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コマタエの 仕事も介護もなんとかならないかな?

母がデイから無事に帰宅して「ホッ」 そこから始まる一大イベント

駒村多恵さん
駒村多恵さん

タレント、アナウンサーとして活躍する“コマタエ”こと駒村多恵さんが、要介護5の実母との2人暮らしをつづります。ポジティブで明るいその考え方が、本人は無意識であるところに暮らしのヒントがあるようです。今回は、月に1度のケアマネ訪問時のお話です。

ケアマネさんの定期訪問

月に一度のケアマネジャーさん訪問の日。いつもデイサービスから母が帰宅して一息ついた時間に来てもらっていますが、この日はたまたま送迎の車が遅れて、ケアマネさんの方が早い到着。一緒に母を迎えました。
「おかえりなさーい!」
母の元気な姿を見ると、みんな自然と笑顔になります。毎日無事に帰ってきてくれることがどれだけ幸せなことか。日を重ねるごとにその喜びは増すように思います。

帰宅すると一大イベント、移乗です。外用の車いすから室内用車いすに乗りかえるのですが、私が股関節と半月板を断裂して以降、デイサービスの職員さんが移乗を手伝ってくださるようになりました。向かい合わせに車椅子を置いて、母を180度回転させるわけですが、介護度が上がるにつれてお尻が重くなり、足の運びも悪くなって、膝がガクッと落ちたり、つま先が床から離れなかったりして、なかなかすんなり回転できません。上半身は回転できたとしても、足がついてこないと、足首がクロスしたままの状態です。そのまま無理に座らせると捻挫しかねません。二人体制だと、一人が母を回転させ、もう一人がお尻を支えてアシストし、90度くらい回転したところで足首のクロスを解けば比較的スムーズに移乗できます。座った後も、姿勢を整えることが大事です。だいたい浅座り、つまり、座面の前の方に腰を下ろすことが多いので、腰がしっかり奥まで入るように座り直します。しかし、そのたった数センチが驚くほど動かない。お尻を持ち上げることは想像以上に大変なのです。

移乗するひと、Getty Images
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「せーの!」
掛け声を合図に二人でお尻を持ち上げて、お尻をグッと奥へ。介助者も母も、やや息が上がります。
そんな一部始終を見ていたケアマネさんは「いやー、本当に一大イベントですね。私はもうできないわ!」。ケアマネになって20年近いという方。元々はヘルパーをされていたのですが、先日、ベッドの下で動けなくなった方から助けて欲しいと連絡を受けて行ったけれど、全然できなかったとおっしゃっていました。どこかで聞いたような話…先日私も経験済みです。一日に何度も移乗する中の、1回だけでも手伝ってもらえると、随分負担が軽減するように思います。利用者本人だけでなく、介護者の健康を考えて手伝うことを買って出てくださっているデイの皆さんには本当に感謝しています。

デイの方が帰られると、そこから、しばし母が歩いていた頃の昔話へ。デイから帰宅すると、送ってくれた職員さんを見送りたいと、自宅に一旦入るものの、すぐ外に出て、来た道を一緒に戻り、エレベータまで行って、扉が閉まってエレベーターが下りて見えなくなるまで手を振ってお辞儀をしていました。
「せっかく部屋まで送ったのにって、職員さんは毎回苦笑しながら帰ってましたよね」
「そうそう。絶対お見送りしたいって聞かないから!」
歩くのが大変になってくると、エレベーターまでは行かず、自宅の前から見えなくなるまで見送っていました。そして、自宅前に出なくなったとき、見送りたい気持ちよりも体力の衰えが勝ってきたんだなと客観的に母の衰えを認識し、寂しさを感じたこと覚えています。

マンションの廊下、Getty Images
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「その後もいろいろありましたね」
「気乗りしない日は、『今日はお断りします』って勝手に断ったり」
「あったあった! どうしましょう?って、デイの方が電話くださってねー」と、当時アタフタしたことを回顧していると、目を瞑ってウトウトしていた母が、カッとを目を見開いて「うー」と唸り声を上げました。
「わ! ごめんごめん。悪口じゃないからね」
「そうよー、思い出に浸っていただけなのよ。気を悪くしないで~」
ご機嫌を取りながら笑い合って、今月の訪問は終了。また来月よろしくお願いします!

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