義は、私自身、あまりわかっていませんでした。上半身を起こせれば、ベッドにいたまま食事をとれるなどして良いのだろう、くらいの認識でした。
しかし介護職員初任者研修で、介護ベッドの使い方を教わる中で、介護をする側にとってベッドの高さ調節がいかに大切か、知りました。

介護の仕事では、ベッドに横になられた状態でのおむつ交換や更衣(着替え)をする機会が多いのですが、このとき無理に「かがむ」姿勢をとると、腰を痛めることにつながります。それを避けるため、膝を曲げて重心を落とす「ボディメカニクス」の重要性を教えられました。そして、先生が「実はこっちが、より大きなポイントです」と言われたのが、「ベッドの高さを上げる」ことでした。
通常のベッドの高さは、端座位(ベッドの端に座る姿勢)になったとき、足が床につくくらいの高さです。床から40cmくらいでしょうか。けっこう低いです。この高さでおむつ交換をしようとすれば、腰に負担がきます。かといって、重心を落とすためにずっとスクワットの姿勢を続けるのもきついことです。おむつ交換は1分や2分で終わりませんから…。
そこで、自分の体を低くするのではなく、ベッドの方を高くしてしまいます。20~30cmほど上に上げると、ラクな姿勢で作業を行えるのです。
実際に試してみて、体感しました。とくに私は比較的背が高い(168cmあります)ので、ベッドが低いとかなりかがみ込むことになり、「う、腰をやられそう…」。ベッドを高くしたとたんに「あ、これは全然ラク!」。その違いに驚きました。介護ベッド、すごい発明品だ!!

介護ベッドの高さは、手元スイッチで調節します。「上がる」ボタンを押せば、少しずつ上に上がっていき、反対に「下がる」ボタンを押せば、少しずつ下がります。
高さ調節が生きてくるのは、おむつ交換や更衣のときだけではありません。ご本人が端座位から立ち上がるとき、少しだけお尻が持ち上がるように座面を高くすると、足腰の弱った方でも立ち上がりやすいのです。

「持ち上げない」介護をするために、福祉用具を徹底活用

「いかに体に負担をかけない介護をするか」ということが、現在、介護業界の大きなテーマになっています。
私の所属する訪問介護事業所では、定期的に研修を受けることになっているのですが、先日ノーリフティングケアに関する研修がありました。
「ノーリフティング」とは、「持ち上げない」。ノーリフティングケアとは、つまり、力技で体を持ち上げたり、抱え上げたりしない介護、ということです。
力技がダメなのは、初任者研修でたっぷり習いました。私はわかっていることだわ、と思っていたら…。まったくの不勉強でした。私が初任者研修を受けた4年前より、介護技術はさらに先へ進んでいたようです。

ノーリフティングケアは、オーストラリア発祥とされている、介護や看護における腰痛予防対策とのことです。日本では「ノーリフト」は、日本ノーリフト協会が商標登録している用語です。
オーストラリアでは、体に負担をかけない介護の仕方が徹底しているそうですね。同国では、単に「持ち上げない」を標語にするのではなく、そのために人力に頼らず福祉用具を使いこなしましょう、と提案しているようです。
介護ベッドでは、高さ調節機能を使うのは当然として、上半身を起こすリクライニング機能も活用していきます。ベッド上で自力での起き上がりが難しい方の場合、介護者が上半身を支え、てこの原理で上体を起こす方法を初任者研修で習いました。現場でも実践しています。しかし、ノーリフティングケアでは、リクライニング機能で上体をほとんど起こしてしまいます。
あぁそうか…! 言われてみれば、介護ベッドにはリクライニング機能があるのだから、それを初めから使えばよかったのですよね。コロンブスの卵的発想です。

訪問介護の現場では介護ベッドが必ずあるわけではない

ただ、これは根本的なことなのですが、老人ホームなどの施設介護と違って、訪問介護の場合、すべてのお宅で介護ベッドが使われているわけではないのですね…。私が訪問している中でも、通常タイプのベッドのため、高さを動かすことができないお宅があります。結局は初任者研修で習ったボディメカニクスの実技を使わざるを得ず、なかなか理想通りにはいきません。
個人のお宅だと、便利な福祉用具をどれだけ導入するかは、ご家族の考えによります。すべてのご家庭で備えてもらうのは難しいところです。
ちなみに介護ベッドは、要介護2以上であれば、介護保険でレンタル可能です。月額1000円前後のようです(1割負担の場合)。
その他、前述の事業所の研修では、「スライディングシート」の使い方も教わりました。「スライディング=滑る」で、表面がツルツルした布です。
ベッド上で体を横や上方に移動したいとき、あるいはベッドから車椅子に移乗したいとき、体の下にこのシートを敷けば、力を入れずに、スーッと動くことができます。これもまた、「持ち上げない」介護の発想です。
介護される側の役で、実際に試してみました。わ、少しの摩擦もなくスルッと動いていく! 簡単にベッドから車椅子に乗り移ることができました。
福祉用具は介護をする側だけでなく、介護される側にとっても体の負担を軽くしてくれるのだなと、身をもって知ることができました。

ベッドから車椅子への移乗も、スライディングシートでラクに
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